317 / 376
The 29th episode
5
しおりを挟む
目を覚ましたときは昼の日差しと、慌ただしい扉の開閉音だった。
「いたな、潤、」
病的なパリッとしたベッド。
「んー…」と寝ぼけた祥ちゃん、突っ伏した俺。
政宗が慌てたように入ってきたようだった。
「朝からこんにち」
「おい、流せ…。
山下、お前…」
忙しい奴だな全く。
「忙しい人ですね荒川さん」
祥ちゃんもそう言っている。
祥ちゃんは利き手の右手、俺の側にある腕に体温はない。起きてしまった俺に何かしようとするんだけど、「あ、忘れてた…痛ぇ…のか?」と俺に微笑みかけた。
右肩から先まで、祥ちゃんの神経はほぼ、亡くなったのだった。
「…」
一度それを見た政宗は、考えるように見つめてから平然を得たらしい。
「流星知ってるか潤」
と、重々しく言うのだった。
「あぁ、多分いま、地下の解剖室だよ」
「解剖室て…。もしかして、環ちゃんか?」
「…うん、そう」
あれから俺たちは。
即電話してここ、警察病院に辿り着いた。どこをどうして解剖室を借りられたかは知らないが、お得意の「なんちゃら特権」だろう。
使おうにも、祥ちゃんが取り次いだようだが…。
「…連絡取れないから…ビビったんだけど」
「うん、まぁ生かしてるよ」
「で、」
政宗はそれから、まだ緊張を解かずに祥ちゃんを睨んだ。
祥ちゃんは何事もないような、済ました顔で「ユミルは生きてましたか」と聞いたのだった。
「…あぁ。
下の階だ。ビビってPTSDこいてるがな、」
「…生きててよかったで」
「てめぇのせいだろ山下!」
掴み掛かってしまったが、まだ俺は「病人だから」と言うだけにした。
これは間違いなく俺にも来るからだ。
「病人だろうがなんだろうがな、こいつは…、
お前、どの面下げて潤といるんだ」
左手で祥ちゃんは一応政宗が掴みかかってる手を制するが、政宗は一回離すも今度は髪を鷲掴みしてしまったので
「あーあーちょっと禿げるからやめろよ政宗」
と止めに入ればぶん投げるように離す。痛かったらしい祥ちゃんは無言で前髪を擦っていた。
「…お前、」
「うん」
「スパイ容疑って…」
「うん」
「いやうんじゃなくて」
「うん」
「荒川さん、それならまぁ、多分懲戒免職ですから」
「あー、祥ちゃんいまは黙っ」
「お前ふざけんなよ山下!」
また掴みかかりそう。
「待って待ってはい!マジそれは祥ちゃんの最後の隠蔽だから!うん、ほら、ブタ箱入ってないだけましだから!」
「…けど!」
「まぁ、」
そう。
俺は山下祥真の一件で、というか今までの仕事で、懲戒免職を食らった。
つまり、警察官、及び警察関連の仕事はクビになったわけである。しかし、スパイ容疑は帳消し、変わりに正当防衛の傷害罪を化せられ、前科はついてしまった。
自動的に、特本部のあの場所はもう、俺の場所ではない。
「まぁって…」
「…俺、警察嫌いだし。事実、ブラックな仕事を、職権濫用でやってたから、マジで」
祥ちゃんは黙っている。
だが申し訳無さそうではあった。
「祥ちゃんは祥ちゃんで、免職だし。
いいよ、まぁ…」
「ふざけんなよ、お前俺が…、」
「わかってる。けどごめん」
「わかってねぇよ、…それ」
わかってねぇかも。
教わったこととか、まぁでも、無駄になってないよ、多分。
「あの、非常に言いにくいんですが…。
あそこ、モグリ団体だと俺、国勢調査の時、厚労省には報告を実は別で入れたので…その…。
多分潤は、モグリでやっても問題ないと思います」
「なんだっ…てぇ?」
後半勢いを落とした政宗と、「へ?」が被った。
ん?
「え、なにそれ」
「んー…。
俺も高田さんと昨日以来連絡取れてないから、最早君は懲戒免職で間違いないだろうけど…。俺のボスFBIのアメリカの人だから。あんな日本支部とかいうラットよりはFBIの中じゃ有力だから」
「えっ、なにそれは一体」
「君らはほら、高田傘下でしょ?俺は日本でモグリやるときしか高田さんとは付き合いないけど、そもそもFBIって本拠地アメリカなんだよ潤ちゃん」
「んんん?」
「まぁ、そうなるよね、高田傘下だと」
なに、よくわかんないけど。
「山下それは何を言って…」
「言うてお宅、元エレボスの犬飼ってるじゃないですか」
ぎくっ。
と言いたそうな表情で政宗は祥ちゃんを見た。しかし、「あーなるほど…」と頭を押さえた。
「警官じゃねぇが潤は雇えるって言いたいわけね」
「はい、まぁ…最後に出来ることはそれだけですが」
「最後って…」
政宗は漸く祥ちゃんの、動かなくなった右腕を眺めた。
そして俺を見て「お前さ…」と続ける。
「皮肉にも、まぁよかったな山下。俺は後輩に優しく指導してき」
「祥ちゃん大丈夫?禿げてない?」
無視した。
「噂通りゴリラだね」と、優しく祥ちゃんは言って俺に前頭部を見せて来た。
「あー、禿げたかもね」と冗談を言い合う俺たちを見て、更に疑問をぶつけてきた。
「いたな、潤、」
病的なパリッとしたベッド。
「んー…」と寝ぼけた祥ちゃん、突っ伏した俺。
政宗が慌てたように入ってきたようだった。
「朝からこんにち」
「おい、流せ…。
山下、お前…」
忙しい奴だな全く。
「忙しい人ですね荒川さん」
祥ちゃんもそう言っている。
祥ちゃんは利き手の右手、俺の側にある腕に体温はない。起きてしまった俺に何かしようとするんだけど、「あ、忘れてた…痛ぇ…のか?」と俺に微笑みかけた。
右肩から先まで、祥ちゃんの神経はほぼ、亡くなったのだった。
「…」
一度それを見た政宗は、考えるように見つめてから平然を得たらしい。
「流星知ってるか潤」
と、重々しく言うのだった。
「あぁ、多分いま、地下の解剖室だよ」
「解剖室て…。もしかして、環ちゃんか?」
「…うん、そう」
あれから俺たちは。
即電話してここ、警察病院に辿り着いた。どこをどうして解剖室を借りられたかは知らないが、お得意の「なんちゃら特権」だろう。
使おうにも、祥ちゃんが取り次いだようだが…。
「…連絡取れないから…ビビったんだけど」
「うん、まぁ生かしてるよ」
「で、」
政宗はそれから、まだ緊張を解かずに祥ちゃんを睨んだ。
祥ちゃんは何事もないような、済ました顔で「ユミルは生きてましたか」と聞いたのだった。
「…あぁ。
下の階だ。ビビってPTSDこいてるがな、」
「…生きててよかったで」
「てめぇのせいだろ山下!」
掴み掛かってしまったが、まだ俺は「病人だから」と言うだけにした。
これは間違いなく俺にも来るからだ。
「病人だろうがなんだろうがな、こいつは…、
お前、どの面下げて潤といるんだ」
左手で祥ちゃんは一応政宗が掴みかかってる手を制するが、政宗は一回離すも今度は髪を鷲掴みしてしまったので
「あーあーちょっと禿げるからやめろよ政宗」
と止めに入ればぶん投げるように離す。痛かったらしい祥ちゃんは無言で前髪を擦っていた。
「…お前、」
「うん」
「スパイ容疑って…」
「うん」
「いやうんじゃなくて」
「うん」
「荒川さん、それならまぁ、多分懲戒免職ですから」
「あー、祥ちゃんいまは黙っ」
「お前ふざけんなよ山下!」
また掴みかかりそう。
「待って待ってはい!マジそれは祥ちゃんの最後の隠蔽だから!うん、ほら、ブタ箱入ってないだけましだから!」
「…けど!」
「まぁ、」
そう。
俺は山下祥真の一件で、というか今までの仕事で、懲戒免職を食らった。
つまり、警察官、及び警察関連の仕事はクビになったわけである。しかし、スパイ容疑は帳消し、変わりに正当防衛の傷害罪を化せられ、前科はついてしまった。
自動的に、特本部のあの場所はもう、俺の場所ではない。
「まぁって…」
「…俺、警察嫌いだし。事実、ブラックな仕事を、職権濫用でやってたから、マジで」
祥ちゃんは黙っている。
だが申し訳無さそうではあった。
「祥ちゃんは祥ちゃんで、免職だし。
いいよ、まぁ…」
「ふざけんなよ、お前俺が…、」
「わかってる。けどごめん」
「わかってねぇよ、…それ」
わかってねぇかも。
教わったこととか、まぁでも、無駄になってないよ、多分。
「あの、非常に言いにくいんですが…。
あそこ、モグリ団体だと俺、国勢調査の時、厚労省には報告を実は別で入れたので…その…。
多分潤は、モグリでやっても問題ないと思います」
「なんだっ…てぇ?」
後半勢いを落とした政宗と、「へ?」が被った。
ん?
「え、なにそれ」
「んー…。
俺も高田さんと昨日以来連絡取れてないから、最早君は懲戒免職で間違いないだろうけど…。俺のボスFBIのアメリカの人だから。あんな日本支部とかいうラットよりはFBIの中じゃ有力だから」
「えっ、なにそれは一体」
「君らはほら、高田傘下でしょ?俺は日本でモグリやるときしか高田さんとは付き合いないけど、そもそもFBIって本拠地アメリカなんだよ潤ちゃん」
「んんん?」
「まぁ、そうなるよね、高田傘下だと」
なに、よくわかんないけど。
「山下それは何を言って…」
「言うてお宅、元エレボスの犬飼ってるじゃないですか」
ぎくっ。
と言いたそうな表情で政宗は祥ちゃんを見た。しかし、「あーなるほど…」と頭を押さえた。
「警官じゃねぇが潤は雇えるって言いたいわけね」
「はい、まぁ…最後に出来ることはそれだけですが」
「最後って…」
政宗は漸く祥ちゃんの、動かなくなった右腕を眺めた。
そして俺を見て「お前さ…」と続ける。
「皮肉にも、まぁよかったな山下。俺は後輩に優しく指導してき」
「祥ちゃん大丈夫?禿げてない?」
無視した。
「噂通りゴリラだね」と、優しく祥ちゃんは言って俺に前頭部を見せて来た。
「あー、禿げたかもね」と冗談を言い合う俺たちを見て、更に疑問をぶつけてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
初恋
藍沢咲良
青春
高校3年生。
制服が着られる最後の年に、私達は出会った。
思った通りにはなかなかできない。
もどかしいことばかり。
それでも、愛おしい日々。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓
https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a
※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。
8/28公開分で完結となります。
最後まで御愛読頂けると嬉しいです。
※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる