ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 10th episode

※13

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 ただやっぱりそう、自分は生きているのだとこうして人肌で漸く確認するのだ。そして刻み付ける。嫌になるほど忘れないで生きていける。
 だからセックスが好きだ。狂う程おぞましく生きていける。

 明け方、結局眠れなかった潤はそんなことを考えた。今はただ嫌悪感と戦いながら、しかし狂ったような男の背にひっついている。我ながら、なかなかな精神力。

 男もぼんやりと、しかしそんな潤を見つめ、「純…」と囁いて再び覆い被さってきた。

 マジメにすげぇ。いい加減にして欲しいが確かにテクはある。
 ぐったりしているが、相手はこちらの事情は関係ないようで、弄ばれる。それでも微力ながら反応してしまうのは体の構造上仕方がないのだがここまで来れば最早排泄である。
 なんの感情も沸かない。だが天然タラシ。「勘弁してください」その吐息が混ざった一言は相手の五感を刺激した。

 あぁ、公衆便所も伊達じゃない。なんでこんなに人肌を感じて、一応刺激があって「んっ…」とか言っちゃってんのに死にたくなるんだろうかと、血液成分が嫌にも少なくなった脳の隅で考える。死にたい。今凄く舌噛んで死んでやりたい。

 ふと、電話が鳴った。聞き覚えのない着信音。長官は寝る前にスタンドの上に置いた自分のケータイを手に取り、応答した。

「はい、…速見…だ」

 なのに動きとかプレイとか終わらせない。凄い。もうなんなの、こいつは動物だよ。

 肩にケータイを挟みながら動きを緩やかに、しかしながら刺激を与える位置はピンポイントに押さえている。ここまでの変態には、なかなか出会えない。

「あぁ…ん、へぇ…、えっ、そぅ…、まぁ…、記者っん、会見は君に、はぁ、任せたよ」

 急に荒っぽく性急になったせいか思わず潤も、「あっ、ちょっ、」と、ところどころ声を漏らしてしまった。と言うか再びキてしまって「あぁぁ…!」と思いっきりな声をあげてしまった。

 そして性癖なのか、イくまえに相手の首というか肩辺りに抱きつくという行為をしてしまったせいでその瞬間ケータイが落ちてしまった。

 電話の向こうが誰だか知らないが完璧に駄々漏れ。潤の耳にも『あの、長官…?』という声が聞こえてきた。

「あぁ、もしもし?」

 拾いざまに腹の傷を指でなぞられて再び「んぅ…」と卑猥な潤の一声が電話の向こうにダイレクト。死にたい。いい加減にして欲しい。

 しかしそれを楽しそうに眺めて長官は、

「いま…わかるよね?じゃぁ、そういうわけで…」

と電話を切って枕元にぶん投げた。

「…あんたさ」
「ん?」
「流石に勘弁してくれよ」

 完全に冷めた。最早速見を退かすように起き上がり、下腹部の痛みに耐えながらも潤はベットから降りてソファに座った。

ダルい。ダルすぎる。取り敢えずテレビをつけようタバコを吸おう。

 怠くて眠くて重くて背徳やよくわからない不機嫌の中シンプルにそうぼんやり思い、テレビをつけリモコンをぶん投げてテーブルに戻した。そして、タバコの箱に手を伸ばしたときだった。

『殺害された横溝氏は、こちらの飲食店の前で血を流して倒れていたようです』

 見たことのある、むしろ昨日行った居酒屋の殺伐とした雰囲気がニュースで垂れ流された。画面を見ると、被害者の映像が流れた。

『横溝暁子(29才)
腹部と頭部に撃たれたような痕があり、警察は急いで捜査を進めているもようです』

「はっ…」

息が詰まった。
なにそれ。

「そうか君、横山の紹介だったよね」
「えっ…は、」
「さっきの電話。この知らせ。俺も行かなくちゃ」

 テレビを眺めながらさっさと用意を始めている速見を見て。

「待ってこれどういうこと」
「まぁ、下手に首を突っ込むなということだね」

そもそも俺が知っている暁子は。
 途端に全ての力が抜けた。

「暁子…」

つまりこれって。

「楽しかったよ純。君も気を付けて」

結構、ヤバイところに俺は来ちゃったんじゃないの?

「待って速見さん」
「なんだい」
「俺も行く。一応速見さんの」
「何を言ってるんだい?君はお留守番だよ」
「…は?」
「死にたくなかったらここにいてね。じゃ、行ってきます」

 そう言って速見は部屋を出て行った。

ヤバイ。
本気で生きた心地がしない。そしてこの敗北感。

 焦りが生じて。
 一度連絡でも取ろうかと考えたが、思いとどまる。

これって、でも結局。

やめた。
あぁ、そうか俺は多分。
一人じゃ生きていられなかったんだ。
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