ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
247 / 376
The 19th episode

6

しおりを挟む
 料理をしたら落ち着いた。豚汁うどん。

「すごいです!」

 環も喜んでくれた。よかった。

 夕飯を済ませてからは3人でテレビを観たりしてゆったりと過ごす。
 久しぶりにメディアに触れた。ここ最近本当に“テレビ”は、俺の中で存在していなかった。

 新鮮だが、やっぱりバラエティーとかドラマとか、メディアは一定だ。普段みんな、これを観るんだよなと思うと、なんだか、宙に浮くような気分。あまりにも俺の現実と掛け離れていて。
 しかしたまに環が「ふふ」と笑うのを見て、ああそうかと感じた。

「さぁて、俺風呂入って寝ますね」

 時刻は、夜のニュース番組がやるころ。
 伊緒がやけに俺と環を凝視して言った。気付けば俺は自然と、環の肩を抱き寄せるようにしていたことに気が付いた。

あぁぁ…。
これ、樹実のクセだ。こんな時に出ちまうなんて。

「なんか…。
 流星さんのリラックススタイルが俺、漸くわかりました」
「は、はぁ」

 然り気無く環の肩から腕を抜く。
 それを見て伊緒はにやにやして、「では」と言い風呂場へ向かう。

「ごゆるりと」

なんかそれ。
このエロガキ。なんだよそれいま俺のメンタルにあかんやつやん。どこで覚えやがった、政宗か?潤は…ねぇな。多分あいつバカだから言葉を知らない。

「流星さん」
「ん、ん?」

 環がそんな俺の葛藤を知らずににこっと笑った。

「流星さん、あったかい」
「ほっ、」

だーめー!
なんかそれ今俺だーめー!

「あ、ありがと、あの、汗臭くないですか俺は」
「…?だいじょぶです」
「あよかった、よかった、」

なんなの俺。
マジでなんで今日こんな色々意識をしているの。俺ってこんな幼稚だったの?

 しかしやはり葛藤知らず。
 環はこてっと寄り掛かってきた。

ヤバイよそれは。
心臓が…。

しかし意外とあれ?

 少しの甘い臭いとか、とにかくなんだか、“人”を感じて。

「…」

 また肩を抱いてみる。
 あぁ、急速に落ち着いていく。

「…不思議だね」
「はい?」
「なんだろ、落ち着く」
「…そうですか」

 顔をあげてにやりと笑う。

「私も」

あぁ、そうなの。
なんだかそれ。

「よかった」

ほっとした。
もう、まぁいいや。
俺多分、いまわりと、こう…。
幸せ?な気がしてきた。

 しばらくなんか、
ニュースとか垂れ流しながら、だけどあんまり内容とかわからないまま。
 なんとなく二人でずっとそのまま過ごした。

 伊緒が風呂上がりに一声掛けてきて、「おやすみなさい」。
 先に環を促して、俺は一人、やっぱりぼーっとしながら、思いを巡らせながらメディアに目を滑らせていた。大学のニュースも、あったけど。

なんだ。俺、珍しく。
この感覚、多分忘れていた。けど、昔より凄く新しい。新鮮だ。

俺普通に。
普通に?そう、多分。

だけどまだ、ごめん環。
俺はそれに気付かないことにしたい。だって、いまそれに気付いたら、背徳感もあるし。君の過去を考えれば、それは道徳に反する。
ま、それも自意識過剰か。俺だけだよ、この気持ち。

 封印してみた。

俺って結局、こんな仕組みで出来てるな。どうして自我を守るとこうなるんだろう。

でも、事実。
俺今無くさないようにとしか考えられない気がしちゃって。いつか壊れる。この恐怖は、昔からどこかで何かに使ってきてるのに、やっぱ感情の対処とか、まだ俺は上手くないな。大人なのに。

『失う瞬間なんてね、ホント、あっという間なのかも』

 あいつが
夜中に寝れなくてひたすら起きていたとき、そんなこと言ってた。ぶっ壊すのはいつだって自分だったって。

あぁ、なんだろ。

 俺そんなとき、あいつになんて声掛けられなかった。けど、

「流星さん」

 はっとした。
 振り返れば、髪の濡れた環がいて。

「お先にしつれい、しました」

 と言う。
長い髪から落ちる滴が綺麗で。

「ん。
 髪は乾かしなよ?風邪を引いちゃうから」

 立ち上がり、立ち尽くした環の前まで行き、やり場がなくて髪をタオルで撫でるように拭いた。
 無言で見つめ合って、こちらが根負け。取り敢えず俺も風呂に入ることにする。

 それからも考えを巡らせ、途中で洗面台の方からドライヤーの音とかしたけど、ずっとシャワーの42°を浴びていたら途中で頭がボケた。

 完璧に逆上せた。

 ヤバイと思って水を浴びようかとしてやめた。多分心筋梗塞で死ぬ。その死に方、情けない。

 それに気付いてから即風呂場から出た。頭くらくらした。ちょっとふらついてるようなふわっふわさでリビングに戻ってコーヒーを飲んだ。

「ぬるっ、」

 不味くなっていた。しかしもう飲み干して歯を磨いた。
 さあ寝ようかと考えて一瞬はっとしたが、そうだ俺、今日からソファじゃん。

実際寝れるの?多分寝れるけど不眠症に近くなる予想。俺これからずっと生きていける?

 考えてると、開け放たれた寝室から「流星さん」と呼ばれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...