白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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寒鴉

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「俺さ、深景のこと人形だと思ってたんだ。だけど違った。ちゃんと、綺麗な人間だった」
「綺麗な?どうして?
 人形の方がよかった。まだ、よかった。こんな、こんな欲にばかりまみれた私なんて…」
「人形なら薄汚れたもんだよ。
 人間っぽいじゃん。そんなに素直に欲に忠実で、でもそんなに悩めるなんて、綺麗だよ」

 どうしてそんなに優しく言うの…。

「美しくて見れねぇや。
 やっぱり俺にはお前はもったいない。俺たちは…例え笹木がいなかったとしても一緒になるべきじゃないな。
 似すぎているくせに似てない。俺はお前ほど綺麗じゃないから」
「あっ…ぅあ…」

 叫ぶように謝罪しか出てこなかった。

「ごぇんなさぃ…みんな、みんなぁ…!」

 肩に、触れた大きな手。

「今度会えたら、最高の親友でいよう」

 そう言って歩くんは笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でて、立ち上がって空を見上げた。

「綺麗だなぁ、一番星だよ」

 顔は見れなかった。声が震えていた。

「あのさ、…俺からひとつ隠し事。
 俺、学校やめるから」

 一喜くんの声がしんと響いた。

「え?」
「うん。もういいかなって。俺もう、守るもんは守った。はっきり言うが、俺が一番守りたかったのは理穂だ。その次にみんなだったんだ」
「一喜…」
「歩、そんな顔しないでくれ。
 いいんだ。もう。俺は、俺で自由にやってくって決めただけ」
「…そっか」
「じゃぁこの際だから俺も。
 4年ほど、アイルランドに行こうと思う。大学、やっぱりあっちにする」
「お、そうか!」
「いつ発つの?」
「…卒業式の日に」
「そっか。…いってらっしゃい。今しか言えねぇから」
「…うん。歩も、な」

どこかで鴉が哭いている。

「そろそろ行くか」
「うん」

 離れて行く足。そこで一人、私の前で立ち止まってくれたのは、意外にも理穂だった。
 差し伸べてくれた理穂の手は震えていて、目すら合わせてくれないけど。

「許してあげない。あんたのことは絶対許さないけど…。辛かったのは、わかった」

 その手を借りて立ち上がった。
 みんなで、歩き出す。

「そうだ、りゅうちゃん」

 歩くんがふと、コートのポケットから何かを取り出した。
 ICレコーダーと、紺色のパッケージのタバコとライターだった。

「…これはお前に預けとく」
「…あぁ」
「どう使うかはお前の自由だ。
 悪いなみんな、一応いまの全部録ってたんだ。
 俺今から警察行くから、これはりゅうちゃんに預けとく。
 あとは任せたよ、りゅうちゃん」
「うん…」

 それから私たちは、歩くんと一緒に、警察へ出頭した。

 事情聴取では誰一人、嘘は吐かなかった。
 実に2時間ほど拘束され、帰宅した。

「なぁ思うんだ」

 帰り道、一喜くんがぼんやりと言った。

「澄、良いやつだったよな」
「…どうした急に」
「人の良いところを見つけるのが一番上手だった。でも口下手だった。
 俺思うんだ。
 俺は最高の兄貴じゃないってあいつは言ってたけど澄は…あいつにそっくりなんじゃねぇかなって」
「確かに」
「な。俺らなんて全然似てねぇのにな。
背中を追える兄貴って、かっこいいと思うけどな」
「なんでそれ、歩に言ってやらなかったんだよ」
「…恥ずかしいじゃん」
「お兄ちゃん情けないね」
「うるせぇなぁ…」

 一喜くんはそう言うけど。

「一喜くんもかっこいいよ」
「うん。俺もそう思う。じゃなかったら理穂がこんなにわがまま言えないよ」
「甘いかな」

 「甘いね」と言ったのがりゅうちゃんとハモった。

 いつも通りの帰り道。いつも通りの、別れ道。

「…じゃ」
「うん…」
「また、会う日まで…」
「バイバイ…」

 一喜くんと理穂は真っ直ぐ。りゅうちゃんは右へ。私は、来た道を戻った。

 その日から、孝雄が家に来ることはなくなった。
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