ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 19th episode

5

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 車に一緒に乗り、買い物をして帰宅する。
 環はステレオに、「これは素敵ね」とか、「流星さんみたい」とか、言っていた。
 「そうかもしれないね」と俺は環に答えた。俺もこの歌、好きなんだ。

純粋って何?その問が、いまあるような気がして。

鼻唄が聴こえる。
あぁ、そうなの、環。ねぇ、これってなんて、日常的で、もっと違う深いダークブルーで。ねぇ、そうだ。

「流星…さん?」

 赤信号で手を伸ばして、環の髪を撫でてみていた。綺麗な髪。指通りが、なんて、涙がこぼれそうな現象なんだろう。曲ってたまに凄い。ホント、いまの俺の気持ち。
 青信号で曲も変わってもどかしい。
 けれど環は「これも、素敵」と言ってくれた。

「環、」
「はい」

あれ。

「…流星さん?」

あれ。
俺いま言葉に詰まって何言おうとしたの?

 ステップのように踏み出してみて、溢れそうになって、俺。

あぁ、けど。
しゃがれた歌声がマッチした。

ぼんやりだけど明日が見えた気がする。そうかも。最終兵器はさようなら。言葉は闇雲に、喉を吐かない。

「いや、あの…気に入ってくれてよかったな」
「初めて聴いた」
「そうか」
「もっと、好きな歌、ありますか?」
「いっぱいあるよ。環、俺、」

もっと。

「うん、なんだろ。
 この人、昔から俺、好きなんだ。保護者はね、違う人が好きだったんだけどさ、チェンジャーに入れて貰ったんだ。
 環にも、たくさん、たくさん…環が好きな唄もみつけたいな」
「なんか…」

 ちらっと横目で環を見れば、花が綻ぶような笑顔で。

「わからないけど、なんか…」

 俯いてしまった。

考えたら。
だいぶ俺今こっ恥ずかしいこと言わなかった?なんか。

「あ、うん、ごめん、なんか」
「いえ…。
 新しい、気持ち」
「ん?」
「なんだか、くすぐったいような」
「う、」

 なになに。
 俺も急になんか、いきなり来ましたけどその感覚、胸に。

「流星さん…?」
「いやぁ…うん、なんでもナイデス」

なにこれ。
俺マジでなんなのこのなんかアレ。

 そこからしばらくお互い無言になってしまった。
 偉く気まずい3曲分。
 そうやって漸く家に着いた。
 正直なに聴いたとかそれからわかんなかった。
 ただただ心臓爆破しそうなくらい、てか心筋梗塞とか高血圧とかで死にそうな位だった。熱い。はぁはぁしてしまった。

 車を降りて環に「だいじょぶですか」と心配されてしまった。
 「ダイジョブ、デス」と片言で返したのが更に良くない。

なんなの俺。

 なんだかそれで環が背中擦ってくれて歩いて家に帰ったのも最早情けなくなってきて。

「おかえりなさい」

 伊緒が出迎えてくれても「あれ?」
 「退院おめでとうございます環さん?」だった。

「ありがとう、伊緒さん」

 しかしそれを聴いた瞬間、「環さん!」と伊緒が驚く。
 はっきり言ってその声にまた心臓が痛くなった。

「喋れるんですね!え、よかった!」
「ありがとう。これから、よろしく、お願い、します」
「はい、はい是非!
 で、その人はどうしてそんなに汗だくに…」
「伊緒」
「はいっ」
「ただ、いまあ」
「はい。取り敢えずコーヒー入れますあんた大丈夫ですか」
「うぅ、」

 うん、と言いたかった。無理だった。

「きょうはうどんです」
「はい。一回落ち着いてー、息吐いてー」

 スーパーのビニールを伊緒に預け、俺は一人勝手にキッチンでコーヒーをいれた。
 水面ぷるぷる。マジか俺どうしたの。

いや、なんかわかってんですよこの原因。

「流星さん、」

 そして環の真後ろからの声に、「あぃい!」びびった。
 だって今考えてましたから。

「あの、私、やります」
「いや、大丈夫。うん、大丈夫。
 環、取り敢えず着替えて、ゆっくり昼寝でも」

はっ。
待った。
寝るとこどうしよ。

「あっ、」
「流星さん」

 ふと伊緒が、ソファに座り、言う。

「シーツとか変えてありますんで。
 環さん、どうぞお昼寝してください」

うぉお。

「お前偉い!」
「まぁ、家政婦ですから」

 そのやりとりに環は「ふふっ」と笑った。

「では。
 流星さんは、おつかれ、では?」
「いやソファあるから」
「そうですか。
 私にも、コーヒー、ください」
「あ、あぁ…」

冷静になりなさい俺。

「ま、座っててください、はい」

 促せば、立ちっぱなしだった環は漸く少し頭を下げ、俺の寝室に向かった。

「ふはっ、」

 息、漸く正常になった。

「流星さん」
「ん?」
「あんた今からそんなんじゃ明日には死んじゃいますよ」
「は、ははは…」

確かに。

「マジでどうしよう」

 環のコーヒーを作る。
 砂糖何杯入れたかわからなくなった。まぁいいや牛乳、牛乳。

「てか、二人で寝るんですね?」
「は?」

あっ。

「えっ、な、何を言っているの伊緒ちゃん」
「えそれ気持ち悪い」

 取り敢えずコーヒーをリビングに運ぶ。伊緒はすでに自分で飲んでいた。
 俺も口つければ「熱゛っ」勢いあまりすぎた。舌がひりひりする。

「メンタル弱いなぁ…」

 そしてひそひそ話で言われる。

「マジで考えてなかったんですか」
「…うん」
「てかもう一緒でも」
「いや…。
 今日からソファは俺のベットになった」
「はぁ…。スナイパーって凄い。どこでも寝れるんですか?」
「寧ろこれ上質」
「なんで帰ってきてから日本語おかしいんですか」
「違うそれない」

 がらがらがら、と、寝室のガラス引き戸が空いた。着替えた環がいて、何事もなく隣に座ってきて3人、キツくなる。
 気まずいし、夕飯の準備をしようと、俺は黙って一人後ろのキッチンに立った。
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