ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 22nd episode

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てかそんなに俺なんだろ。

「俺飢えてんのかな、なんかに」

 ポロっと口から言葉が出た。それを拾った流星はタバコを咥えながら「うわっ、」と露骨に嫌な顔をしやがったので、
ロシアン外れたかなとか思って俺もタバコを取り出す。また前髪タバコだった。最低。かちっとして火をつける。

「お前何、なんでそんな擦れた突然。あの入間さんに会っても平気だったお前になにがあったの」
「は?別に擦れて」

るね。
うん、俺今日もナーバス。

「…なんだよなんかあったの?マトリ?」
「いや、別に」
「そうかなぁ」
「いや逆によ、逆に」

 果たしてなんの逆説だよとか頭を掠めたが「お前って溜まらないの、いま」と勢い余って流星に聞いてみれば。

「は?なんでそんな擦れてんのマジで。何がですか、ええ?」
「何がって精子だよ」
「うわっ、何お前ホント。大丈夫?マジ」
「うるせぇな大丈夫じゃねぇから言ってんじゃんかクソが」
「だよな、大丈夫じゃないよな。なんだよその気じゃん。でもやめて。お前の飛び火本気で面倒」
「まだ怒ってんのかよ昔の彼女。いいじゃんもう」
「うるさっ、違っ、ムカつくなお前人が心配すりゃぁ。俺一回マジでお前みたいに刺されかかったんだからなバカ野郎。思い出させるなよタラシ!」
「どの件だかわかんないねぇ!大体俺ごときに寝取られるお前が悪いんだよこの童貞!」

 前髪タバコは吸わずとなくなった。
 奇跡的に当てた俺の1本。やった優勢かと思って火をつけるが「燃えろ下半身」とかいって胸ぐら掴まれそうになりよけたらライターから火が消えた。

なんだよ燃えろ下半身って。死ねばいいのに鉄面皮。

「お前の性格の悪さホントどうにかしろ来年の課題」
「25年やってきたからムリだね。お前なんてもう30近い童貞なんだから気を長くすればぁ?なんでジジイ化しないのお前」
「気はわりと長くなったね。お前と組んでるお陰だなクソが」
「やだ下品。死んだほうがいい」
「なんだ下品とは。猿に言われたくねぇな!」

あぁ、やだやだ更年期め。ハゲろ。モテなくなれ。

「やっぱお前病んでんだろ性格破綻猿」
「お前もな童貞鉄面皮」

しかしこうなってみて。
 互いに煙を吐き出し見つめるがやっぱ我慢の限界。悪口が浸透した。
 「ぷはっ、」と吹き出してしまった。だけど流星も「やめっ、笑うなよ、」と明らかに笑っていた。

「変わんねぇな、お前」
「お前もな」

ホントどうしようもねぇな。

「…西山にしやま真波まなみという、この前の、獄中死したホストの、妊娠してた彼女に会いに行った」
「…よくやるよお前」
「会ったことには後悔してないが、なんだかなぁと」
「…まぁな」

それはきっと、
褒められた訳じゃないんだろ。

「ただ昔よりは、ちゃんと俺は前向きだ。多分」
「…あっそ」

 細いタバコはあっさりなくなった。
 流星も同じタイミングでラキストを捨てて「さて、」と伸びをし、二人で部署へ向かう。

「どうするんだお前。帰るのか?」
「いや、今日はサボったからやるわあと少し」
「サボったぁ!?お前がぁ?」

 間抜けに驚いている。顔を見れば「なんだ潤、」と心配そうではあった。

「また例の不眠か」
「いや、寝れた。ゲロ吐くレベルで寝れた」
「あぁ、やっちまったのね。久しぶりだななんかあった?」
「あった。けどなかった」

 流星は暫く俺を見つめているが俺は黙って前を見たまま。

わかってる。
多分、祥ちゃんとお前、知り合いでしょ。なんとなくだけど。
それでも祥ちゃんは多分お前が思ってるようなやつではないが、流星も、祥ちゃんが思ってたやつとは違うんだろう。

正直、疑心暗鬼は俺だ、どこか。ただそれは昔と変わらない。

「…俺少し前な、部下を…仲間を見捨てたことがある」
「お前が?」
「あぁ。見捨てた」

 まるで確認するかのように流星はそれを噛み締めて言う。流石に俺も頑を解き、流星の横顔を見つめてみるが今度は流星が頑として前を見つめていた。

「しかし最近再会してな。人柄が少し柔らかくなってた。俺もそうらしい。言われたわ」
「…ふぅん」
「確かに俺は全体的に絶望してたからな、あれから。信じたものを取り返そう、いや忘れようと、多分無意識にしてたんだ。
 それはお前だって、多分そうなんだよな」
「…どうかな」

昔から…。
俺はどうなんだろ。

「でもまだ、整理がつかない。俺はあれから多分、誰のことも信用してないんだ」
「なんだよ暗いな」
「だけどこれは保護者のせいだ。これをどうにかしないと俺は」
「やめてよね、なんか…」

早まるのは。
けど俺もお前も確かに、これが済んだらどうすんだ。称え合うのか?いや多分二度と本当に会いたくなくなる。

けど、どうかな。
あの二人は成し遂げなかったのかもしれない。けど、だから一緒にいれたんだとも思わなくて。

 流星はふと、笑った。

「お前からそれが聞けてよかった。ならいい。仕方のないことだ」
「…なにが」
「早い話が早まるなってことだ。俺も焦ってるしな」
「はぁ…」

ヘタクソだなこいつ。
わかんねえし。何言ってんのか。

 しかし予想外にヤツの表情は穏やかだ。悲観からこいつは一人で歩き案外いまは、それから遠くなってきてんのかもしれないな。

「…俺は…」

どうだろうか。

「ん?」
「…辻井に謝るべきかな」
「は、」

 笑った。
 確かに全く考えたことと違うことを言ったけど。

「その気がないヤツを口説くな。以上、部長命令」
「いやタイプじゃないって言ったよ、俺」
「うわ確信犯じゃん最早好きにしろよ」
「捜査は?ねえ捜査は?」
「好きにしろよてか俺に振るなよ!」
「えーなにその他人行儀。職務怠惰じゃん」

 知るか!と突っぱねられた。
まぁ仕方ないか。こいつ単細胞、細胞がないもんな。違うけど。

「まぁお前が拾ったなら別にいいよって。腹刺されなきゃな」
「あっそ。じゃ付き合う」
「本気?バカなの?」
「ううん。用なくなったら捨てちゃう」
「気が狂ってる」

なんだよノリ悪いなぁ。
ま、昔からか。

 信用は裏切らないようにしよっと。また銃向けられちゃうし。それだけシンプルに思った。
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