46 / 52
寒鴉
5
しおりを挟む
ケータイ電話が鳴った。
理穂からだった。
「もしもし」
『深景ちゃん…』
「どうしたの」
『お兄ちゃんにバレた』
あぁ、やっぱり。
「そっか」
『ねぇ、どうしよう』
「落ち着いて。
理穂、手を切ろう。孝雄から」
『え?でも…』
「大丈夫。あいつも焦ってたから。
まず、退学しよう。学校から」
『え!?』
「だっていられるの?あいつのことだから多分今頃学校中にばらまいてるよ」
『うそ…』
「仕方ないよね、バックれたんだから」
『だって…』
「こっちは被害者面してれば良いの。強制されましたって」
『だって、どうやって』
「いい?あいつは変態なの。そこはうまく嘘吐いてよ。得意でしょ?
みんな薄々気付いてるんだから。だからさ、ありのままを話したら?事件の日、強姦されて、その写真をばらまくぞって脅されたのでそれからずっと援交させられてますって」
『うん…』
「わかった?」
『うん…』
「じゃぁね」
電話を切った。
バカな子でホント助かる。まぁそろそろ潮時だったし、丁度良い。
バレずに全てが済みそうだ。そして孝雄ともやっと縁が切れる。
「ふふっ」
思わず笑いが止まらなくなった。
全てが順調だ。
もう少し。
もう少しで私は全てを手に入れることが出切る。
考えただけで鳥肌が立つ。
興奮する。
貴方はもう少しで私の物。
私、実はあのときすごく嬉しかったの。貴方が私を押し倒したあのとき。
そのまま抱いて欲しかった。激しく抱いて欲しかった。
けどなんだろう。
思い出せば出すほど。
なんだかすごく虚しくなる。
どうして?
あの優しい温もり。
けど貴方にはなかったの。
“欲望”という、たった二文字がなかったの。
「用事が済んだならさっさと帰って」
私の涙を拭って指を舐めるあの仕草。
どうして?
なんであんなに悲しそうなの?
「歩くん…」
自分で触れても全然心地よくないの。
貴方を思い出しても全然心地よくなんてないの。
「どうして?」
これは涙じゃない。
もっと、生理的な体液なんだけど。
なんで?
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなに好きなのに。
「…どんな理由であれ俺は嘘吐きと弱い者苛めは人間じゃないと思ってる。この話しは非常に不愉快だ。何の解決にもならないな。なぁ?澄」
私は、じゃぁ何?
別に嘘も吐いてない、弱い者苛めもしていない。
なんでこんな言葉を思い出すの?
「うっ…」
なんで涙が流れるの?
「うぅっ…」
なんでこんなところで。
ここまでやって来て急に。
「うぁあぁあ!」
死にたくなるんだろう。
思い返せば単純だった。
単純なのに、複雑だった。
ただの小さな嘘の塊が、こうして束になって、積もり積もって、結果澄くんは死んでしまった。みんなバラバラになってしまった。音を立てて、全てが崩れてしまった。
本当にたったひとつだった。
ただそれだけで、張った氷はバキバキに割れた。
澄くん。
嘘吐き鴉は、私です。
理穂からだった。
「もしもし」
『深景ちゃん…』
「どうしたの」
『お兄ちゃんにバレた』
あぁ、やっぱり。
「そっか」
『ねぇ、どうしよう』
「落ち着いて。
理穂、手を切ろう。孝雄から」
『え?でも…』
「大丈夫。あいつも焦ってたから。
まず、退学しよう。学校から」
『え!?』
「だっていられるの?あいつのことだから多分今頃学校中にばらまいてるよ」
『うそ…』
「仕方ないよね、バックれたんだから」
『だって…』
「こっちは被害者面してれば良いの。強制されましたって」
『だって、どうやって』
「いい?あいつは変態なの。そこはうまく嘘吐いてよ。得意でしょ?
みんな薄々気付いてるんだから。だからさ、ありのままを話したら?事件の日、強姦されて、その写真をばらまくぞって脅されたのでそれからずっと援交させられてますって」
『うん…』
「わかった?」
『うん…』
「じゃぁね」
電話を切った。
バカな子でホント助かる。まぁそろそろ潮時だったし、丁度良い。
バレずに全てが済みそうだ。そして孝雄ともやっと縁が切れる。
「ふふっ」
思わず笑いが止まらなくなった。
全てが順調だ。
もう少し。
もう少しで私は全てを手に入れることが出切る。
考えただけで鳥肌が立つ。
興奮する。
貴方はもう少しで私の物。
私、実はあのときすごく嬉しかったの。貴方が私を押し倒したあのとき。
そのまま抱いて欲しかった。激しく抱いて欲しかった。
けどなんだろう。
思い出せば出すほど。
なんだかすごく虚しくなる。
どうして?
あの優しい温もり。
けど貴方にはなかったの。
“欲望”という、たった二文字がなかったの。
「用事が済んだならさっさと帰って」
私の涙を拭って指を舐めるあの仕草。
どうして?
なんであんなに悲しそうなの?
「歩くん…」
自分で触れても全然心地よくないの。
貴方を思い出しても全然心地よくなんてないの。
「どうして?」
これは涙じゃない。
もっと、生理的な体液なんだけど。
なんで?
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなに好きなのに。
「…どんな理由であれ俺は嘘吐きと弱い者苛めは人間じゃないと思ってる。この話しは非常に不愉快だ。何の解決にもならないな。なぁ?澄」
私は、じゃぁ何?
別に嘘も吐いてない、弱い者苛めもしていない。
なんでこんな言葉を思い出すの?
「うっ…」
なんで涙が流れるの?
「うぅっ…」
なんでこんなところで。
ここまでやって来て急に。
「うぁあぁあ!」
死にたくなるんだろう。
思い返せば単純だった。
単純なのに、複雑だった。
ただの小さな嘘の塊が、こうして束になって、積もり積もって、結果澄くんは死んでしまった。みんなバラバラになってしまった。音を立てて、全てが崩れてしまった。
本当にたったひとつだった。
ただそれだけで、張った氷はバキバキに割れた。
澄くん。
嘘吐き鴉は、私です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる