ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 23rd episode

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 フリーライターの供述がデタラメ過ぎて、正直悩まされていた。

 デタラメばかり言うくせに俺の事は知っている。これが非常に厄介で、正直相手にしようかしまいかここ数日悩んでいる。

「厄介だなぁ、全く」

 潤をフリーライターの取り調べに投入したが、潤もどうやらそんな感じらしい。

「あいつ、本気でストーカー法の方がしっくりくんじゃね?うぜぇくらい中途半端に知ってやがるよマジうぜぇ」
「お前もか」
「てかお前がやれよぶちょー」

 朝からこんな調子で正直うるさい。

「いや、ストーカーだったら流星じゃダメだろ潤。いやお前もダメか俺が行くべきか?」

 政宗がかちゃかちゃ、若干のイラつきを見せながら提案をしてきた。
 政宗はいま、年末の捜査中間報告書で手一杯らしい。そして後輩ながら知っている。この人はこーゆー作業が嫌いである。

「もーさぁ、あーゆーマスコミ人種はゴキブリのようだな。バルサン政宗頑張ってよマジで俺やだ」
「てかぁ、宇宙人どーしたよ流星」

 そう。
 こんな時に適任かと考えられる人種、ユミルが来ないのだ、今日部署に。
 俺は今日、朝出勤して早々、奴に電話をする係だった。

「電話出たの?」
「出たぞ」
「なんで来ないの」
「なんなら録音したが聞くか潤」

それはそれは。
 突発的だったにしてはよく録れた電話内容だった。
 流石に政宗も「は?」と手を止め、潤はそわそわしながら「なんだよなんだよニヤケて、何があったんだよ」と興味深そうだったので。

「えー、部署にいる諸君、ユミルの対応に困っていますが、考えました」

 そう俺が言えば、年末書類で殺伐とした皆のイライラや興味深さが一斉に視線となり俺に降り被った。

悪いな、ユミル。日本はお前のように自由に休んで良い訳じゃないのさ。

 ケータイの音量をマックスにしてそれを流した。

『もしもし…特本部の壽美田だ』

 はぁはぁ聞こえる男の吐息。衣擦れの音。聞かされる部署の皆の顔が騒然としたものとなる。

『あぁ、はぁ、あぅ、りゅ…せい?』
「ナニしてんのアイツ」

 潤が呆れている。潤すら呆れている。

『…あの、始業時間5分前なんだが千種くん、君はいま』

 ユミルの喘ぎ声が入るが録音された俺はめげずに『新宿区かい?』と聞いてみる。

『あ、違うの、りゅーぅ』
『だいぶ…あの、お前さぁ、』
『あぁっ、あの、さ、日本寒くて、外に出れないの、あん』

 「流星お前果敢だなおい」政宗賞賛。全然嬉しくねぇ。

『は?』
『あぁ、だからぁん、休みまーす』

 がちゃっ、ガタガタ(恐らくケータイが落ちた)。それから『あぁんブライアン』と聞かされ俺は電話を切ったのだった。

「だそうだ」
「なっ」
「だそうだ、じゃねぇよ部長!朝からなんなんだお前らぁぁ!」
「いや俺が聞きてぇよアイツ」

 部署に少し、ふわっとした空気が流れた。しかし皆唖然ともしていて、最早触れていいのだろうか、な雰囲気が漂っていた。

「…というわけで彼は日本の寒さに喘ぎ苦しんでいるようなので、特別冬期休暇を与えたいのだがどうだろう」

 皆顔を見合わせ、ついに諒斗が「いや、いいんすかそれぇ!」と言った。

「俺も部長なりに考えました。しかしこれから先彼に電話をし、冬を聞かされる誰かがいると考えると未成年もいるし、ヤツが生まれたお国柄仕方がないかと諦めムードです。俺は朝からこれを聞き大変気分を害している」
「その気持ち非常に飛び火してます流星さん」

 まともなツッコミ伊緒。ありがとう、わかっているさ。

「伊緒が言う通りだと思う。反動で俺勃起しそうだわ」

 潤の一言に女性陣、愛蘭と霞が俯いた。
 女性への配慮を忘れたらしい、俺。そうだぞ、なんだかんだでウチ、女子いるやん。

てか。

「何故だよ潤、俺はこんなにムカついて仕方がないのに」
「いやほら俺バイセクシャルだから。ね」
「全然説得になってねぇよ、おい」
「…しかしそれ聞かされたら確かに冬期休暇を与えた方が…てか冬だけなのかブライアン」
「ブライアンは知らんが寒くて布団から出れねぇんじゃ仕方ないよなぁ、」
「わりかしマジでキレてるな流星。部長に従うわ俺フクブだし」
「またぶん投げたな先輩。
 ユミルくんがまとめていた書類は全部監督官にまわしてあげてください皆様。
 尚、温かい日に彼が出勤してきてハグを求めても毛嫌いしないでください、お国柄です。外国人と働くとはこう言うことです悪しからず」

 言い切った。
 最早潤には「お前のがユミルのストーカーやん」と言われるが気にしない。変態と働くとはこう言うことだ。
 そんな訳で本日からユミルは冬期休暇という、日本の中学生の特権が与えられた。

 さてストーカー。もう俺がストーカーなら気にしなくていいかと思い直したとき思い出した。

「やべ、そうだ。
 鮫島んとこ行こうかと思ってたんだ」
「でけぇ一人言だなおい。なんで、」
「いやフリーストーカーが鮫島とちょっと繋がってそうでな。潤、お前引き続き頼んだ」
「労基で訴えんぞてめぇ」
「大丈夫、俺たちはいま厚労省にいる」
「私がいきましょう、流星さん」

 向かいの端の席から慧さんが名乗り出た。

「最早私もあとは政宗さんと愛蘭さんと、司法解剖をまとめるだけなので」
「あ、マジすか」

 慧さんはいつも通り爽やかスマイルで「マジす」と言った。
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