272 / 376
The 23rd episode
2
しおりを挟む
「取り調べって、鑑識じゃぁしたこと…」
「実はありますよ」
笑顔で慧さんは語る。「犯人が昔、僕を指名したことがありまして」
どんな事件だそれ。
経歴、非常に興味深いな。しかし次には「じゃぁ俺が行きましょうか」と、鉄面皮後継者瞬が言う。
「あ、二人でやるってどうだい瞬くん」
「やる気満々ですね。まぁどちらも二人は残るし、あとは任せちゃってもいいですかね」
「それって二人で取り調べるの?」
潤が頬杖をついてぼんやり言った。
不満そうだがお前もわりと取り調べはあかん方じゃんか。
「そうですね」
「一人をストーカー、一人をマトリに派遣するってどう?」
と話を振ってくるが。
「マトリはお前じゃないのか潤」
「は?なんで」
「前髪」
はっと思い出したらしく「やべぇ、そうだったよ」と潤は頭を抱えた。
「うわくっそ、こんな時に何故いないユミル、俺の仕事鬼じゃん」
「まぁな」
「まぁお前が蒔いた種だがな」
ずっとかちゃかちゃやりながら政宗は助言。というか横やり。
面倒だが人員配置を考えよう。
「…すみませんが鑑識チーム、一番優秀なんでユミルの野暮用をお願いします。
マトリは潤か瞬に任せよう。片方がマトリ、片方が先日の大学。霞と諒斗はそのままホテル」
「じゃぁ瞬、大学で」
「かしこまりました」
二人の間で決まったらしい。
ならば経つ準備をしようか。パソコンを閉じデスクを立った時潤に「ついでにタバコ」と、着たコートの裾を引っ張られたので見てみれば。
潤はやけに含みある、気の強い視線を送ってきやがったので「はいよ」と。
「政宗は行きますか」
「いやあとちょい」
珍しい。
多分始業から二時間、吸ってないんじゃないか、だからかそのイライラ。
「いや、昼休みにしたら?」
「てめえらどうせ話でもあんだろ。まぁ流星、気を付けて」
「はい、いってきます」
鞄やらも手に持ち「おら、行くぞ潤」と促せば潤もコートを羽織ってふらっと椅子から立ち上がり、二人で部署を出た。
「寒ぃから車入れろ」
「いや、車も寒ぃよ多分。まぁいいけど。風強ぇしな」
潤がわがままを言ったので、俺たちは喫煙所でなく、車へ移動した。
最近事件があってから俺は車種変更をした。半ば強制的に。帰ったら白のセダン、しかし右ハンドルという中途半端感がある車があって、正直「返って目立つだろう」と高田にメールをしたが返ってこないのだ。
長くなるなら俺の車で話を聞こうかと考えたが、潤が受付で捜査車両の鍵を受け取ったので、そちらに乗ることにする。
白の日本車だった。
左を開けた潤を見て、そうか普通そうだよなとなんとなくぼんやり思いながら右の運転席に乗る。扉を閉めて早々、潤はタバコを咥えて火をつけた。
「お前、自分の出生を知らないらしいな」
「え、なんだいきなり」
「いや、あのライターの話だ。正直嘘か本当かわからんのは、お前のことを俺は知らないからな。判断出来ない」
「…あいつがそう言ったのか」
「夢みてぇな話だがな。お前の父親が高田の元相方じゃねぇかと言われた」
「は、いや…」
わからんけど。
「…俺の戸籍は適当なことになってるぞ。樹実だからな。まぁあいつの知り合いか何かの籍に入ったんだろうと思うが」
「つまり知らねぇわけだよなお前も」
「…何が言いたい?」
正直その話は俺も、自身のことながら薄い。しかし俺だって潤に出会ったのは警察学校だ。身の内の話をするほどでもないし。
「いやどうせバレそうだから言っとくが、俺は前防衛省幹部の倅だ」
「はぁ、そう…」
温室説、マジだったか潤。
あ、でもなんか繋がってきたぞ。だからちらほら、海軍訓練所が出てくるのか。
「父親は10歳の時に暗殺された。このネタはあまり知られていない。息子の存在すら葬式で皆知るような状態だった」
「…なるほどな」
「だから俺も戸籍が曖昧だ。親戚やら、親戚かどうかも怪しいところを、たらい回しにされていたから。
漁ろうにも俺の過去なんてそうやって難しいわけだが、あのライター、父親ならまだ調べがつくが、海上自衛隊幹部に預けられたことを知っていた」
「…それは事実、というわけだな」
「ああまあな。この情報を知っているのは当時の警察組織のほんの一握りだ。正直俺くらいのスパイじゃない限り一般のライターなんかが知れる情報でもない、知ったところで俺が生きてきた道筋を追えるヤツなんてごく僅かだ」
「…つまりヤツはわりとお偉いやつと繋がりがあるわけか。それがしかもこっちサイドで、だが敵方に回っている、と」
「お前、鮫島はわりと警察と繋がっていそうだと言ったよな」
「あぁ、なるほどね」
「実際のとこもしそうなら、俺の少しくらいだが一部情報が漏れている。そしてお前のネタがガチだとすればお前、」
「確かにわりとあぶねえな」
しかし実感がない。
ふと笑えば潤は「流星、」と、マジな感じで言ってくるが。
「悪ぃ。俺嘘偽りなく自分のこと、覚えてすらいないんだ。
どこかの国で樹実に拾われ日本で国籍を得た。樹実が言うには俺はだが、日本人らしい。確かに、その日現地で話していた国の言葉がわからなかった。何故だろうな。多分日本人しかいないような場所だったのかもしれない」
「それって…」
出生について、考えなかったかと言えばそれは嘘だが、正直記憶の何かが邪魔をする。思い出したくても出来ないのだ。
「…だから、環ちゃんなんだな、お前」
「え?」
「いや、今のは感想。まあ行くならそれなりに力入れて行けよ」
「そうだな」
不器用ながらこれもヤツの気遣いかと。
それから車を降りて振り向きもしない潤に、それを感じた。
今更何が出たところで。
それが過去なら、もうそれは俺でなく、ベトナムで死んだ一人の子供の話だ。付きまとうなら、亡霊だ。
「実はありますよ」
笑顔で慧さんは語る。「犯人が昔、僕を指名したことがありまして」
どんな事件だそれ。
経歴、非常に興味深いな。しかし次には「じゃぁ俺が行きましょうか」と、鉄面皮後継者瞬が言う。
「あ、二人でやるってどうだい瞬くん」
「やる気満々ですね。まぁどちらも二人は残るし、あとは任せちゃってもいいですかね」
「それって二人で取り調べるの?」
潤が頬杖をついてぼんやり言った。
不満そうだがお前もわりと取り調べはあかん方じゃんか。
「そうですね」
「一人をストーカー、一人をマトリに派遣するってどう?」
と話を振ってくるが。
「マトリはお前じゃないのか潤」
「は?なんで」
「前髪」
はっと思い出したらしく「やべぇ、そうだったよ」と潤は頭を抱えた。
「うわくっそ、こんな時に何故いないユミル、俺の仕事鬼じゃん」
「まぁな」
「まぁお前が蒔いた種だがな」
ずっとかちゃかちゃやりながら政宗は助言。というか横やり。
面倒だが人員配置を考えよう。
「…すみませんが鑑識チーム、一番優秀なんでユミルの野暮用をお願いします。
マトリは潤か瞬に任せよう。片方がマトリ、片方が先日の大学。霞と諒斗はそのままホテル」
「じゃぁ瞬、大学で」
「かしこまりました」
二人の間で決まったらしい。
ならば経つ準備をしようか。パソコンを閉じデスクを立った時潤に「ついでにタバコ」と、着たコートの裾を引っ張られたので見てみれば。
潤はやけに含みある、気の強い視線を送ってきやがったので「はいよ」と。
「政宗は行きますか」
「いやあとちょい」
珍しい。
多分始業から二時間、吸ってないんじゃないか、だからかそのイライラ。
「いや、昼休みにしたら?」
「てめえらどうせ話でもあんだろ。まぁ流星、気を付けて」
「はい、いってきます」
鞄やらも手に持ち「おら、行くぞ潤」と促せば潤もコートを羽織ってふらっと椅子から立ち上がり、二人で部署を出た。
「寒ぃから車入れろ」
「いや、車も寒ぃよ多分。まぁいいけど。風強ぇしな」
潤がわがままを言ったので、俺たちは喫煙所でなく、車へ移動した。
最近事件があってから俺は車種変更をした。半ば強制的に。帰ったら白のセダン、しかし右ハンドルという中途半端感がある車があって、正直「返って目立つだろう」と高田にメールをしたが返ってこないのだ。
長くなるなら俺の車で話を聞こうかと考えたが、潤が受付で捜査車両の鍵を受け取ったので、そちらに乗ることにする。
白の日本車だった。
左を開けた潤を見て、そうか普通そうだよなとなんとなくぼんやり思いながら右の運転席に乗る。扉を閉めて早々、潤はタバコを咥えて火をつけた。
「お前、自分の出生を知らないらしいな」
「え、なんだいきなり」
「いや、あのライターの話だ。正直嘘か本当かわからんのは、お前のことを俺は知らないからな。判断出来ない」
「…あいつがそう言ったのか」
「夢みてぇな話だがな。お前の父親が高田の元相方じゃねぇかと言われた」
「は、いや…」
わからんけど。
「…俺の戸籍は適当なことになってるぞ。樹実だからな。まぁあいつの知り合いか何かの籍に入ったんだろうと思うが」
「つまり知らねぇわけだよなお前も」
「…何が言いたい?」
正直その話は俺も、自身のことながら薄い。しかし俺だって潤に出会ったのは警察学校だ。身の内の話をするほどでもないし。
「いやどうせバレそうだから言っとくが、俺は前防衛省幹部の倅だ」
「はぁ、そう…」
温室説、マジだったか潤。
あ、でもなんか繋がってきたぞ。だからちらほら、海軍訓練所が出てくるのか。
「父親は10歳の時に暗殺された。このネタはあまり知られていない。息子の存在すら葬式で皆知るような状態だった」
「…なるほどな」
「だから俺も戸籍が曖昧だ。親戚やら、親戚かどうかも怪しいところを、たらい回しにされていたから。
漁ろうにも俺の過去なんてそうやって難しいわけだが、あのライター、父親ならまだ調べがつくが、海上自衛隊幹部に預けられたことを知っていた」
「…それは事実、というわけだな」
「ああまあな。この情報を知っているのは当時の警察組織のほんの一握りだ。正直俺くらいのスパイじゃない限り一般のライターなんかが知れる情報でもない、知ったところで俺が生きてきた道筋を追えるヤツなんてごく僅かだ」
「…つまりヤツはわりとお偉いやつと繋がりがあるわけか。それがしかもこっちサイドで、だが敵方に回っている、と」
「お前、鮫島はわりと警察と繋がっていそうだと言ったよな」
「あぁ、なるほどね」
「実際のとこもしそうなら、俺の少しくらいだが一部情報が漏れている。そしてお前のネタがガチだとすればお前、」
「確かにわりとあぶねえな」
しかし実感がない。
ふと笑えば潤は「流星、」と、マジな感じで言ってくるが。
「悪ぃ。俺嘘偽りなく自分のこと、覚えてすらいないんだ。
どこかの国で樹実に拾われ日本で国籍を得た。樹実が言うには俺はだが、日本人らしい。確かに、その日現地で話していた国の言葉がわからなかった。何故だろうな。多分日本人しかいないような場所だったのかもしれない」
「それって…」
出生について、考えなかったかと言えばそれは嘘だが、正直記憶の何かが邪魔をする。思い出したくても出来ないのだ。
「…だから、環ちゃんなんだな、お前」
「え?」
「いや、今のは感想。まあ行くならそれなりに力入れて行けよ」
「そうだな」
不器用ながらこれもヤツの気遣いかと。
それから車を降りて振り向きもしない潤に、それを感じた。
今更何が出たところで。
それが過去なら、もうそれは俺でなく、ベトナムで死んだ一人の子供の話だ。付きまとうなら、亡霊だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
初恋
藍沢咲良
青春
高校3年生。
制服が着られる最後の年に、私達は出会った。
思った通りにはなかなかできない。
もどかしいことばかり。
それでも、愛おしい日々。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓
https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a
※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。
8/28公開分で完結となります。
最後まで御愛読頂けると嬉しいです。
※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる