ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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Past episode one

9

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 施設にあった船に乗り込んでみると、「違う違う!」と、仲間の声が聞こえてきた。艦長の羽田はねださんだろう。

「え?じゃぁこれは?」
「こっちが通信用。てか兄ちゃん、そんな覚えられるか?」
「うーん、正直無理っぽい」
「はいじゃぁこのボタンは?」
「えっと…なんかあのプロペラ?」
「大砲だよ。ちょっと無理っぽいな」
「あー、ナメてたかなぁ、なんかわかんなくなったからこーゆー時は見てみようかなとか思ったんだよなー」

 案外こっちは仲が良さそうだ。

「楽しそうですね」
「あっ」

 熱海が二人に声を掛けると、流星はまるで悪戯がバレた子供のような気まずい顔をして振り返るのだった。

 それがどうにもおかしくて、熱海は笑う。

「構いませんよ。」
「え、えぇ!」

 部下二人はその熱海の一声に驚く。

「だって艦長、いつも僕は指令であなたに操縦を任せている。あなたの方が筋がいい」
「いやぁ…しかし、あんたは…」
「流星くん、まぁ、そんなもんなんですよ」
「ほー、ん?つまり?」
「うーん。
 官位で説明すると艦長の彼は三等海佐さんとうかいさ。僕が二等海佐。セオリーでいけば艦長は僕なのですが、いやぁ、何分彼の方が運転が上手なので」
「へぇ…」
「いやまぁしかし、熱海二等海佐には司令官というか指揮官を任せているわけだ。彼は経験もあるし何よりどちらかと言えば頭脳派だから」
「ほー、なるほどー」
「あ、思い出した。
 熱海さん、栗林くりばやし一佐いっさがお呼びでしたよ」
「でしょうねぇ。まぁ、いいですよ」
「はぁ…。あんたまた独断ですか?」
「まぁそうなりますね。この子、友人から預かったんですよ」
「あんた、友人いましたっけ」
「残念ながら。相手は国家キャリア官僚のクソ野郎なんですけど。変態じみた優男です」
「あぁ、茅沼さんですね。へぇ…あぁ、それでねぇ」

 艦長、羽田はそれを聞いてにやっと笑った。

「わかりましたよ。まぁ、言い訳係はあんたの役割。俺は厄介引き受け係かな」
「優秀な部下を持って僕は幸せですね。毎度毎度すみません。
 さて、流星くん。君には申し訳ないけど一回僕の部屋に戻りましょうか。ちょっと、大人の事情発生です」
「…俺悪い事したかな」
「いえ、いや、まぁ。しかし、そもそも諸悪の根元は僕の悪友ですので心配せず」
「というかこの男はそもそも上の人間とウマが合わないんだよ」
「はぁ、なるほど」
「君がゆったりのんびり出来るように大人が頑張ります。さぁて、一佐はなんて?」

 眼鏡の向こうの笑顔が読めない。この男の心情は、どうも雲の上のように感じてならない。

「勝手に野良犬を飼いやがってとさ」
「口が過ぎる男ですね。野良犬よか、育て方によっては警察犬にも狂犬にもなるということをわからせてやりましょうか。まぁ今日はお手柔らかに行ってきます。あぁ、君、ご苦労様でした」

 熱海は先程の部下に声を掛けてから後ろ手を振ってふらりと去って行ってしまった。
 その背中を見た羽田は、「あれは不穏だな…」とぼやく。

「流星といったか」
「はいそうです、艦長」
「うわぁ、それ気が狂うわ。羽田はねだ真幸まさき。真幸でいい」
「字は?」
「変なやつだな。真の幸せだ。
 ちょっと厄介引き受け手伝えよ」
「…わりと引き受けてますけど」
「そうだろうけど。まだ茅沼さんとこへは帰れないだろ?」
「ムカつくから帰らん」
「…似たもん同士だな。まぁだからかな。
ちょっくら偵察に行ってこい。背中を追えば辿り着くから」
「…なんで」
「…うーん、行けばわかる」
「…わかった」

 こんなときまで取り敢えず言うことは聞いてしまう。だが確かに、少しあの男が不穏な雰囲気なのと、この男が必死な事には訳がありそうだ。従ってみても、面白そうだと流星は思った。

「…いきなり来てありがとう。また明日来ます」
「あぁ、また…明日な」

 羽田に挨拶をして流星はこっそり熱海の後を追った。
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