ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

文字の大きさ
366 / 376
The 36th episode

2

しおりを挟む
「…この際だから特本部の活動報告なんてものはシュレッダーに掛けちまおうと思うんですが、昴の会の残党は恐らく…同郷でしょう、俺の。樹実はどうだかわかりませんが、秋津艦隊のあたりにあんたはどう関与したんでしょうか」
「…それは誉めようか。秋津艦隊殲滅で俺は熱海雨を拾った、そんなところかな」
「…雨さんはほとんどこの支部に在籍していなかったように思いますが」
「そうだねぇ。唯一なつかなかった男だな」
「では樹実と雨さんの関係はそこから始まった、ということでしょうか」
「つまらないことばかり聞いてくるもんだね。そんなもん、わからないなら犬以下だよ」
「…話を秋津艦隊に戻すとしたら、違法輸出だったとありましたがその辺には関与したのでしょうか」

 余裕そうな高田の表情は一変した。

「…誰に聞いたんだい」
「…雨さんが秘密裏に記録を残していました。
 正直その程度なら日記だと思うことにして信憑性も皆無だったかと思ったのですが、違うようですね。
 そうなると潤の父親はそれを山車に防衛大臣に上がったが暗殺されてしまった。つまりこれは暗殺するほどの価値であったと決定付けられますね。誰がしたかは明白じゃないにしてもまぁ…政治家の一人だ、国家的なものだろうと思います。俺も端くれながらそうやって各国を飛び回りましたから。
 で、確か星川匠は海上自衛隊だったのだろうと予想がつきますが樹実は陸上自衛隊、雨さんが海上自衛隊だ。ここでこの三つの接点が繋がりました。とするとあんたの接点が見当たらない」

 秋津艦隊の話を持ってこられると、確かに総崩れして行き着くのは、早いだろう。

「ふ、ははははは!」

 笑いが止まらない。
 根本へ漸くやって来て突き刺してきたこのナイフを、さあ、どうしようか。

「…食えない男だなぁ、熱海」
「…だから拾ったんじゃないんですか」
「樹実は異様に嗅覚のいい犬だった、というのがまたひとつはっきりしたな」
「…なるほど」
「そしていまここに来てお前を拾ってきたのも、気まぐれだったんだろうがまぁ、これは天性の才能だろうな、あの犬畜生め」
「いい線いってるということですかね、じゃぁ話を進めましょうか」
「不毛だと思うけどね。まぁ、お前らとしちゃあと一歩が確定でないということか」
「…単純な話をしますとこの構図、俺たちが七年やって来たことに偉く似ている。根本には国があり軍があり…反対組織がいて海外とも関わりがある。勿論反対組織を潰しにかかるのは筋ですが、潰されるのは結局日本内のものである。これがジャパニーズソウルというべきか、いや、正直アメリカンを感じますね。
 反対組織のもとに正義が作られる。真髄を言ってしまえば必要悪として仕組まれているように俺には感じる。
 そして結局それは内戦の構図だ。当たり前に有耶無耶になる」
「…は、あっそ。それをわかっていながら動いていたのかどうか、それを聞いてもいいかい…流星」

 流星は、それには黙った。
 答える必要があるのかどうか。無表情の眼鏡越しの瞳。これは、そう、渇望にある承認欲求なのかもしれない。

「まぁ、どっちでも」
「わかってませんでしたよ。たった今まで」

 今度は高田が、
 唖然としたような、いや、こちらを不思議で、探ってみたいという純粋な気持ちの瞳で見ていた。

 至近距離戦でナイフは心臓を射止めたとして。
 必ず返り血を浴びるものなんだ。

「…多分、いつまでもわかりません。俺は視野の狭い、世間知らずで、箱の中で生まれ育った孤児ですから」

 そう。

「…いいなぁ、自由で」

 そう言った高田は切なそうに、慈悲深く微笑んだのだった。
 その宇宙のように真っ黒で果てのない綺麗な瞳、俺はそう。
 誰かの、笑顔を思い出す。

『大丈夫だよ、帰ってくるから!』

「…君のその濁りなく真っ黒な瞳は」

 君は濁りのない真っ黒な瞳を忘れなかった。縄で縛られた手を振って、なのに底抜けに明るい笑顔で。

「気が狂いそうで嫌いだったんだよ、流星」

 誰もがあの地で、この男は気が狂ってしまったんだと思ったに違いない。
 現に俺も気が狂うほどに、恐怖を感じた。世界は、ただ歪曲して回転を止めていないというだけだったのだから。

 こんな生ゴミのようになり下がったノスタルジーに、そう、ノスタルジーというだけの話。生きていくことはそうやって塗り潰して前に進むしかなくなってくるんだ。

「…高田さん、」
「君も経験したはずだ、ゴミ溜めのような、」

 高田はそれから流星に漸く、銃を向けた。

「反吐を吐き捨てていくこんな全うを」

 ゴミはゴミとして捨てられていく、消化不良を君は知らないでいる。
 当たり前だ。

「この国を作ったのは紛れもなく、俺だ」

 宗教も道徳も権力もなにもかも、意味をなさないこんな、安穏とした救いのない世界を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

初恋

藍沢咲良
青春
高校3年生。 制服が着られる最後の年に、私達は出会った。 思った通りにはなかなかできない。 もどかしいことばかり。 それでも、愛おしい日々。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。ポリン先生の作品↓ https://www.comico.jp/articleList.nhn?titleNo=31039&f=a ※この作品は「小説家になろう」「エブリスタ」でも連載しています。 8/28公開分で完結となります。 最後まで御愛読頂けると嬉しいです。 ※エブリスタにてスター特典「初恋〜それから〜」「同窓会」を公開しております。「初恋」の続編です。

処理中です...