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The 5th episode
5
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「また呼びます」
昼飯を全額奢ってくれて、そして今、ゼウスの駐車場にいる。本当にそれで終わってしまった。
「…そうですか」
「疑問は?」
「え?」
「いや、どうやって?とかさ」
「…別に」
「冷たいなぁ…」
ふいにぐっと、鮫島に右手を捕まれた。
肩に手を置き、内緒話をするように耳元で言われた。
「俺はしつこいんだよ、流星くん」
背筋が凍るかと思った。その声とその目に、反射的に突き飛ばしてしまった。
「…あんた…」
「酷いなぁ…またね」
先程までの殺気を打ち消すような笑顔で言われ、恐ろしくなってすぐさま車から出た。
…バレてる。
何故だ?
今回の會澤組の潜入捜査は俺と、5課の一部しか知らない。
やはり鮫島が言っていた通り…。
だとしたら、なかなか鮫島は難航しそうだ。
「あぁ…」
クソっ…!
これはあと一歩踏み込みたかった。だがどうやら一度この会社とは距離を取った方が良さそうだ。
厄介なやつを敵にまわしたらしい。
未だ謎のまま。何故會澤組と手を組んでいるのかすら見えてこない。
多分この会社には何かがある。分かっていたがただの証券会社じゃない。
少し、ほんの少し。
怖い。だが上等だ。
いつか必ず追ってやる。それにはまだ、時間が掛かる。
まずは會澤組に戻ろう。
5課に一度、終わったことを連絡し、政宗にも直接電話を入れた。
「もしもし」
『おぅ、どうした?』
「…調べて欲しい」
『…だと思った』
「…国立帝都大学の、谷栄一郎と、教授らしいが“ミノハラ”と言う学者を…」
『分かった。お前、今日は戻るのか?』
「あと少し」
『あ、内線入ったわ…。
じゃぁ、気を付けて』
電話を切った。
続けてケータイを代えて會澤に連絡をする。ヤケに落ち着いた様子で、「無事に戻ってこい」と言われた。
なんだ?なにかが不穏だ。
まぁいい。
最後に自分のケータイから高田に、今から會澤組に行き、検挙する旨を伝えて電話を切った。
作戦を考えなければならない。
これで今日、會澤組を検挙したとしたら。
ArtemisとHestiaをどうしようか。
取り敢えずこのまま、影響が出るまで続行しようか。
なんせ表向きは、Hestiaの経営者はArtemis経営者の愛人だ。あくまでも龍ヶ崎連合会の會澤組は両店の出資者となっており、出資にはゼウスも荷担している。
もう少し洗えそうか。
ただ、ゼウスが會澤組を切る理由がエレボスだとしたら、ホストクラブへのこれ以上の潜入捜査は意味がないし、返って危険かつ、ウチの管轄外になってくる。
一か八か。
なんとも言えない賭けではあるがなんとなく、霧の中に手を伸ばして少し振り払ってみてから思うのは、ゼウスはエレボスと繋がっている気がする。今回會澤組を切るのも、一番不利になった組織を早々に切ってしまっただけのように思う。
となると谷サイドも洗いたい。
谷は果たして會澤組以外に、どこから資金とヤクと資材を得ていたのか。
そもそも始め高田は、會澤組は泳がしておく体であった。それが突然の検挙。
身の危険を察したのだろうか。なんせ會澤組を叩くのはまだ、早い。
…さて。
俺が早いか、5課が早いか。取り敢えず俺は會澤組の事務所を目指そう。
公園から出てタクシーを拾い、事務所付近の住所を指定して降りた。
少し回りを見てみたが、覆面すら止まっていなかった。これは俺の方が早かったな。
そもそも本当に5課は来るのだろうか。少し疑問になってきた。まぁ、来るように、「お宅の案件」と言ったのだが。
事務所に入ると、會澤がデスクで俺を待ち構えていた。
「おかえり」
「ただいま戻りました…」
どうも會澤の視線がなんか、獲物を食うときのライオンみたいだ。
手下たちも黙って俺を見ているが、明らかに殺気というか、戦闘体制だ。
見渡せば、どうもソファに谷が転がっている。どうやら、何かがバレたらしい。
真後ろで、リボルバー拳銃のハンマーが鳴った。
あぁそうか。この組織はスミス&ウェッソンを使ってたな。
「流石動じないな」
「なんの真似ですか」
「ん?それはお前が一番よく分かってんだろ。
大したもんだよ。だがこちらも甘かったな。まさかお前が、ホテルの時のFBI捜査官だったなんてな」
「あぁ、バレたか」
案外早かったな。
「頭がいいなら分かるだろ?今の状況はかなり不利だ」
確かにな。
だが、忘れていないか。
「會澤さん、あんたやっぱり詰めが甘いわ」
振り向いて俺に銃を向けていた枝野の左手だけを瞬時に掴んだ。
誤発射。ブレて何処だかよくわからない、足元よりも遥か先の床に弾痕が残る。
周りのヤクザ共が怒号を発する中、ごちゃごちゃうるせぇので銃を一発、枝野の真横にわざと外して撃ち込んだ。
掴む腕に力を込めれば枝野は、銃をぽろりと落として顔を歪めた。
「SWATより断然弱ぇな。こんなんで俺に喧嘩売ってくんなよヤクザ風情が」
枝野を離してやったついでにスライドを引いて銃を枝野へ向ける。怯む。
どうせならと思い、枝野が落としたスミス&ウェッソンを拾って左手でハンマーを引き、會澤へ向ける。
「てめぇ…」
「お前らに聞きたいことがあるんだが」
全員が息を呑むのがわかる。だがどこかで俺への攻撃の機会を伺っているのも見て取れる。
昼飯を全額奢ってくれて、そして今、ゼウスの駐車場にいる。本当にそれで終わってしまった。
「…そうですか」
「疑問は?」
「え?」
「いや、どうやって?とかさ」
「…別に」
「冷たいなぁ…」
ふいにぐっと、鮫島に右手を捕まれた。
肩に手を置き、内緒話をするように耳元で言われた。
「俺はしつこいんだよ、流星くん」
背筋が凍るかと思った。その声とその目に、反射的に突き飛ばしてしまった。
「…あんた…」
「酷いなぁ…またね」
先程までの殺気を打ち消すような笑顔で言われ、恐ろしくなってすぐさま車から出た。
…バレてる。
何故だ?
今回の會澤組の潜入捜査は俺と、5課の一部しか知らない。
やはり鮫島が言っていた通り…。
だとしたら、なかなか鮫島は難航しそうだ。
「あぁ…」
クソっ…!
これはあと一歩踏み込みたかった。だがどうやら一度この会社とは距離を取った方が良さそうだ。
厄介なやつを敵にまわしたらしい。
未だ謎のまま。何故會澤組と手を組んでいるのかすら見えてこない。
多分この会社には何かがある。分かっていたがただの証券会社じゃない。
少し、ほんの少し。
怖い。だが上等だ。
いつか必ず追ってやる。それにはまだ、時間が掛かる。
まずは會澤組に戻ろう。
5課に一度、終わったことを連絡し、政宗にも直接電話を入れた。
「もしもし」
『おぅ、どうした?』
「…調べて欲しい」
『…だと思った』
「…国立帝都大学の、谷栄一郎と、教授らしいが“ミノハラ”と言う学者を…」
『分かった。お前、今日は戻るのか?』
「あと少し」
『あ、内線入ったわ…。
じゃぁ、気を付けて』
電話を切った。
続けてケータイを代えて會澤に連絡をする。ヤケに落ち着いた様子で、「無事に戻ってこい」と言われた。
なんだ?なにかが不穏だ。
まぁいい。
最後に自分のケータイから高田に、今から會澤組に行き、検挙する旨を伝えて電話を切った。
作戦を考えなければならない。
これで今日、會澤組を検挙したとしたら。
ArtemisとHestiaをどうしようか。
取り敢えずこのまま、影響が出るまで続行しようか。
なんせ表向きは、Hestiaの経営者はArtemis経営者の愛人だ。あくまでも龍ヶ崎連合会の會澤組は両店の出資者となっており、出資にはゼウスも荷担している。
もう少し洗えそうか。
ただ、ゼウスが會澤組を切る理由がエレボスだとしたら、ホストクラブへのこれ以上の潜入捜査は意味がないし、返って危険かつ、ウチの管轄外になってくる。
一か八か。
なんとも言えない賭けではあるがなんとなく、霧の中に手を伸ばして少し振り払ってみてから思うのは、ゼウスはエレボスと繋がっている気がする。今回會澤組を切るのも、一番不利になった組織を早々に切ってしまっただけのように思う。
となると谷サイドも洗いたい。
谷は果たして會澤組以外に、どこから資金とヤクと資材を得ていたのか。
そもそも始め高田は、會澤組は泳がしておく体であった。それが突然の検挙。
身の危険を察したのだろうか。なんせ會澤組を叩くのはまだ、早い。
…さて。
俺が早いか、5課が早いか。取り敢えず俺は會澤組の事務所を目指そう。
公園から出てタクシーを拾い、事務所付近の住所を指定して降りた。
少し回りを見てみたが、覆面すら止まっていなかった。これは俺の方が早かったな。
そもそも本当に5課は来るのだろうか。少し疑問になってきた。まぁ、来るように、「お宅の案件」と言ったのだが。
事務所に入ると、會澤がデスクで俺を待ち構えていた。
「おかえり」
「ただいま戻りました…」
どうも會澤の視線がなんか、獲物を食うときのライオンみたいだ。
手下たちも黙って俺を見ているが、明らかに殺気というか、戦闘体制だ。
見渡せば、どうもソファに谷が転がっている。どうやら、何かがバレたらしい。
真後ろで、リボルバー拳銃のハンマーが鳴った。
あぁそうか。この組織はスミス&ウェッソンを使ってたな。
「流石動じないな」
「なんの真似ですか」
「ん?それはお前が一番よく分かってんだろ。
大したもんだよ。だがこちらも甘かったな。まさかお前が、ホテルの時のFBI捜査官だったなんてな」
「あぁ、バレたか」
案外早かったな。
「頭がいいなら分かるだろ?今の状況はかなり不利だ」
確かにな。
だが、忘れていないか。
「會澤さん、あんたやっぱり詰めが甘いわ」
振り向いて俺に銃を向けていた枝野の左手だけを瞬時に掴んだ。
誤発射。ブレて何処だかよくわからない、足元よりも遥か先の床に弾痕が残る。
周りのヤクザ共が怒号を発する中、ごちゃごちゃうるせぇので銃を一発、枝野の真横にわざと外して撃ち込んだ。
掴む腕に力を込めれば枝野は、銃をぽろりと落として顔を歪めた。
「SWATより断然弱ぇな。こんなんで俺に喧嘩売ってくんなよヤクザ風情が」
枝野を離してやったついでにスライドを引いて銃を枝野へ向ける。怯む。
どうせならと思い、枝野が落としたスミス&ウェッソンを拾って左手でハンマーを引き、會澤へ向ける。
「てめぇ…」
「お前らに聞きたいことがあるんだが」
全員が息を呑むのがわかる。だがどこかで俺への攻撃の機会を伺っているのも見て取れる。
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