白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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陽炎

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 覚えているのは、みんなとの出会いの初めに歩と澄がいた。
 アイルランドに旅立つときも日本に帰ってきたときも、歩と澄は空港まで迎えに来てくれた。
 みんなとの関係が今のようにバラバラになってしまったのも歩と澄が関係している。

 漸く今更になって眠気が訪れようとしていたが、外は白んできていた。

 あの日の歩の空虚なまでに澄んだ瞳は、不謹慎ながらに綺麗だと思ったんだ。
 前日にみんなで大喧嘩をして。

 凄く憂鬱な気分で朝を迎えて、だから登校時間をずらして早めに家を出たら、プールサイドで恐らく人を抱えて、まるで魂が抜けたように空を見上げる歩を発見して。

「歩?」
「…ん、あぁ、りゅうちゃん?」

 フェンス越しにその状態が異常だとわかった。

 歩は水泳部の部長だった。この時期、この時間にプールに入ることは可能だ。だがどう考えてもこの状況は部活動の業務ではない。

「なに、どうしたの?」

 歩は答えない。答えないで無気力に笑った。すぐに走ってプールサイドの、歩の側に行くとなんとなく、歩が抱えている人物の面影がわかったような気がして。

「澄?」

 歩は答えない。
 泣きそうな歩の顔だけは見た。すぐ下を向いて涙を拭っていた。

「きゅ…救急車…」
「もう遅い」
「え…?」

 見るも無惨な姿だった。水を吸って少し膨張してしまった身体と、何より痣が、痛々しかった。

「歩…どういう…」

 歩はなんとか涙を止めようと一度拭って一息吐いてから無理に笑う。
 そんな歩を思わず後ろから抱き締めてしまった。そんな姿を見たら、そうせずにはいられなかった。

「ごめん、無理しないで」
「りゅうちゃん…」
「取り敢えず、先生は?」

 歩は首を振る。

「うん、わかった。一応まずは辛いかもしれないけど救急車…呼ぶから。ごめん」

 その場でケータイを出し119を押すが、歩がそれを手で邪魔する。だが半ば強引に振り払い、ケータイを耳に押しあてる。何を話したかはあまり覚えていない。

 それから俺はそのまま近くを見渡し、通りがかった生徒に、誰でもいいから先生を呼んできてくれと頼んだ。
 一番近かったのだろうか、その頃の保健室の先生が来て状況を把握し、すぐさま職員室に駆けて行き、その後数名の先生が現れる。

 歩はその間ずっと、空っぽになっていた。寒いだろうから一度澄を俺が抱えてプールサイドに寝かせたが、最早それはもう、人ではなくなってしまっていた。

 歩の少し色素の薄い目が、何もないプールを映している。どれだけ俺が歩に声を掛けても返事はなかった。

 それから救急車と警察が来て、歩と澄は連れて行かれた。俺も先生達に事情を聞かれたが、正直に「わからない」と答えた。

 その後、澄の死亡が確定し、歩はその日から生徒会長、共に水泳部を辞め、学校にもまともに来なくなった。

 俺は、救えなかった。

 通夜の夜に一喜と歩が決別してしまったのも。
理穂とのわだかまりも。
 全てあのとき『正直』に話していれば、ここまで酷くならなかったのかもしれない。

 謎が多く残るのも事実ではある。
 だがもう少し良くなったのではないか。
そう思うときがある。

 今日はもう、寝れないだろう。
 そろそろ学校に行く支度をしようか。

 最近また、歩が学校に来なくなった。
 どうやら、一喜と喧嘩したらしい。

 学校は特に面白い訳ではない。だけど、生徒会の仕事もあるし、何より小日向こひなたさんとのランチの約束がある。

 小日向さんには、ある意味感謝をしている。
 バラバラになってしまった俺と歩と一喜が今になって漸く、一緒になれそうなところまで来ている。
 彼女はきっと俺たちのことを何も知らない。だけど、何かは察してくれているようだ。

 ただ悔しくもあった。

 ここまで来ると最早他人を介入しなければ俺たちはどうにもならないのかと。
 歩がいない期間は、一喜が昼休みに屋上に来ていた。最近、謹慎が解けたらしい。
 元々一喜も、あの事件以来あまり新しいクラスに馴染めてはいないようだった。

 意外と一喜も、歩も、このランチタイムを楽しみにしているように見えた。確かに、一日のつまらない授業の真ん中あたりにある昼休みは、丁度良い。
 たまに俺はそのランチには、生徒会で行けなくなるけど。

「あれ、岸本先輩、寝不足ですか?」

 しかもこの子はなんとなく、顔色を見て俺の体調を察してくれる。

「うん、ちょっとね」

 一喜と小日向さんはもう屋上に来ていた。そのうち近々、4人でランチになるのかもしれないな。と、ぼんやりと考えた。

 いろいろな話をした。だがひとつ、気になる話があった。
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