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The 20th episode
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家で淡々とテレビを見ている。先程から流れるニュースは、大学のヤツばかりで。
ここ二日は久しぶりに引き籠りを再開していた。これはこれで懐かしい。
けど虚無感。懐かしい。俺確かに昔こんな心境だった。
テレビでの情報を見ると、未だ逃亡した犯人の足取り掴めず、しかしまんま警察庁管轄になった、ということだ。
だから俺はこの謹慎一週間休暇、一人なのである。あれから、祥ちゃんはこない。
それもそうだろう。
現場で鉢合わせしなかったのが奇跡というべきか。しかしどうだろうな、流石に気付いてしまったかな、俺が特本部だってさ。
あの時政宗は俺に訪ねた「山下祥真の知り合いか」と。
とっさに嘘を吐いたのは職業柄と言うことにしたい。だが正直微妙だ。
今回機捜隊が動いたことも、暁子が死んだことも、
俺が警視庁長官に腹をぶっ刺された時に病院にいたことも、祥ちゃんに対して疑問はいくつもあった。
だが、そこまで露骨な男ではないだろうし、何故俺といるのかがわからない。
しかし彼はスパイ的な行為をしてテロ紛いまで一度したことがあるのは俺が重々わかっている。だがやはりエレボスと繋がりが見当たらない以上は全ては偶然と、片付けるべき事案で。
いや、正直本当は。
俺はこの関係を崩したくないのだ。
まるで昔を思い出すようで正直いたたまれない。早く来て欲しい、それがあるから家を留守にするのも嫌だ。
しかし不眠だ。安定していない。
流石にあれから48時間くらいの間、寝れて30分を何回か。これは病的だ。だから妙に頭が回らず、しかし巡ってしまう。
あぁ嫌だなぁ。なんか。
いっそ思いきって風俗でも行こうかな。いやいいやめんどくせぇ。もう一度寝てみようかな。
ホントいつからこんな体質になったんだろ、我ながら不便だ。
再び寝室へ行き、テレビはなんとなく点けたまま布団に入った。
3分クッキングに切り替わった辺りで軽く寝れそうだと、そんな風に微睡んでいたときだった。
玄関のドアが開いて閉まった音。これはもう少しで夢かなぁ、そう思ったとき、
「あれ、潤、いないの?」
声がした。それから部屋を覗き込んできた口元の黒子に黒縁メガネに。
「あれ?」
少し疲れが見える表情の彼は、それでも爽やかに微笑んだ。
「あ、いたいた。
潤、ただいま」
「祥ちゃん…」
祥ちゃんはリビングのテレビを消して、「点けっぱはよくないよ」と言った。
「祥ちゃん、」
「どうしたの潤。そんな死にかけの野良猫みたいな顔し」
「祥ちゃん…!」
覚醒して起き上がる。
あぁ、よかった帰ってきた。
「起こしちゃったね」
「お帰り、あの…。
大丈夫だったの?」
「ん?」
「ニュース見たよ」
「あ、あぁ。
まぁちょっと大変だけど、大方片付けてきたよ」
「そう…」
「潤こそ仕事は?」
「あ、いやぁ。
依頼とか丁度切れてね」
「そっか。探偵ってまばらなんだね」
そう言ってまた微笑んで、「コーヒー飲む?」と聞いてきた。
「ん、いいや」
「そう。昼飯は?
てか潤、俺が君ん家来ないとやっぱ散らかるねぇ。でもまともに食ってないでしょ」
「んー、そうかも」
「事件のやつでちょっと色々あって、俺マンション引き払ったから」
「は?」
なにそれ。
危ないことになったの?まぁ確かに、わかる気がするけど。
「しばらく住んでいい?」
「なんか…」
FBI並の警備だなそれ。
「いいけど」
「悪いね、ちょっとヒモ野郎っぽいけど」
「ねぇ祥ちゃん」
「ん?」
「あんた、大丈夫なの?」
それには一瞬、自分のコーヒーを用意する手が止まったような気がした。
「潤、」
「祥ちゃん、あのさ…」
「君はさ、」
コーヒーをいれ、それからベットに座り、飲みながら言った。
「君は俺との生活、どう思ってる?」
「え?」
俺を見る目はなんだか、
寂しいような、しかしどこか凶器的な物を見るような気がした。
「このまま続けていいのかなって」
「…それは、どういう…」
「いや、」
また祥ちゃんはコーヒーを一口飲んで、今度は緩やかな表情で染々と言った。
「珍しく俺、わりとこれは居心地がいいなって思ったからさ。
ごめんね、ちょっとナーバスになったよ珍しく。でも、君の純粋さに、ちょっと落ち着いたわ」
「うん、まぁ…」
「腹の傷は大丈夫かい?
てか、寝れてないでしょ。非常に不健康そうな血色だよ」
いつも通りの優しい表情に戻った。
コーヒーをリビングのテーブルに置いて、また戻ってきては、緩く手を握って頭を撫でられた。
「少し寝てなよ。その間飯作るからさ」
「うん、ありがと。…ちょっと軽めのがいい」
「わかった」
再び寝転がれば、自然とまた眠くなって。
「潤、俺は…。
俺が裏切ったとしても潤には、そのままでいて欲しいと願うよ」
なにかが聞こえる気がする。
夢かもしれない、今は心地いい。
眠ることはとても大切だ。一度リセットするんだ、今日という日を。夢で汚したとしても。
ここ二日は久しぶりに引き籠りを再開していた。これはこれで懐かしい。
けど虚無感。懐かしい。俺確かに昔こんな心境だった。
テレビでの情報を見ると、未だ逃亡した犯人の足取り掴めず、しかしまんま警察庁管轄になった、ということだ。
だから俺はこの謹慎一週間休暇、一人なのである。あれから、祥ちゃんはこない。
それもそうだろう。
現場で鉢合わせしなかったのが奇跡というべきか。しかしどうだろうな、流石に気付いてしまったかな、俺が特本部だってさ。
あの時政宗は俺に訪ねた「山下祥真の知り合いか」と。
とっさに嘘を吐いたのは職業柄と言うことにしたい。だが正直微妙だ。
今回機捜隊が動いたことも、暁子が死んだことも、
俺が警視庁長官に腹をぶっ刺された時に病院にいたことも、祥ちゃんに対して疑問はいくつもあった。
だが、そこまで露骨な男ではないだろうし、何故俺といるのかがわからない。
しかし彼はスパイ的な行為をしてテロ紛いまで一度したことがあるのは俺が重々わかっている。だがやはりエレボスと繋がりが見当たらない以上は全ては偶然と、片付けるべき事案で。
いや、正直本当は。
俺はこの関係を崩したくないのだ。
まるで昔を思い出すようで正直いたたまれない。早く来て欲しい、それがあるから家を留守にするのも嫌だ。
しかし不眠だ。安定していない。
流石にあれから48時間くらいの間、寝れて30分を何回か。これは病的だ。だから妙に頭が回らず、しかし巡ってしまう。
あぁ嫌だなぁ。なんか。
いっそ思いきって風俗でも行こうかな。いやいいやめんどくせぇ。もう一度寝てみようかな。
ホントいつからこんな体質になったんだろ、我ながら不便だ。
再び寝室へ行き、テレビはなんとなく点けたまま布団に入った。
3分クッキングに切り替わった辺りで軽く寝れそうだと、そんな風に微睡んでいたときだった。
玄関のドアが開いて閉まった音。これはもう少しで夢かなぁ、そう思ったとき、
「あれ、潤、いないの?」
声がした。それから部屋を覗き込んできた口元の黒子に黒縁メガネに。
「あれ?」
少し疲れが見える表情の彼は、それでも爽やかに微笑んだ。
「あ、いたいた。
潤、ただいま」
「祥ちゃん…」
祥ちゃんはリビングのテレビを消して、「点けっぱはよくないよ」と言った。
「祥ちゃん、」
「どうしたの潤。そんな死にかけの野良猫みたいな顔し」
「祥ちゃん…!」
覚醒して起き上がる。
あぁ、よかった帰ってきた。
「起こしちゃったね」
「お帰り、あの…。
大丈夫だったの?」
「ん?」
「ニュース見たよ」
「あ、あぁ。
まぁちょっと大変だけど、大方片付けてきたよ」
「そう…」
「潤こそ仕事は?」
「あ、いやぁ。
依頼とか丁度切れてね」
「そっか。探偵ってまばらなんだね」
そう言ってまた微笑んで、「コーヒー飲む?」と聞いてきた。
「ん、いいや」
「そう。昼飯は?
てか潤、俺が君ん家来ないとやっぱ散らかるねぇ。でもまともに食ってないでしょ」
「んー、そうかも」
「事件のやつでちょっと色々あって、俺マンション引き払ったから」
「は?」
なにそれ。
危ないことになったの?まぁ確かに、わかる気がするけど。
「しばらく住んでいい?」
「なんか…」
FBI並の警備だなそれ。
「いいけど」
「悪いね、ちょっとヒモ野郎っぽいけど」
「ねぇ祥ちゃん」
「ん?」
「あんた、大丈夫なの?」
それには一瞬、自分のコーヒーを用意する手が止まったような気がした。
「潤、」
「祥ちゃん、あのさ…」
「君はさ、」
コーヒーをいれ、それからベットに座り、飲みながら言った。
「君は俺との生活、どう思ってる?」
「え?」
俺を見る目はなんだか、
寂しいような、しかしどこか凶器的な物を見るような気がした。
「このまま続けていいのかなって」
「…それは、どういう…」
「いや、」
また祥ちゃんはコーヒーを一口飲んで、今度は緩やかな表情で染々と言った。
「珍しく俺、わりとこれは居心地がいいなって思ったからさ。
ごめんね、ちょっとナーバスになったよ珍しく。でも、君の純粋さに、ちょっと落ち着いたわ」
「うん、まぁ…」
「腹の傷は大丈夫かい?
てか、寝れてないでしょ。非常に不健康そうな血色だよ」
いつも通りの優しい表情に戻った。
コーヒーをリビングのテーブルに置いて、また戻ってきては、緩く手を握って頭を撫でられた。
「少し寝てなよ。その間飯作るからさ」
「うん、ありがと。…ちょっと軽めのがいい」
「わかった」
再び寝転がれば、自然とまた眠くなって。
「潤、俺は…。
俺が裏切ったとしても潤には、そのままでいて欲しいと願うよ」
なにかが聞こえる気がする。
夢かもしれない、今は心地いい。
眠ることはとても大切だ。一度リセットするんだ、今日という日を。夢で汚したとしても。
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