ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 21st episode

1

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 過去に、ここへは来たことがある。

『どれくらい?』

 現在地ビルの20階。焦点を隣の15階ビル、端の部屋に向けて。

『行けそうかい?』

 向かいのビルで焦点がドアの方へ行く瞬間、
薬莢は飛んで窓が割れた。

『完了。ユミル、撤収』

 無機質にイヤホンマイクに話す自分の声が、記憶に響く。
 目の前が自室の白い天井に変わった。

「…」

 しばらくご無沙汰していたあの頃の夢を見て、

「あ、おはようございます流星さん」

横のリビングから、まだ慣れない小さな声と、小さなテレビの音がして。

 見た瞬間に視界に白い何かが掠めた。
 濡れた手拭いだった。額に手を当てる。

ひんやりしていた。

「…おはよう環」
「おはようございます」

 彼女は寝巻き姿で俺を見てはにやりと笑った。
 あれから環と俺は一緒に寝るようになったのだが、環は今日、寝れなかったのだろうか。

「ごめん、寝れなかった?」

 環は首を振る。

「起きたら流星さん、苦しそうでしたよ」
「そうなんですよねぇ、この人」

 キッチンから伊緒の声がする。
 正直苦笑しかしてやれなくて「タバコ吸ってくるわ」とベランダに出る。
 寝室の、デスクに置いた赤いマルにロゴが入ったパッケージ。ソフトパックで軽い。

 タバコを変えた、あれから。
 休日中に変えたので、今日復帰してタバコを見せたら「あれ?」と気付かれ、ソフトパックだからと潤にロシアンタバコをされそうだ。
 車のダッシュボードにまだあったかなアメスピ。

 何故変えたか。
 アメスピはJTの魔の手に落ち、味が劣化したからである。

 吸い口をぽんぽん叩いてみたら葉の量が減った気がするがそうじゃない、元々この変えたタバコには葉が入っていないらしい。
 人生で初めてタバコを変えて驚愕した。アメスピ、よかったのに何をしやがるJTめと恨む。
 いまや原爆記念タバコだ。酸っぱいが案外悪くない。これぞ洋モク。JTには負けない。

 しかし。
 やはり減るのが早いな、2本目を着火。お陰でタバコ代は増える予感だ。増税するし。世界中嗜好品に優しくないな。

 ぼんやりと煙を眺め、頭の中で、行ったら何をしようかと考える。まずは機捜隊訪問か、というか入間さんに挨拶(謝罪)をしなければな。

 高田はあれから俺の全着信を無視しているし。本格的に離脱を言い渡されるかもしれない。

 タバコが終わる。
 さぁ何からやろうかと気持ちを切り換えてリビングに戻り、いつも通り支度をした。

 車に乗るのも久しぶりな気がした。運転席に乗れば、助手席に乗った伊緒が「タバコあります?」とダッシュボードを確認。まだアメスピは1箱あった。

「あー、それ頂戴」
「あ、やっぱこっちのが良いですか?」
「いや…。
 まぁ正直こう…タバコ変えてる期間だとどっちもいいんだけど、ほら、ラキストはソフトだから」
「ん?」
「絶対潤にイタズラされる」
「…Boxにします?」
「いやこの際ソフトが良い」

 伊緒は疑問顔だった。
 一服し、車内を温め発進させる。

「ま、そうだよね」
「そもそもソフトとBoxって味違うんですか?同じ銘柄でも」
「あ、それよくある質問。
 変わらないけど変わる」
「んー」
「ソフトパックのが形状的に空気に触れやすいから、最後の一本あたりになると味が劣化する」
「じゃBoxのがよくないですか?」
「かさばるし、それにな、ソフト愛好家は、元々その味の違いが好きなんだよ多分。俺最初の2、3本よか最後のやつのが好き」
「はぁ…」

 明らかに疑問から奇妙に変わる伊緒の表情に、「お前もいる?」と一本出すが

「いえ、未成年ですから」

と断られた。
なんか昔の俺と樹実を思い出した。こんなやりとりを何度もしたなぁ。今や俺も中毒者に成り下がってしまった。

そういえば潤は前、タバコを吸わなかった。何がきっかけで吸うようになったんだろ。確か雨さんは吸わなかった。やっぱ20になったからかな。

ま、どうでもいいんだけど、あいつは。

「あいつ確かソフトパックだったよなぁ」

大体ロシアン済みのやつ。

「潤さんですか?」
「うん。大体ロシアンしてある」
「相手がソフトパックなんですかね」
「だろうな」

 伊緒はそれに少し思慮顔だった。
なんだろ。

「吸いたくなった?」
「いえ、別に」
「あそう…」
「潤さん、大丈夫ですかね」
「何が?」
「いや、まぁ、傷とか…、政宗さんに言われてたこととか」

ん?

「何が?」
「いや、その…機捜隊の」
「あ、あぁ…」

いやぁ、しかしなぁ。

「早とちったんだろ、多分」
「え、誰がですか?」
「誰がって、政宗が」
「あ、あぁ…うーん」
「なんだよ、なんか思うことあんの?」

こう不透明な会話は好まない。
確かに俺だってそこには、思うところはあるが。

「いや、俺その山下さん?あんまり好きじゃないなって」
「あぁ、まぁね…。悪い奴じゃねぇけど俺も未だにあいつはわからん」
「あ、そうなんですか」
「まぁね」

疑問もわかるが。
心配もわかるが。

「潤は確かに変な運があるからな。類友的な。だがまぁ、アホだがバカじゃねぇから」
「と言うと?」
「二人ともを知るから思うが、多分ないよ。理由なく互いに人に干渉しないし。もし仮にそうだったらあいつらタイプ的に、破滅しかねぇよ」
「…俺と政宗さんは多分、仮にを心配してるんですが…」
「ないない。タイプが似すぎ。絶対一緒にいれないと思う、多分な」

しかしまぁ、確かに潤は最近ちゃんと帰宅している。本当にちゃんと恋人でも出来たか、俺みたいに大切な人が出来たか…。

大切な人?

「あれ、流星さん」

大切な人!

「駐車場過ぎましたけど」

 伊緒に言われて気付き、一個先の信号で進路を変え、遠回りして厚労省についた。
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