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The 8th episode
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一度離れた潤の手が、また水気を帯びて頭の上に置かれた。「泣くなよ潤、」その政宗の声が酷く優しい。
「泣いてない。眠いの!」
「てか寝ろよ。まぁ付き合わせて言うのもなんだが」
「嫌だ」
「なんだよ天の邪鬼」
まぁ寝たらお前脱ぐからな。あれ何故なんだろ。
「お前、結構綺麗だな」
「ぶふぉっ」
流石に吹き出してしまった。ヤバイ、バレたかな。
「てめぇ流星!」
「やっぱり起きてやがったか」
あぁ、やっぱバレてましたね。
漸く寝たフリ終了。潤の顔を見ればやっぱ泣いててまた笑っちまったら、「んだよこの悪趣味!」と、腹パンされて違う意味で吹き出した。
「頭湧いてますね政宗。こ…こいつく、口説いてもなんもなっ…」
「ウケすぎだろ…。いや素直に口から出たわ。あ、別に口説いてないからな潤。勘違いすんなよ」
「…お前ら殺すぞ、からかってんのか」
「からかってるからかってる」
「うっせぇ熟女趣味!」
「違うわ!
ってやめろ。マジやめろ。俺後一月は多分無理だ」
思い出したら吐きそうだ。よく仕事スイッチであそこまで出来るな俺。ワーカホリック万歳、死にたい。
「下世話だなお前ら。若いねぇ」
「プラスてめぇの未遂現場にまで踏み込んでるかと思うと俺もういいわ…」
「うわぁやめてくれ、俺もそれには萎え中なんだよ」
「俺はわりとどっちもなんとも思ってない」
「流石ですねクソゴリラ」
「ホントだよクソゴリラ」
「酷くねぇ?何この言われよう。心が寛大なんです」
「ゴリラ並みにな」
「それ以上言ったら捻り潰すぞクソガキ共」
ガチでやりそう。
でも…。
「その殺し文句ってか殺害文句!」
「昔から言われてるから全っ然怖くねぇ!」
潤と二人で笑っちまって。
政宗はもの凄く居心地悪そうで。
「あー、なんかバカらしくなってきたわ」
どこに向かっているのかわからない車内で。
多分方向的には、高尾辺りなんだろうけど。
「高尾山登ったら帰ろう」
そう政宗が言った。
「政宗、」
「はいはい?」
「帰りは代わりますからね、運転」
「え?何言ってんの?お前らを家に送り届けるんですけど」
「だから、俺が政宗を送り届けます。そのあと潤を送り届けて最後これは警察にお返ししますよ」
「効率悪っ」
「いいです。休みなんで」
「あそう」
そう言いながら政宗がもの凄く嬉しそうに笑ったのが雰囲気でわかって。なんか、ちょっと照れる。タバコを咥えて火をつける。漸くありつけたアメスピ。
「あ、コンビニ寄る?お前それ軽かったけど」
「予備はポケットに入ってます。あとダッシュボード」
「え?マジ?」
丁度赤信号になったので手を伸ばして開けている。
青い箱が1つだけ、下に転がった。
「うわ。しかも5箱!?」
「はい」
苦労しながらダッシュボードに戻して青になった。再び車が走り出す。
「何お前」
「長期戦だと足りないけどね」
「優秀だな」
「まぁ、昔からヤニ中が捜査のキレ悪くなったりイライラしてんの見てるからねー。
ヤニ吸ってるときのキレの良さとかね」
「あー、それわかるわ」
樹実はそういうタイプの単純な男だった。
「いっつもあんたがタバコを然り気無くそこに用意しててさ。現場にも一箱持ってってた」
「後半はお前に託したようだけどな、あいつ。
言ってたわ。タバコを握られんのは命握られてるみたいだって」
「あぁ、それなんかわかる。アレひとつで、ホントに…」
それくらいの仕事の差はあった。それは命を掛けた現場だからかもしれない。
「だからか」
潤がふと言う。
「だから、お前は人にタバコを買いに行かせないんだな。ついでですら、行かせないよな」
「そうか?」
言われてみれば、そうかも。
「勝手に買ってくることはあるけどな。潤も俺も」
「あぁ、そうだね」
「不思議とピンチの時を見計らったかのようにな」
滅多に無い、切れそうなときに限ってなんだよな。
「あれじゃね?
勝手に買ってくるとき大体仲直りパターンだからじゃね?」
政宗と二人で、「あぁ~」と、ハモってしまった。
なるほど、確かに。
潤がなんだか、くっくと笑った。さっきまで泣いてたのはどこへやら。
「…無駄に長ぇな、なんか」
答えない。
だってそれは。
俺たちは、いつ終わるか、いつでもわからないから。
「…泣き止んだな、潤」
あぁ、やっぱ優しいなあんた。しみじみ思うわ。別に俺が言われてる訳じゃねぇけどさ。
「泣いてないし」
お前はいつだってそうやって生意気だけど。
「ある意味羨ましいけどな」
「あ?」
「ほら、俺鉄面皮じゃん?」
「…え?」
なんでそこで狼狽えるかな急に。
「お前見てっとたまにスカッとするよ。泣いたり笑ったり怒ったり」
「…なに、キモいんですけど」
「んだよたまに褒めてやったらよ」
「いやぁ、それ嫌味だろうが…ってそっか、お前バカだもんな。バカ素直だもんな」
「は?」
政宗が一人笑い出す。
なんだよバカ素直って。
「俺お前ら好きだわ。人間臭くていいね」
「え」
「なに、納得しないってか」
「腑に落ちねぇ」
「いいよ別に。バカだもんな二人して」
なんかムカつく。
けどなんかガチで幸せそうだから言う気が萎えた。もういいや。
「さてさて、そろそろ高尾山だよ」
「え?」
「ガチだったの?」
「は?苦労してきたんだから尊べよ」
はい、…はぁい。
「泣いてない。眠いの!」
「てか寝ろよ。まぁ付き合わせて言うのもなんだが」
「嫌だ」
「なんだよ天の邪鬼」
まぁ寝たらお前脱ぐからな。あれ何故なんだろ。
「お前、結構綺麗だな」
「ぶふぉっ」
流石に吹き出してしまった。ヤバイ、バレたかな。
「てめぇ流星!」
「やっぱり起きてやがったか」
あぁ、やっぱバレてましたね。
漸く寝たフリ終了。潤の顔を見ればやっぱ泣いててまた笑っちまったら、「んだよこの悪趣味!」と、腹パンされて違う意味で吹き出した。
「頭湧いてますね政宗。こ…こいつく、口説いてもなんもなっ…」
「ウケすぎだろ…。いや素直に口から出たわ。あ、別に口説いてないからな潤。勘違いすんなよ」
「…お前ら殺すぞ、からかってんのか」
「からかってるからかってる」
「うっせぇ熟女趣味!」
「違うわ!
ってやめろ。マジやめろ。俺後一月は多分無理だ」
思い出したら吐きそうだ。よく仕事スイッチであそこまで出来るな俺。ワーカホリック万歳、死にたい。
「下世話だなお前ら。若いねぇ」
「プラスてめぇの未遂現場にまで踏み込んでるかと思うと俺もういいわ…」
「うわぁやめてくれ、俺もそれには萎え中なんだよ」
「俺はわりとどっちもなんとも思ってない」
「流石ですねクソゴリラ」
「ホントだよクソゴリラ」
「酷くねぇ?何この言われよう。心が寛大なんです」
「ゴリラ並みにな」
「それ以上言ったら捻り潰すぞクソガキ共」
ガチでやりそう。
でも…。
「その殺し文句ってか殺害文句!」
「昔から言われてるから全っ然怖くねぇ!」
潤と二人で笑っちまって。
政宗はもの凄く居心地悪そうで。
「あー、なんかバカらしくなってきたわ」
どこに向かっているのかわからない車内で。
多分方向的には、高尾辺りなんだろうけど。
「高尾山登ったら帰ろう」
そう政宗が言った。
「政宗、」
「はいはい?」
「帰りは代わりますからね、運転」
「え?何言ってんの?お前らを家に送り届けるんですけど」
「だから、俺が政宗を送り届けます。そのあと潤を送り届けて最後これは警察にお返ししますよ」
「効率悪っ」
「いいです。休みなんで」
「あそう」
そう言いながら政宗がもの凄く嬉しそうに笑ったのが雰囲気でわかって。なんか、ちょっと照れる。タバコを咥えて火をつける。漸くありつけたアメスピ。
「あ、コンビニ寄る?お前それ軽かったけど」
「予備はポケットに入ってます。あとダッシュボード」
「え?マジ?」
丁度赤信号になったので手を伸ばして開けている。
青い箱が1つだけ、下に転がった。
「うわ。しかも5箱!?」
「はい」
苦労しながらダッシュボードに戻して青になった。再び車が走り出す。
「何お前」
「長期戦だと足りないけどね」
「優秀だな」
「まぁ、昔からヤニ中が捜査のキレ悪くなったりイライラしてんの見てるからねー。
ヤニ吸ってるときのキレの良さとかね」
「あー、それわかるわ」
樹実はそういうタイプの単純な男だった。
「いっつもあんたがタバコを然り気無くそこに用意しててさ。現場にも一箱持ってってた」
「後半はお前に託したようだけどな、あいつ。
言ってたわ。タバコを握られんのは命握られてるみたいだって」
「あぁ、それなんかわかる。アレひとつで、ホントに…」
それくらいの仕事の差はあった。それは命を掛けた現場だからかもしれない。
「だからか」
潤がふと言う。
「だから、お前は人にタバコを買いに行かせないんだな。ついでですら、行かせないよな」
「そうか?」
言われてみれば、そうかも。
「勝手に買ってくることはあるけどな。潤も俺も」
「あぁ、そうだね」
「不思議とピンチの時を見計らったかのようにな」
滅多に無い、切れそうなときに限ってなんだよな。
「あれじゃね?
勝手に買ってくるとき大体仲直りパターンだからじゃね?」
政宗と二人で、「あぁ~」と、ハモってしまった。
なるほど、確かに。
潤がなんだか、くっくと笑った。さっきまで泣いてたのはどこへやら。
「…無駄に長ぇな、なんか」
答えない。
だってそれは。
俺たちは、いつ終わるか、いつでもわからないから。
「…泣き止んだな、潤」
あぁ、やっぱ優しいなあんた。しみじみ思うわ。別に俺が言われてる訳じゃねぇけどさ。
「泣いてないし」
お前はいつだってそうやって生意気だけど。
「ある意味羨ましいけどな」
「あ?」
「ほら、俺鉄面皮じゃん?」
「…え?」
なんでそこで狼狽えるかな急に。
「お前見てっとたまにスカッとするよ。泣いたり笑ったり怒ったり」
「…なに、キモいんですけど」
「んだよたまに褒めてやったらよ」
「いやぁ、それ嫌味だろうが…ってそっか、お前バカだもんな。バカ素直だもんな」
「は?」
政宗が一人笑い出す。
なんだよバカ素直って。
「俺お前ら好きだわ。人間臭くていいね」
「え」
「なに、納得しないってか」
「腑に落ちねぇ」
「いいよ別に。バカだもんな二人して」
なんかムカつく。
けどなんかガチで幸せそうだから言う気が萎えた。もういいや。
「さてさて、そろそろ高尾山だよ」
「え?」
「ガチだったの?」
「は?苦労してきたんだから尊べよ」
はい、…はぁい。
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