白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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寒鴉

5

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 ケータイ電話が鳴った。
 理穂からだった。

「もしもし」
『深景ちゃん…』
「どうしたの」
『お兄ちゃんにバレた』

 あぁ、やっぱり。

「そっか」
『ねぇ、どうしよう』
「落ち着いて。
 理穂、手を切ろう。孝雄から」
『え?でも…』
「大丈夫。あいつも焦ってたから。
 まず、退学しよう。学校から」
『え!?』
「だっていられるの?あいつのことだから多分今頃学校中にばらまいてるよ」
『うそ…』
「仕方ないよね、バックれたんだから」
『だって…』
「こっちは被害者面してれば良いの。強制されましたって」
『だって、どうやって』
「いい?あいつは変態なの。そこはうまく嘘吐いてよ。得意でしょ?
 みんな薄々気付いてるんだから。だからさ、ありのままを話したら?事件の日、強姦されて、その写真をばらまくぞって脅されたのでそれからずっと援交させられてますって」
『うん…』
「わかった?」
『うん…』
「じゃぁね」

 電話を切った。
 バカな子でホント助かる。まぁそろそろ潮時だったし、丁度良い。
 バレずに全てが済みそうだ。そして孝雄ともやっと縁が切れる。

「ふふっ」

 思わず笑いが止まらなくなった。
 全てが順調だ。

もう少し。
もう少しで私は全てを手に入れることが出切る。

 考えただけで鳥肌が立つ。

興奮する。
貴方はもう少しで私の物。

 私、実はあのときすごく嬉しかったの。貴方が私を押し倒したあのとき。
 そのまま抱いて欲しかった。激しく抱いて欲しかった。

 けどなんだろう。

思い出せば出すほど。
なんだかすごく虚しくなる。

どうして?

あの優しい温もり。
けど貴方にはなかったの。
“欲望”という、たった二文字がなかったの。

「用事が済んだならさっさと帰って」

 私の涙を拭って指を舐めるあの仕草。

どうして?
なんであんなに悲しそうなの?

「歩くん…」

 自分で触れても全然心地よくないの。
 貴方を思い出しても全然心地よくなんてないの。

「どうして?」

これは涙じゃない。
もっと、生理的な体液なんだけど。

なんで?
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなに好きなのに。

「…どんな理由であれ俺は嘘吐きと弱い者苛めは人間じゃないと思ってる。この話しは非常に不愉快だ。何の解決にもならないな。なぁ?澄」

私は、じゃぁ何?

 別に嘘も吐いてない、弱い者苛めもしていない。
 なんでこんな言葉を思い出すの?

「うっ…」

なんで涙が流れるの?

「うぅっ…」

なんでこんなところで。
ここまでやって来て急に。

「うぁあぁあ!」

死にたくなるんだろう。

 思い返せば単純だった。
 単純なのに、複雑だった。

 ただの小さな嘘の塊が、こうして束になって、積もり積もって、結果澄くんは死んでしまった。みんなバラバラになってしまった。音を立てて、全てが崩れてしまった。

 本当にたったひとつだった。
 ただそれだけで、張った氷はバキバキに割れた。

澄くん。
嘘吐き鴉は、私です。
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