168 / 376
The 10th episode
11
しおりを挟む
こういう官僚のテンプレは3パターンで話しが成り立つ。
気位と能力が見合わない勘違いタイプは、どうせ人の話は聞かないし、とにかくプライドをへし折ることなく、しかし最後の一撃でへし折れば情報が駄々漏れになる。
プライドも能力も高いやつにはわりと本音でいった方が後に有利になる。
世間知らずな、だけど取り敢えず登りつめた速見のようなタイプは少々曲者だ。何を言っても世間を知らないせいかふわふわしている。
ならばこちらも綿飴状態で挑み、最後は大体夢を語っちゃったりすると効果がある。というか男は大体夢を語っとけばなんとかなる。盛大にこちらを否定したとしてもなんとなく引っ掛かってくれる。
ふわふわ世間知らず官僚は相手がふわふわしていれば不安とか興味に傾き、なんとなく構ってくれる。これで正解だった。
このタイプは上手く仲間感を出してやれば多分、信頼しきって足下の靴をぶん投げてくれるだろう。
これはあくまで潤の経験だ。ホントはもう少し細分化するが今回はこれら3パターンを軽く使った。
潤は足下の靴が欲しい。ただこの男は綿飴パターンだ。投げてくるまでどれくらいかかるか。
ただ綿飴は唾液で溶ける。中身はわりとスカスカだしただの砂糖だし。思ったより収穫はないかもしれない。まぁこれは手中に収めてみなければ好きか嫌いかわからないものなのだ。
だから暁子で、暁子は潤に託したのだろう。要するにこいつ、博打なんだ。当たればラッキー、外れてもまぁ綿飴ってテンション上がるだろ?くらいの感覚で行くしかないのである。
部屋について行き、ジャケットを脱いだ彼はサスペンダーだった。潤の変態リストにひとつチェックがついた。
「まぁ、座って」
言われてソファに掛け、自分もジャケットを脱いで少しネクタイを緩めた。隣に座ってきた速見は、本気でピッタリくっついてくるくらいの距離で座る。
まぁ暁子が頼んできたからわかってたけどね、あとなんとなくな視線とかで。けどこの人やっぱ、そーゆー人なんだね。
一応、「ちょっと近くないですか?」と笑って言ってみると、「あぁ、ごめん」と、ニタニタして謝ってくる。
「あのー…。
タバコ吸ってもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
取り敢えず許可は得たのでこの、吐きそうなくらいのなんか変な薬品の匂いを打ち消そうと潤はジャケットからタバコを出した。
さっきまでは気付かなかったが、まぁこの男確かに、なんか匂う。多分なんかやっている。
そう言えばワインも匂いとか楽しんでなかったし。飯も食わねぇし(高級料理だからかも知らんが)。
「あぁ、日谷くん、左利きなんだね」
そう舐めるように速見に見られてふと寒気がした。「あぁ、はい」とか答えてみるが、内心そんな事はどうでもいい。
ふとソファから立ち、「ビール、飲む?」と聞かれ、「あぁ、はぁ…」と潤が曖昧に返せば、
「外国のを入れておくように毎回頼んでいるんだ。エルディンガーとクローネンブルグと…」
なんとなく聞き取れたのはその辺だったので、あとはわかった「じゃぁギネスで」と答えた。別に好きではない。
「あぁ、センスあるねぇ」
やっぱ感性がよくわからんとシンプルに潤は思った。
今更ながら凄く帰りたいなぁ、こんなんだったら家でのんびりと祥ちゃんに今日の流星とのガチ喧嘩を話した方が楽しいよとぼんやりと思いながら、ニタニタ腹立たしいまでに変態笑みを浮かべる上官が目の前にグラスと瓶のギネスを置いたので、一度タバコを消して、注いでやった。
「ありがとう」
自分のも注いで乾杯。黒いビールが喉を潤す。
再びタバコに火をつけると、熱い視線。どうやら上官はそろそろ酔っていらっしゃるらしい。
「僕も一本貰っていいかな」
「あぁ、どうぞ。普段は?」
「まぁ、付き合いでね」
一本差し出し火をつけてやる。嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「前の子もよくタバコを吸う奴だった」
「あ、前のって」
殺されたSPか。
「良い奴だったよ。君より少し擦れていたけど。誇り高くて。僕の代わりに…」
「そうですか」
「君は僕の代わりに死ねる?」
「まぁ、SPならね。SPって、それが仕事でしょ。一番いいのは自分も、守ってる人も死なないのがベストだけど。
てかあんた、暗殺されかけるってどうしたんですか?」
「まぁ、よく思わない人もいるんだろう」
「上に立つと確かにね。あらぬ方向から槍は来るもんですからね。まぁ、守る人はいつでも正義です。何があっても。だからその人の気持ち、わかる。最終的には守っちゃうんですよね。それが仕事を越えて」
ここで過去あり気な柔らかスマイルをすればこいつは多分落ちる。
「日谷くん…」
はい、落ちました。これは早そうだな。
「速見さん、そんなに気に病まないで。あと…」
「どうした?」
少し照れ臭そうに潤が視線をずらせば速見は一気に距離を詰めてきて。しかも膝に然り気無く手を置くという落ちっぷり。
ここで潤は、一度視線を戻し、「純で、いいです」と言うえげつなさ。
もちろん変態心に火はつくもので「純…くん…」と、ゲロ吐きそうなくらいの甘い、それはもう吐息混じりの呟きを漏らす上官。彼は完璧に潤の罠にはまってしまったのである。
気位と能力が見合わない勘違いタイプは、どうせ人の話は聞かないし、とにかくプライドをへし折ることなく、しかし最後の一撃でへし折れば情報が駄々漏れになる。
プライドも能力も高いやつにはわりと本音でいった方が後に有利になる。
世間知らずな、だけど取り敢えず登りつめた速見のようなタイプは少々曲者だ。何を言っても世間を知らないせいかふわふわしている。
ならばこちらも綿飴状態で挑み、最後は大体夢を語っちゃったりすると効果がある。というか男は大体夢を語っとけばなんとかなる。盛大にこちらを否定したとしてもなんとなく引っ掛かってくれる。
ふわふわ世間知らず官僚は相手がふわふわしていれば不安とか興味に傾き、なんとなく構ってくれる。これで正解だった。
このタイプは上手く仲間感を出してやれば多分、信頼しきって足下の靴をぶん投げてくれるだろう。
これはあくまで潤の経験だ。ホントはもう少し細分化するが今回はこれら3パターンを軽く使った。
潤は足下の靴が欲しい。ただこの男は綿飴パターンだ。投げてくるまでどれくらいかかるか。
ただ綿飴は唾液で溶ける。中身はわりとスカスカだしただの砂糖だし。思ったより収穫はないかもしれない。まぁこれは手中に収めてみなければ好きか嫌いかわからないものなのだ。
だから暁子で、暁子は潤に託したのだろう。要するにこいつ、博打なんだ。当たればラッキー、外れてもまぁ綿飴ってテンション上がるだろ?くらいの感覚で行くしかないのである。
部屋について行き、ジャケットを脱いだ彼はサスペンダーだった。潤の変態リストにひとつチェックがついた。
「まぁ、座って」
言われてソファに掛け、自分もジャケットを脱いで少しネクタイを緩めた。隣に座ってきた速見は、本気でピッタリくっついてくるくらいの距離で座る。
まぁ暁子が頼んできたからわかってたけどね、あとなんとなくな視線とかで。けどこの人やっぱ、そーゆー人なんだね。
一応、「ちょっと近くないですか?」と笑って言ってみると、「あぁ、ごめん」と、ニタニタして謝ってくる。
「あのー…。
タバコ吸ってもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
取り敢えず許可は得たのでこの、吐きそうなくらいのなんか変な薬品の匂いを打ち消そうと潤はジャケットからタバコを出した。
さっきまでは気付かなかったが、まぁこの男確かに、なんか匂う。多分なんかやっている。
そう言えばワインも匂いとか楽しんでなかったし。飯も食わねぇし(高級料理だからかも知らんが)。
「あぁ、日谷くん、左利きなんだね」
そう舐めるように速見に見られてふと寒気がした。「あぁ、はい」とか答えてみるが、内心そんな事はどうでもいい。
ふとソファから立ち、「ビール、飲む?」と聞かれ、「あぁ、はぁ…」と潤が曖昧に返せば、
「外国のを入れておくように毎回頼んでいるんだ。エルディンガーとクローネンブルグと…」
なんとなく聞き取れたのはその辺だったので、あとはわかった「じゃぁギネスで」と答えた。別に好きではない。
「あぁ、センスあるねぇ」
やっぱ感性がよくわからんとシンプルに潤は思った。
今更ながら凄く帰りたいなぁ、こんなんだったら家でのんびりと祥ちゃんに今日の流星とのガチ喧嘩を話した方が楽しいよとぼんやりと思いながら、ニタニタ腹立たしいまでに変態笑みを浮かべる上官が目の前にグラスと瓶のギネスを置いたので、一度タバコを消して、注いでやった。
「ありがとう」
自分のも注いで乾杯。黒いビールが喉を潤す。
再びタバコに火をつけると、熱い視線。どうやら上官はそろそろ酔っていらっしゃるらしい。
「僕も一本貰っていいかな」
「あぁ、どうぞ。普段は?」
「まぁ、付き合いでね」
一本差し出し火をつけてやる。嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「前の子もよくタバコを吸う奴だった」
「あ、前のって」
殺されたSPか。
「良い奴だったよ。君より少し擦れていたけど。誇り高くて。僕の代わりに…」
「そうですか」
「君は僕の代わりに死ねる?」
「まぁ、SPならね。SPって、それが仕事でしょ。一番いいのは自分も、守ってる人も死なないのがベストだけど。
てかあんた、暗殺されかけるってどうしたんですか?」
「まぁ、よく思わない人もいるんだろう」
「上に立つと確かにね。あらぬ方向から槍は来るもんですからね。まぁ、守る人はいつでも正義です。何があっても。だからその人の気持ち、わかる。最終的には守っちゃうんですよね。それが仕事を越えて」
ここで過去あり気な柔らかスマイルをすればこいつは多分落ちる。
「日谷くん…」
はい、落ちました。これは早そうだな。
「速見さん、そんなに気に病まないで。あと…」
「どうした?」
少し照れ臭そうに潤が視線をずらせば速見は一気に距離を詰めてきて。しかも膝に然り気無く手を置くという落ちっぷり。
ここで潤は、一度視線を戻し、「純で、いいです」と言うえげつなさ。
もちろん変態心に火はつくもので「純…くん…」と、ゲロ吐きそうなくらいの甘い、それはもう吐息混じりの呟きを漏らす上官。彼は完璧に潤の罠にはまってしまったのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
はじまりと終わりの間婚
便葉
ライト文芸
画家を目指す夢追い人に
最高のチャンスが舞い降りた
夢にまで見たフィレンツェ留学
でも、先立つ物が…
ある男性との一年間の結婚生活を
ビジネスとして受け入れた
お互いのメリットは計り知れない
モテないおじさんの無謀な計画に
協力するだけだったのに
全然、素敵な王子様なんですけど~
はじまりから想定外…
きっと終わりもその間も、間違いなく想定外…
ミチャと私と風磨
たったの一年間で解決できるはずない
これは切実なミチャに恋する二人の物語
「戸籍に傷をつけても構わないなら、
僕は300万円の報酬を支払うよ
君がよければの話だけど」
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる