ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 21st episode

2

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 厚労省の前で一度伊緒とは別れ、喫煙所(通路)へ向かう。

 潤が一番奥の灰皿の前にいた。鞄を手に持っているし、どうやら奴もいまから出勤のようだ。
 ぼんやりと煙を眺めている様子が太陽に照らされている。背が高いし最早それだけで目立つ。
 俺も潤の灰皿まで行くが、至近距離になって漸く気付いたらしい。「あ、はよっ」とぎこちなかった。

「うぃっす」
「あれ、お前さ」

 と言ったかと思えば潤は突然人の臭いをなんかくんくんと人目も憚らず(あんまりいないけど)嗅ぎ始め、「え、なに」とこちらが戸惑えば一言。

「タバコ変えた?」

マジか。
まだ俺はタバコを出していないぞ潤。

 最早俺はひきつった顔で「あぁ、はぁ…」と素直にラキストを出す羽目になった。しかしポケットからパッケージは出さず探り当てて1本出す。

「え、なに?何にしたの?よく見えないけど吸い口茶色い、何?アメスピじゃないの?ラキストかなんか?」
「お前怖い、何でわかったの」

気持ち悪い、お前の特技って全体的に。

「え、マジ?あてずっぽうだったけど」

うわっ、軽くイラ。

「ねぇねぇ、一本頂戴よ吸ったことない」
「うるさいなお前朝から…」

 しかしこれはソフトパック本体をそのまま渡したら絶対にいたずらされる。一本だけ渡すと潤は今吸っていた1mmをもみ消して捨て、「ほれ、」とキャスターを寄越してきた。

「いらないんだけど…」

 と言いつつ然り気無く中身を見て、吸い口が茶色いやつを引き抜けば「はっはー!ハズレ~」と言いながら自分のを何本かと俺のを何本か入れ換えた。
 結果、潤の外れはもう一本俺のタバコに混入された。

「おいこの洋モク誰のだよ、パッと見マジでわかんねぇじゃん」
「あぁ、吸い口茶色いからね。心なるハズレだな。お前ついてないね」
「なにそれ死」

 ラキストを吸って「ぐはっ、」と潤は噎せていた。

バカだなお前。大体お前1mmじゃん、JTじゃん。それだけで11mmに勝てないのにくわえてラキストだぞ。酷く喉にキただろうなバカめ。

「うわまっず。なにこれ手榴弾かよっ、ごほっ、」
「なにその例え。タバコですけど?」

てかお前のソフトパック、それじゃ大体洋モクしか入ってないんじゃね?最早。

「人の、時を、お、思えよへっくし、」
「はぁ?」
「あ、待ってこれ刺激、あ、ありすぎ、あっ、」

 へっくし。
 くしゃみ連発。
バカだなマジでこいつ。

「お前なぁ、くしゃみは半径3m飛ぶんだぞわかってんの?」
「ひ、ひぇっくし、だ、もうこれいらん、なにこれ優しくねぇ。お前みたい嫌い」
「いやそれから引き抜くのも嫌だよ」

 そんな中。

「久々の朝日に風邪引いたのか引きこもりー」

 俺が来た方から政宗の声がした。フクブ、出勤。
 最早喫煙所(通路)は俺ら特本部しかいない。

「おはよーさんバカコンビ」

 緩やかに笑って政宗は既にタバコを咥えていた。俺の隣に来て「ん?」と、ジッポを開けてから俺を見る。

「なんだ流星、タバコ変えたのか?」
「二人してなんなの、怖いんだけど!
 え、そんな違うの?」
「あぁやっぱり。ラキスト?えらく親父臭いけど」

え。

「あわかるそれー。おっさんタバコの代表だよね」
「え、そぅれは…そうなの?」
「日本人の感覚だとな。団塊よりちょい後かバンド野郎が吸ってそうなタバコ」

マジか。

「日本人って乏しいなおい」

 2本目を咥えて火をつけた瞬間、ハズレだとわかった。

「うわっ、潤お前これ…」

 フィルターを見ればポールモールだった。

「あ、早速やられたか流星。なにそれポールモール?」
「なんでわかるのあんた」
「当たり前だろお前なぁ、俺元マトリだよ?葉っぱ係りだよ?」
「うわ、言い方どうかしてる。
 政宗、ちょっと貸せ。ラキスト嫌いくしゃみ出る」
「えー、まぁいいよラキストなら。でもお前のタバコなに入ってるかわかんねぇじゃん誰だよポールモール。それ俺嫌い。流星のすげぇ不味そうな顔見ると余計嫌だよ」

だってまずいよこれ。
つか、癖が強いなマジで。
てか会話が酷く不健全だけど。ここ一応公務員の敷地なんだよな外だけど。

 潤は「いいからはい、」と強引に政宗からソフトパックを奪い、最早テキトーに2、3本交換していた。多分白も一本あった。
 俺は心の中でヤツのそれを「洋モクパンドラ」と名付けた。

「てか潤、お前最早何で吸ってんの?」

 「やべぇキャスターが多分ねぇ」とか呟いた潤に聞いてみた。

「え?うーん…。
 あ、昔保護者はマルボロだったよ」
「うぇぇ、マジ?一緒?てか吸うのあの人」
「俺もそれビックリなんだけど。
 あ、でも待て…あぁ、吸ってたか。あれ、マルボロだっけ」
「そうだよ。家で仕事中とかよくパシらされたもん」
「うわっ、」
「売って貰えたのか」

確かに。
童顔だもんな、どちらかと言えば。

「あぁそういえば買えたね。夜中だからじゃん?」
「てかあの人案外人使い荒いよな」
「そーそ」
「おや、特本の皆さん」

 誰か来た。

「あっ、」

 潤が露骨に嫌そうな顔をしたのですぐに誰だかわかった。
マトリーズ辻井だろう。

 振り返ればやはりそう。にやにやしていた。

「前髪じゃん」
「いやぁ、おはようございます皆様。ご一緒いいですか?」

 政宗がタバコを消し、俺も吸い殻を捨て、潤も喋って消費した俺のラキストを捨てた。

「悪いが俺らは出勤だ。じゃーな辻井」

 政宗がそう言えば「やれやれ」と、辻井は一人タバコに火をつけた。
 去り際潤が、「ん、」と、睨むような微妙な視線で手を出した。
 疑問な顔をしていた辻井に潤は「タバコ貸して」とだけ言い、それに呆然とした辻井は潤に箱を託してしまったようだ。
 潤は即、辻井の箱から4本抜き、代わりに洋モクシリーズを詰め込んでいた。

「えっ、な、」
「ロシアンタバコ。じゃぁな前髪」

 辻井に背を向けこっちに向けば潤は「ひっひっひ」と笑っていやがった。

「多分全部洋モク」
「…つかあれも洋モクじゃん、JTじみてるけど、薬っつかプラスチックだけど」
「あそっか。でもJTじみてるからいーや、てかどうせJTだよ」
「ホントにな。JT滅べばいいのに」
「あ、だから変えたのか流星」
「そうですよ」

しかしまぁ。
辻井、可哀想に。あの箱じゃ多分入らなかっただろうに。

 「うわ、あいつの短けぇ、これつまんねぇ」とか潤がほざいてる。

やっぱりな。
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