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The 5th episode
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會澤は高笑いをし、それから不機嫌そうに俺を睨んだ。
「まぁそう殺気立つなよ。穏便に話そうじゃないか」
「それは部下に言ってやってくれないか。お宅の部下は随分血気盛んなようだが?」
「悪いねぇ。こいつらみんなこの業界長いんだよ。
てめぇら、こいつに下手な真似はするな。束で掛かったところで意味はない」
そう會澤が命じたところで、俺は向けていた銃をしまう。
「で、何が知りたいんだ?」
「…箕原海を知っているか?」
「…さぁどうかな。ありふれた名前だからな」
「そうか?ちなみにこいつはホテル占拠を企ててみたり怪しげな薬を作ってみたり、大使館で密売してみたりするような奴なんだが?」
「へぇ、なかなかなヤツだな」
「ちなみにお宅らがばらまいてる薬は何処から仕入れてるんだ?」
「有名な学者先生だよ」
「国立帝都大学のミノハラ教授か」
「そこに寝てる谷もだしなぁ。
お前、そんなのを追っかけたところでどうする?」
「俺が質問をしているんだ。それに答えりゃいいんだよ」
「随分勝手だな。知りたいのはそれだけか?」
「どうせならもうひとつ。
お前ら、エレボスと繋がってんのか?」
會澤はまた高笑いをした。
「さぁな!」
會澤がそう言った瞬間、視界の右端で動いた部下一人が見えたので構わず撃った。
多分足辺りに当たっただろう、わりと下を狙った。唸り声が響く。
それを合図に、部下たちそれぞれが動き始めた。銃を持ってるやつやナイフを持っているやつ、それぞれがいて、ざっと10人が角方から襲ってくる。
あぁ、久しぶりのこの感覚。
どいつをどうぶっ飛ばしたかは最早わからない。からだが自然に動くまま、本能の流れに沿っていた。
「流星!」
ふと後ろから俺を呼ぶ聞き慣れた声がして我に返った。振り向くと、武宮さんと部下2人、それと政宗が唖然として立っていた。
まわりを見回して見て気が付く。會澤組の組員たち全員が床に踞っていて、今俺は會澤を組敷いて胸ぐらを掴み、ナイフを静脈側の首筋に当てていた。
いつの間にこんなことに。
「…政宗…」
肩の力が抜けた。握っていたナイフを床に置く。無機質な鉄の音が響いた。
その瞬間から身体中の掠り傷に気が付いた。わりと至るところにあるようで、手には、まわりをみる限り最早誰のものだかわからない血が付着していた。
「これ…あんた一人で…?」
「…でしょうね」
政宗と武宮さんが明らかに引いている。
そうか。
そう思った直後、ネクタイを引っ張られた。見ると會澤が針のように突き刺す目で、「茶番だな、」と吐き捨てた。
「ヤクザ風情よりタチが悪ぃよ、てめぇは」
一発殴った。ネクタイの苦しさがなくなった。
もう一発殴ろうとしたところで拳を背後から取られた。政宗だった。
「流星…帰るぞ」
「…あぁ、そうだな」
見下ろす政宗の顔がどこか、切なそうに感じた。あの情景を思い出させたのだろうか。
會澤に手錠を掛け、その場から退いた。武宮さんに、「後は、頼みました」と告げる。
武宮さん、わざわざ政宗を呼んでくれたのだろうか。だとしたら少し、見直した。
「はい。また、後ほど」
どうやら手柄をまるっきり5課へ持っていく気はないらしい。その気遣いに、少しだけ会釈を返す。
「おら、立て!」
背後では會澤が5課の捜査員に手を借りながら立ち上がり、「おいお前、」と、変わらず底冷えするような冷たい声色で俺に声を掛ける。
振り向くと、明らかなる敵意と殺意に満ちた眼差しで、「覚えておけ、スミダ」と、はっきりと言った。
…どこでバレたのか。
思わず笑ってしまった。
自分は今回、敗北したんだ、全てに。
「あぁ、殺しに来い」
それだけ言って事務所を後にした。恐らく、二度とここへ来ることはない、出来ないであろう。
「…流星、」
「…悪かった」
「…は?」
名前を呼ぶ政宗の声は怒っていたのに。
こちらが謝罪をすればどうやらそれは予想に反したらしい。間の抜けた返事だった。
だがそれからはお互いに何も喋らず特本部の事務所まで帰った。本気でここまで一言も喋らなかったのはこの人に出会って、数少ない経験だ。
多分、結構怒ってる。
特本部へ帰ると皆それぞれ、「流星さん!」と、どうやら心配していたような表情で迎えてくれた。
そこで状況を、漸く把握した。
「おかえりぃ、死に損ない」
「…ただいま、すまなかった、みんな」
どうやらこれは状況説明だとか、そんなのが必要なようだ。
「まぁそう殺気立つなよ。穏便に話そうじゃないか」
「それは部下に言ってやってくれないか。お宅の部下は随分血気盛んなようだが?」
「悪いねぇ。こいつらみんなこの業界長いんだよ。
てめぇら、こいつに下手な真似はするな。束で掛かったところで意味はない」
そう會澤が命じたところで、俺は向けていた銃をしまう。
「で、何が知りたいんだ?」
「…箕原海を知っているか?」
「…さぁどうかな。ありふれた名前だからな」
「そうか?ちなみにこいつはホテル占拠を企ててみたり怪しげな薬を作ってみたり、大使館で密売してみたりするような奴なんだが?」
「へぇ、なかなかなヤツだな」
「ちなみにお宅らがばらまいてる薬は何処から仕入れてるんだ?」
「有名な学者先生だよ」
「国立帝都大学のミノハラ教授か」
「そこに寝てる谷もだしなぁ。
お前、そんなのを追っかけたところでどうする?」
「俺が質問をしているんだ。それに答えりゃいいんだよ」
「随分勝手だな。知りたいのはそれだけか?」
「どうせならもうひとつ。
お前ら、エレボスと繋がってんのか?」
會澤はまた高笑いをした。
「さぁな!」
會澤がそう言った瞬間、視界の右端で動いた部下一人が見えたので構わず撃った。
多分足辺りに当たっただろう、わりと下を狙った。唸り声が響く。
それを合図に、部下たちそれぞれが動き始めた。銃を持ってるやつやナイフを持っているやつ、それぞれがいて、ざっと10人が角方から襲ってくる。
あぁ、久しぶりのこの感覚。
どいつをどうぶっ飛ばしたかは最早わからない。からだが自然に動くまま、本能の流れに沿っていた。
「流星!」
ふと後ろから俺を呼ぶ聞き慣れた声がして我に返った。振り向くと、武宮さんと部下2人、それと政宗が唖然として立っていた。
まわりを見回して見て気が付く。會澤組の組員たち全員が床に踞っていて、今俺は會澤を組敷いて胸ぐらを掴み、ナイフを静脈側の首筋に当てていた。
いつの間にこんなことに。
「…政宗…」
肩の力が抜けた。握っていたナイフを床に置く。無機質な鉄の音が響いた。
その瞬間から身体中の掠り傷に気が付いた。わりと至るところにあるようで、手には、まわりをみる限り最早誰のものだかわからない血が付着していた。
「これ…あんた一人で…?」
「…でしょうね」
政宗と武宮さんが明らかに引いている。
そうか。
そう思った直後、ネクタイを引っ張られた。見ると會澤が針のように突き刺す目で、「茶番だな、」と吐き捨てた。
「ヤクザ風情よりタチが悪ぃよ、てめぇは」
一発殴った。ネクタイの苦しさがなくなった。
もう一発殴ろうとしたところで拳を背後から取られた。政宗だった。
「流星…帰るぞ」
「…あぁ、そうだな」
見下ろす政宗の顔がどこか、切なそうに感じた。あの情景を思い出させたのだろうか。
會澤に手錠を掛け、その場から退いた。武宮さんに、「後は、頼みました」と告げる。
武宮さん、わざわざ政宗を呼んでくれたのだろうか。だとしたら少し、見直した。
「はい。また、後ほど」
どうやら手柄をまるっきり5課へ持っていく気はないらしい。その気遣いに、少しだけ会釈を返す。
「おら、立て!」
背後では會澤が5課の捜査員に手を借りながら立ち上がり、「おいお前、」と、変わらず底冷えするような冷たい声色で俺に声を掛ける。
振り向くと、明らかなる敵意と殺意に満ちた眼差しで、「覚えておけ、スミダ」と、はっきりと言った。
…どこでバレたのか。
思わず笑ってしまった。
自分は今回、敗北したんだ、全てに。
「あぁ、殺しに来い」
それだけ言って事務所を後にした。恐らく、二度とここへ来ることはない、出来ないであろう。
「…流星、」
「…悪かった」
「…は?」
名前を呼ぶ政宗の声は怒っていたのに。
こちらが謝罪をすればどうやらそれは予想に反したらしい。間の抜けた返事だった。
だがそれからはお互いに何も喋らず特本部の事務所まで帰った。本気でここまで一言も喋らなかったのはこの人に出会って、数少ない経験だ。
多分、結構怒ってる。
特本部へ帰ると皆それぞれ、「流星さん!」と、どうやら心配していたような表情で迎えてくれた。
そこで状況を、漸く把握した。
「おかえりぃ、死に損ない」
「…ただいま、すまなかった、みんな」
どうやらこれは状況説明だとか、そんなのが必要なようだ。
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