ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 34th episode

3

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 臨場を待つまで俺たちは沈黙と話とを、そうして繰り返した。
 鑑識と共に第二課と第五課が現れた。業務的だが重い空気で現場検証が始まった。

 「何がここであった」という、「今回の事」を武宮さんと五十嵐さんに話していく。俺は潤に呼ばれたから来た、それだけだったのだし、潤も、民間人として知り合いの警察を呼ばなくてはならないと思ったから呼んだ。
 警察庁機動捜査隊隊長、山下祥真は麻薬密売テロ組織の首謀者、箕原海に射殺され、その直後箕原海は自殺をした。
 見た今日の事実を淡々と証言していった。

「目撃者はいないようですけど、特本部部長様、」

 確かにそう。多分鑑識を待たなければ俺も潤も被疑者になり得る状況だった。

「あんたさぁ、」

 捜査二課の五十嵐が、初めて接点を持ってからと変わらない、嫌味な口調で。

「本気でこのまま引き下がんねぇよな」

 思ったよりも、嫌味の中に情を見た気がした。

「…山下、あんたらの知り合いなんだろ」
「…よく、ご存じで」
「わかるわ。全体的に、」

 まぁ…そうか。

「…本当は二課もウチも、お宅らを本格的に調べて、捜査権も譲渡して貰わないとならないと思いますけど、それすら微妙になりましたね」

 ん?

「えっ、それってな」
「警視庁からはあんた、追い出されたんだよ、」
「え、ああ、はい」
「いや「ああ、はい」じゃねぇって。親切に聞いてやってんだろ部長さん」
「…それってもしかして警察庁からもストップ掛かったってこと?」

 潤が冷静に五十嵐に聞き返した。あまりに淡々としていたせいか「そうだよっ、」と五十嵐は咄嗟という感じに返すが、

「一般市民にはかぁんけーないんでー!」

 と潤に言う。潤は「はぁ?」と食って掛かるがそんなことよりも。

「マジ…?」

 唖然とする。
 …これはつまり、

「いや、まだ来てませんよ壽美田さん。ですが、当然部署解散になるでしょう。あんたらが追ってたエレボストップの箕原が死んでしまったんだから」

 …確かに。

「いや、それだけじゃ俺はそうならないと思いますよ武宮さん。第一、警視庁管轄の江島脱獄やら、それからの江島事故死、そして御子貝遊助はいまだ警視庁は掴んでいない。ここに任せなきゃ本来何もかも終わらないじゃないか」
「待った。軽く流されたけど江島が死んだって…」
「あごめん言い忘れてたわ流星。
海軍訓練所のあの日、俺が行く前に追ってた不審車両、多分江島のだったんだ」
「は?」
「ったくどこから仕入れてくんのか知らねーけど御名算。だがあんた今多分っつたな?」
「一般市民なんで」

 五十嵐は「ふん、」と潤に突き返す。

「つまり、あんたら警視庁から切り離されてたのはこれで明白ですよね。即結果出ましたから。江島だという事実はあんたらに流れてないわけだ」
「まぁ」
「で、警察庁から今にも、まあ俺と五十嵐さんはもう現場に来ちゃったから本部の情報は今だけ知りませんが警察庁からも解散命令が出る、と。
しかしマトリ事案でも無さそうだとなると厚労省は恐らく、あんたらを関知していない、になる」
「うわぁ…」

 潤が言う、「俺ら揃って危ない一般市民じゃん」と。
 そうかなるほど。

「しかしそんな状況下であんたらはどうやって今まで捜査をして来たか、恐らくどこでも保有できないデータを保有してしまったといった具合ですかね」
「本当ならそんな信憑性がないやつ、早々に打ちきりだろうしそうならなかったのに被疑者死亡解散」
「…やられたなぁ、流星」

 潤がのんびりとしたように言った。
 なるほどね。
 祥真、どうやら命をかけてモグリをやっただけはあったな。
 始めから俺たちはそうか、警察ではなかったわけだし、そうなると今いる特本部の警察メンバーはブラックリストインしているだろう。そして明白になったな。

「わりと国すっ飛ばすレベルの事案だった、というわけか」

 そうか樹実。
 だからあんたは警視庁乗り込み程度じゃダメだったんだ、多分。だがこの全体像が見えていたからあの日エレボスを潰しに行ったんだろ。

 いまはそうか、第二期エレボス捜査としてはケリー、あんたが言うところの世界創世7日目、休戦に入ったわけか。

「…あんたらに今こっそりデータなり、なんなり、やっちまえばきっと0からスタートするんだろうけど。
 悪いな。そんなんじゃこの連鎖は終わらないようだ」

 そう。

「狂犬は神に食いつかなければならないようだ。そうした方が次の世界の創生は、真っ更だろ」
「…宗教テロの犯人みてぇな言い分だな。
壽美田さん、俺はあんたのようなクソガキは嫌いだしやり方も嫌いだ。だが言う。あんたはまだ若い。そんなんで死刑台に上がるのは、公務員として俺は言うがどうかしている」
「でしょうね。なら首はあんたら国民に託しましょうか、民主主義なんで」
「だから、」
「大丈夫です」

 場がしんとした。
 まあ、そうかも。俺は結局人殺しでしか、ないけど。

「黒を白に塗り替えてみる、それくらいの思い入れはあるつもりですから」
「それって結局」

 言いたいことは、まあわかりますよ。

「あんた、無駄に死ぬじゃないか」
「どうかな。五十嵐さんと違って俺は部長ですからね。結果によってテロかもしれないし俺はヒーローでもなんでもないけど、せめて残すものには真っ更にしたいでしょ。痛手もなにもなく…。大丈夫、間違っても心中してやろうとか、そんな弱い精神じゃないから」

 樹実。
 俺はあんたよりも単細胞で、無口で、優秀じゃないと思うけど。
 
 平和な世界創生を始めたい、生き残ってというエゴで全てを片付けることが出来たなら、そう、ヒーローを奪還しようと思うよ。
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