ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
273 / 376
The 23rd episode

3

しおりを挟む
 捜査車両なので、気を紛らわす音楽がなかった。
 ラジオを聞いてもテレビ放送では警察組織が、大学の件で叩かれまくっていて。まぁ、仕方がない。結果どちらも爆発した。人も死んだ。

 高梁たかなし銀次ぎんじと里中栄の遺体は放火により葬られた。
 里中からも高梁からも、知らない情報は出てきた。果たして相手方は俺たちのどこまでを知っていて、また情報源はなんだろうか。

 こちらはまだまだお前らなんて謎でしかない。昔ほぼ壊滅させた宗教団体の残党である箕原みのはらかい、高梁銀次。高梁の存在は正直、ホテル爆破で知った。

『“昴の会”は皆平等だ』

 恭太の時にも祥真が言ったその宗教団体。祥真があの団体を知っているのも驚いたが、“兄貴”と言ったその男は恐らく樹実だ。
 だとしたら俺が高田を“父”と言ったことに疑問を持ったあいつはなんだ。俺は一体何者で、樹実は、何者なんだ。

 まだまだ、世界は広すぎるとうんざりする。そんな野暮な情報で人がこれだけ動かされるのは、いささか気に入らない。

 果たして俺は何人殺し、死んだのか。樹実が背負った命を考えれば、犠牲が多すぎる。

 止まないラジオが煩わしい、止める。

 日本の道路はこれだけ狭くて、日本はこんなにも狭いのに、俺はどこに暮れているんだ。

 こうもネガティブだと勝てなくなる。必死に鮫島を落とす案を考えた。

結局最後は自分を信じなければ、これだけ多くの命を亡くした俺に意味はない。信じたって意味はない。

きっと、潤。
俺、これが終わっても、幸せには、多分なれないんだ。どこかお前だって闇を背負うはずだ、どんな結果であれ。まだ闇を愛せる程、この踏み入った暗闇を照らせていない。

だから、せめて。
樹実のようにはなりたくない。後に、闇を残して人を苦しめるような結果は残したくない。せめて、今からでも目の前を愛さなければならない。

樹実はヒーローだ。
だけどいつまでも、俺の中では樹実はヒーローなんだ。哀しいと、思えるくらいに。

 暗い昔への扉が見えたとき、鮫島の会社、証券会社 ゼウスを通りすぎたことに気付いた。
 引き返してゼウスの、地下の駐車場へ車を止める。何事もなく。
 しかし駐車場で。
 車から降りたとき、鮫島と付き人に遭遇した。
 前は短い髪やら目鼻立ちが、白澤しらさわ銀河ぎんがに少し似ていると感じたその中年は、案外、先輩には似ていないほど目付きが吊っていると気が付いた。

「…君は」
「…厚労省特本部のスミダと申します」

 偽物だが手帳を胸ポケットから出して見せれば、鮫島は細い吊り目をさらに細め、口元を歪めるように笑って、「あぁ、壽美田くん」とはっきりと言った。
 付き人の、ホストみたいな、しかし少年顔の細身な若い男に鮫島が「悪い、客だ」と言えば付き人の男は腰を降り、「失礼します、社長」と言い、今来た、駐車場のから社内への裏口のような扉へ去って行った。

「厚労省?へぇ。いきなりアポなしでどうしたの」
「…そのわりにタイミングが絶妙ですね」
「會澤さんの件ならもういいでしょ?俺の疑いは晴れたでしょ」
「別の件で参りました」
「厚労省と言えばまさしくいま世間にぶっ叩かれ中だね。そんな君を顧客にはしたくないが、まぁ君に興味はある。話を聞こうか」
「そうですね。絶賛渦中です。あんたも、その件で来ました」
「…投資の件?確かに大学の研究には投資したこともあるよ。どうせ伝票だって持ってるから来たんだろ?
 ただ、別に危ない所とは」
「インサイダーの件でもって、
声が通りますね、地下駐車場ってのは。もしよければ社長室に読んで頂きたい。
 殺された警視庁長官に、あんたインサイダー取引持ちかけてただろ」

 外れていないだろう予想を言ってみた。だがデタラメレベルだ。と言うかデタラメであって欲しいと願う俺には祥真の顔が浮かんで仕方なかった。

 だが鮫島は目の笑いを取り、「あぁ、なるほどね。じゃぁ、社長室に行こうか」と眼光を鋭くした。

当たってるかはわからないが、何かしら鮫島の心にぶち当ててしまったらしい。

 祥真の顔を無理に意識から引き剥がして、また裏口へ向いた鮫島の後に着いていった。思わず、懐にあるM18の存在を確認する。
 敵地に入る。これはそういうことだ。
 しかし気配に気付いたらしい鮫島が、「そんなに殺気立てないでよ」と言った。

「もしかすると君にも為になる話だ、壽美田流星。それとも、冨田とみた竜也たつやがいいかい?」
「からかうのもいい加減にしてくれませんか」

 一瞬名前に違和感があったが、そうだヤクザネームだと思い出して思わず感情を出してしまった。
 鮫島は「ははっ、悪いね」と軽口を叩く。

「君が追ってるモンは、どうやらそうやって胡散臭いらしいな」
「…は?」
「またまたぁ。俺は君と友好を結びたい。てか、君もそれを求めるだろう」

自信があるらしいな。

 少し覚悟した。鮫島が裏口の扉を開ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...