ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 36th episode

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 少しあとの希望へ、旅立って。
 ついに、来た。

「バレちゃったか。
 君一人?ずいぶん時間がかかったようだね壽美田」

 「何故だ、」と吠え、唸るように低く言い放ち自分に銃口を向ける青年を眺めてみる。

 慈悲はあるのかもしれないが、どうか。ただただ呼び名を貸してやるだけの、
ヤクザのような関係だった気がしなくもない。それは誰にでも等しいことだが。

 笑いが止まらないような心境に至った。

 でもどうやらそうだ、以前よりはまともに取り合おうか、この犬畜生には犬らしい、ただ広大に広い夜空のような瞳がある。
 諦めると言う選択肢はもう、ないらしいな、流星。

「ははは、はいはい…」

 答えなど、複雑で、簡単だ。

 どうも、負けそうで仕方がない。ならば一切合切を洗いざらいほざいてしまう方が、
自己保身だ。

「漸く辿り着けたと言う解釈でいいのかい」
「…辿り着くというのは、この場所にと言うことか、」

 カシャッと銃が鳴るが、まだ撃つような弾ではないと防衛が効く。

 …と言うより、頭を整理したかった。俺はこの人の部下で息子であった。この人は樹実の父であった。
 本当にただそれだけだったと、引っ掛かりながら捨てなければ、スライドを引かなければならない、引き金を、引いてしまえばいいはずなのだが。
 
 こんなときに自分の道徳と本能は邪魔をするようだ。

 幾分か踏みにじられなければ自己防衛の殺伐は起動しないらしい、数多の戦地へ赴いてきた最後、こんな小さな自分に気付く。

 だが高田は冷淡なまでに「で?」と嘲笑を浮かべた。

「…活動報告を聞いてやろうって言うんだよ、何を根拠に俺に銃を向けてんの?皆目見当がつかないが君はこの支部をぶっ壊したようだね」

 流星を眺めた高田はゆったりと言い溜め息を吐いてから「バカらし、」とタバコを咥えて火を点ける。

 確かに、自分がやって来たことを望んだのは自分でしかない。そうだろう、確かにあんたにゃバカらしい。
 ひとつ、冷えた。
 どこかで、そんな反応をされると思えなかった自分がいたことに狼狽した。

「…結果、壮大なこの計画はあんたにしか出来ないかもしれないという消去法です。言うならば警察は軍の下にあり、軍を動かせる物としてこの日本支部がある。厚労省、防衛省、海外ともパイプがあり、結局FBIとして機能はしているが国家を優先できるあんたの、わがままと人望と。だから、」
「バカらしくて聞いてられないな。その程度なら犬にもわかる話だろう。
 最期に俺の口上を聞きに来たというならありがとう。だがそのレベルでもない。お前より樹実の方がまだ利口だったな」

 高田は銃すら抜いていない。ゆったりタバコを吸っているだけだった。

「…それは誉め言葉でいいんでしょうか高田さん。樹実は利口な犬だったから扱いやすかった、と言う解釈で?」
「ふはは…っ!君からそんな言葉を聞くとは思っていなかったよ。駄犬が育てる犬は偉く質が悪いな。殺す価値もない」
「…そうですか」

 一度銃を下げ流星もタバコに火を着けた。

 なるほど、こんな状況でそうくるとは、質は悪くても度胸があるなぁと高田は染々と眺める。かつての義理の息子はもう少し諦めていたよ、流星。

「…この状況で反抗的だな、お前」
「生憎二人しかいませんので」
「ほんっと頭悪い単細胞だな。ここをどこだと思ってんの?外に張りがいたらどうする?」
「無理でしょ。俺がここに来るまで5分足らずでしたから」
「…予防接種しとくべきだったな」
「備えあれば憂いなし、ジャパニーズソウルでしょ、被れてんなあんた。若しくは…」

 タバコはまだ長かった。しかし、足元にそれを捨てやはり、デザートイーグルからグロックに持ち変えた。

「スラムとしか思えませんけど高田さん」
「…口の悪い奴。誰に似たかな」
「覚えもありませんね、無駄話はやめませんか」
「…バカには言葉も通じないか」
「そうですね。頭の言い奴は複雑すぎて難儀でしょう」
「はっ、」

 まぁ。

「度胸だけは買ってやるよ。ここまで来たお散歩コースには何があったんだい、壽美田くん」

 少し考えた。
 何があったかの活動報告は頭で組み立てたが、これは戦略のひとつでしかない。
 どちらかと言えば自分の話をした方が有益だろう、頭が悪いなりに頭の良い奴へ歯向かうには、さあ、情に訴えるが先決か。

 いや、
 バカらしいな、正直。
 訴えるほどの自身なんてそれほどないもんだ。

「質問からいこうと思いますけど答えてくれますか」
「なんなりと。冥土の土産には丁度いいだろう?」

 …誰の冥土の土産となるかは展開次第か。
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