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寒鴉
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夏休み最終日だと言って、孝雄は家に来て理穂の動画を観ながら私を抱いた。
本当にクズ野郎。こんなやつさっさと死んじまえばいいのにと思っていたら次の日。
夕方近くになって宿題をやっていると、急に歩くんから電話が掛かってきた。
そうか今日、そっちの学校は始業式なんだと思って電話に出る。
「もしもし」
『もしもし?深景?』
「うん。もしかして、迎え?」
『いや、そっちは明後日だよね』
「うん」
『明後日、俺行かないから』
え。
どうしたんだろう。
「…わかった。どうしたの急に」
『…深景。
明後日には行かなくて済むように、もう怖い思いしないようにしたいよね?』
「うん…歩くん?」
『全部、終わらそうぜ、深景』
「え?」
『最後になるかもしれないから言っとくね。
悪いのは全部俺だ。それで良いんだよ、深景。全部さ、俺が望んだことだからさ』
「ちょっと待って歩くん。意味がわからない」
『じゃぁね。…元気で』
電話は一方的に切れた。
掛け直しても繋がらなかった。
嫌な予感がする。
怖くなって、思い付いたりゅうちゃんに電話をした。
出ない。
何、何が起きてるの?
全然わからない。
一喜くんは?
電話をしてみた。
出ない。
何?
しばらく待った。すると、折り返しの電話が掛かってきたのは、りゅうちゃんのケータイからだった。
「もしもし、りゅうちゃん」
『深景?』
「うん。ねぇ、いま歩くんと一緒?」
『…あぁ、うん…』
「ねぇ、あの…」
『深景、』
「ん?」
『…いまから、いつもの公園に、来れる?』
「…わかった」
なんだろう。
もの凄く、胸騒ぎがする。
軽く着替えて早歩きで公園に向かった。
公園には、りゅうちゃんと歩くんがいた。
歩くんは、よく見ると血が所々についていて。
一目見て、異様だとわかった。
「りゅうちゃん…歩くん…」
「深景…」
「歩くん、どうしたの」
「…終わったよ、全部」
「え?」
そう言うとりゅうちゃんは、頭を抱えて肩を震わせた。
歩くんは寂しそうに笑い、「ごめんな」と、りゅうちゃんの隣に座ってタバコを吸い始めた。
「俺な…」
煙が、白い。
「逮捕されるんだ」
「え…?」
「…今から46時間後。その前に集まろうってさ。
一喜がいま、理穂を連れてくるよ」
「なっ…」
りゅうちゃんはずっと泣いている。
その肩を抱く歩くんは、どこか遠くを見ていた。
「夕陽が綺麗だなぁ…」
ぼんやりと言う歩くんはいつもと変わらない。泣いてるりゅうちゃんの眼鏡を持ってあげてる。
「いつまで泣いてんだよ。夕陽、ほら。綺麗だよりゅうちゃん」
あ。
でも、りゅうちゃんは歩くんを見なかった。
少ししてから一喜くんが、理穂を引っ張るようにして連れてきた。理穂は私達を見ると逃げようとしたが、一喜くんがそれを掴んで離さない。
「逃げんな、理穂!」
「勘弁して!」
「ダメだ、今じゃないとダメなんだ」
「一喜、いいよ別に」
「よくない。よくないよ…。
理穂、聞け。歩が逮捕される」
「えっ」
そう聞いて理穂はやっと抵抗をやめた。
「殺人未遂だ」
「殺人未遂?」
「ああ。知ってるだろう?笹木孝雄」
「えっ」
「何したの!?」
殺人未遂って…。
それって孝雄は死にかけてるってこと?
「殴った」
「は?」
「散々ぶん殴って、先生達に止められても殴ってた」
「なっ」
「教えてくれ」
一喜くんの一言が響く。
「あの日何があったのか。
みんな何を知ってんのか。
もう、嘘も隠し事もやめにしないか。このままだと、本当に終わっちまう」
みんな黙り混んだ。
「理穂、俺は知りたいんだ。あの日何があった?このままじゃもう…」
「…あー、わかったよ。もう嘘吐けないな」
歩くんが観念したように笑った。
「俺が澄を殺して理穂を犯した。俺は理穂が好きだったから、理穂を苛めていた澄が憎たらしくて仕方なくなって、今日みたいにさ、思いっきりぶん殴ってたら死んじゃったわけ。
したらたまたま、会う約束をしていた理穂が現れたからそのまま…。ね?理穂」
しかし紡がれる歩くんの言葉は嘘でしかなくて。
「え?」
「もういいよ歩」
「これでいいじゃねぇか。何が悪いんだ?お前ら全員俺を恨めば良いんだよ。澄は何も悪くない、理穂は何も悪くない、一喜もりゅうちゃんも深景もなんも悪くねぇんだよ!その代わり、ちゃんと隠し続けてくれよ、頼むから。
俺はお前らの前から犯罪者として、最低な人間として消える。理由は大変身勝手だった。だから何も悪くない。それじゃダメか?」
「ダメだ、そんなの」
りゅうちゃんが叫ぶように言って、漸く顔をあげた。
「お前は何一つわかってないじゃないか。どうして俺が知ってた小さなこと、黙っていたと思う?どうして訳がわからないまま一喜は、理穂を抱えお前を疑いながら、でも違うと知りながら一度決別したと思う?どうして深景が、みんなをまた繋ぎ合わせようと必死になったと思ってんだよ!
そんな、お前一人で片付くほど安くないんだよ!」
「ごめんなさい…!」
ついには理穂までがしゃがみこんで泣き始めてしまった。
本当にクズ野郎。こんなやつさっさと死んじまえばいいのにと思っていたら次の日。
夕方近くになって宿題をやっていると、急に歩くんから電話が掛かってきた。
そうか今日、そっちの学校は始業式なんだと思って電話に出る。
「もしもし」
『もしもし?深景?』
「うん。もしかして、迎え?」
『いや、そっちは明後日だよね』
「うん」
『明後日、俺行かないから』
え。
どうしたんだろう。
「…わかった。どうしたの急に」
『…深景。
明後日には行かなくて済むように、もう怖い思いしないようにしたいよね?』
「うん…歩くん?」
『全部、終わらそうぜ、深景』
「え?」
『最後になるかもしれないから言っとくね。
悪いのは全部俺だ。それで良いんだよ、深景。全部さ、俺が望んだことだからさ』
「ちょっと待って歩くん。意味がわからない」
『じゃぁね。…元気で』
電話は一方的に切れた。
掛け直しても繋がらなかった。
嫌な予感がする。
怖くなって、思い付いたりゅうちゃんに電話をした。
出ない。
何、何が起きてるの?
全然わからない。
一喜くんは?
電話をしてみた。
出ない。
何?
しばらく待った。すると、折り返しの電話が掛かってきたのは、りゅうちゃんのケータイからだった。
「もしもし、りゅうちゃん」
『深景?』
「うん。ねぇ、いま歩くんと一緒?」
『…あぁ、うん…』
「ねぇ、あの…」
『深景、』
「ん?」
『…いまから、いつもの公園に、来れる?』
「…わかった」
なんだろう。
もの凄く、胸騒ぎがする。
軽く着替えて早歩きで公園に向かった。
公園には、りゅうちゃんと歩くんがいた。
歩くんは、よく見ると血が所々についていて。
一目見て、異様だとわかった。
「りゅうちゃん…歩くん…」
「深景…」
「歩くん、どうしたの」
「…終わったよ、全部」
「え?」
そう言うとりゅうちゃんは、頭を抱えて肩を震わせた。
歩くんは寂しそうに笑い、「ごめんな」と、りゅうちゃんの隣に座ってタバコを吸い始めた。
「俺な…」
煙が、白い。
「逮捕されるんだ」
「え…?」
「…今から46時間後。その前に集まろうってさ。
一喜がいま、理穂を連れてくるよ」
「なっ…」
りゅうちゃんはずっと泣いている。
その肩を抱く歩くんは、どこか遠くを見ていた。
「夕陽が綺麗だなぁ…」
ぼんやりと言う歩くんはいつもと変わらない。泣いてるりゅうちゃんの眼鏡を持ってあげてる。
「いつまで泣いてんだよ。夕陽、ほら。綺麗だよりゅうちゃん」
あ。
でも、りゅうちゃんは歩くんを見なかった。
少ししてから一喜くんが、理穂を引っ張るようにして連れてきた。理穂は私達を見ると逃げようとしたが、一喜くんがそれを掴んで離さない。
「逃げんな、理穂!」
「勘弁して!」
「ダメだ、今じゃないとダメなんだ」
「一喜、いいよ別に」
「よくない。よくないよ…。
理穂、聞け。歩が逮捕される」
「えっ」
そう聞いて理穂はやっと抵抗をやめた。
「殺人未遂だ」
「殺人未遂?」
「ああ。知ってるだろう?笹木孝雄」
「えっ」
「何したの!?」
殺人未遂って…。
それって孝雄は死にかけてるってこと?
「殴った」
「は?」
「散々ぶん殴って、先生達に止められても殴ってた」
「なっ」
「教えてくれ」
一喜くんの一言が響く。
「あの日何があったのか。
みんな何を知ってんのか。
もう、嘘も隠し事もやめにしないか。このままだと、本当に終わっちまう」
みんな黙り混んだ。
「理穂、俺は知りたいんだ。あの日何があった?このままじゃもう…」
「…あー、わかったよ。もう嘘吐けないな」
歩くんが観念したように笑った。
「俺が澄を殺して理穂を犯した。俺は理穂が好きだったから、理穂を苛めていた澄が憎たらしくて仕方なくなって、今日みたいにさ、思いっきりぶん殴ってたら死んじゃったわけ。
したらたまたま、会う約束をしていた理穂が現れたからそのまま…。ね?理穂」
しかし紡がれる歩くんの言葉は嘘でしかなくて。
「え?」
「もういいよ歩」
「これでいいじゃねぇか。何が悪いんだ?お前ら全員俺を恨めば良いんだよ。澄は何も悪くない、理穂は何も悪くない、一喜もりゅうちゃんも深景もなんも悪くねぇんだよ!その代わり、ちゃんと隠し続けてくれよ、頼むから。
俺はお前らの前から犯罪者として、最低な人間として消える。理由は大変身勝手だった。だから何も悪くない。それじゃダメか?」
「ダメだ、そんなの」
りゅうちゃんが叫ぶように言って、漸く顔をあげた。
「お前は何一つわかってないじゃないか。どうして俺が知ってた小さなこと、黙っていたと思う?どうして訳がわからないまま一喜は、理穂を抱えお前を疑いながら、でも違うと知りながら一度決別したと思う?どうして深景が、みんなをまた繋ぎ合わせようと必死になったと思ってんだよ!
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ついには理穂までがしゃがみこんで泣き始めてしまった。
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