ひいろのおと

二色燕𠀋

文字の大きさ
5 / 15
Hot Pink Fade

4

しおりを挟む
「えっ…いや……まだ不幸中の幸いだったね…。他はどうなん?」
「頭は血が出て脳しんとうって感じだけど…確かに、佐藤さんも一応?心臓とか圧迫されたんなら」
「…苦しがってたらしいけど」
「今は?」
「…寝てるけど」
「学の方が頭は小さいからこう、ガツッといったんだろうけどお宅、医者に聞いていいっすか?」
「……ぷ、プライバシーの侵害っ!」
「じゃ、根拠なしなんで賠償はいいっすね?」
「は!?」

 アカネさんがパッとケータイを出し佐藤母に「ほらっ!」と見せつけると、由亜ちゃんの「何してんの!」が聞こえてくる。…あぁ、あれって撮ってくれていたのか…。

「もっかい見ます!?まぁ気付いてすぐ、だったらしいのであまり撮れてませんがほら、この感じ、明らかお宅の子が…こんなに…殴ってんじゃん、」
「あ、それナトリンと一緒に見た…由亜ちゃん肝が据わって」
「何!?あんたらグルなのさっきから!」
「あ、そういう感じですか…」
「DQNかよっ。
 これは!学と幸村くんと一緒にクラブ活動やってる子が撮ってくれたの!階段からうるさかったから回したんだって流石だよね今の子!この子女の子だかんね!?怖かったろうに!」
「な、何よ……!こんなもの作ったのかも」
「それこそ小学6年生には無理じゃないかなー…」
「わかんないじゃん!」
「ダメだこの人、もーなんか、いーや。
 旦那に再度電話する、弁護士なんてクソほど知り合いいるから。曽根原さんは?集団ってか二人でいきます?」
「それはちょっと考える。
 確かに高いもん学校に持ってったのは悪いっちゃ悪いから、そこはね…。
 一応、佐藤くんのお見舞いは」
「は?嫌に決まって」
「じゃあまずお大事にとしか言えませんよね。
 …幸村、怖かったし押さえるの大変だったよなこれ…。学、そうだったんだね…。
 あのね佐藤さん。学には吃音がある、つまり…アカネちゃん、言っていい?」
「どうぞ」
「学は特別学級の子なんですよ。あまり接点はないはずですよね?言いたいことわかります?
 人をからかったり、傷付けたのも事実みたいですよ。息子くんに、しゃべぇことしてんじゃねぇよってのも伝えといてください。
 ウチに関しては、抗議があったら学校通して。
 あんたもそんなことで騒いでないで、息子さんも胸ぶっけてるから、見ててやってくださいよ。
 アカネちゃん、学は…今日は無理か、ウチも優先順位はユキだけど…かなり心配だから連絡くれると嬉しい」
「わかりました。
 じゃ、佐藤さんお大事に。
 ソネさん、ちょっと」

 何かを吐き捨てた佐藤母を置き、ほぼ見えなくなった場所で「本当にすみません、一度これで」と、アカネさんが封筒を出そうとしたそれを、父さんは「大丈夫」と手でやる。

「でも幸村くんは守ってくれたって…」
「いや、オレ、守ってあげられなかった…学くんはギター、守ってくれてたのに…あいつ、謝りも」
「ギターはまた買えばいいよ、ユキ。
 アカネちゃん、それは学に使ってやって。
 こちらの方が被害を被ってても…二対一になってるから、相手としては溜飲が下がらないと思う、DQNだし」
「…すません、ちょっとキレそうで…」
「そりゃそうよ、アカネちゃんも学も悪くないと思うよ、俺はね。
 お気持ちでよければ…。学、ストラト使えるとか凄いね、でも手は小さめ…てか、指切れたって」
「あ、ああいう言い方しといただけっす。切れたっつってもバッサリザックリでなく、普通にかすり傷というか、治るやつ」
「あ、あああ~っ。よかった…」

 オレもそれには安心…。

「ああ見えて弱くないから…旦那にもいい加減切り上げて帰ってこいとは言ったけど…ウチは休学にはなる…1週間は、最低でも。一応」
「そかそか、どこかでお見舞いに行かせて欲しいな。
 長々ごめんね。学くんにまずはお大事にと、ありがとうって伝えておいて」
「…了解っす」

 また頭を下げたので「大丈夫大丈夫」と言った父さんと共に病院を去る。

 ふっと優しく笑った父さんは「よくやったよ」と言ってくれるけれど…。

「……全然、なんにも」
「相手が悪かったなぁ…」

 車に乗り「何聞きたい?」と聞かれたので「トム・ウェイツ…」と答える。
 「あ、いいね」と優しい旋律が流れ始め、つい、という感じで父さんはトムと被って冒頭を歌う。

「この前配信で弾いたな~これ」
「…うん、見てた」
「ははっ、」
「和訳があまり出てこなくて……」
「ん~~そうだなぁ、ギターも死んだ木なら、船も死んだ木なんだろうな…。弾き語りばっかやってた時期によく聴いたよ。一人で行くんだ!ってね。
 …ユキは本当に大丈夫?」
「うん……本当に学くんが守ってくれて……由亜ちゃんが、それから先生に、色々言ってくれたみたいで…」
「あーうん、確かに由亜パパといたからさ、あっさり来られた。後で焼肉でも奢るか…」
「………」

 じわじわくる。
 波が、砂をさらうような。

「嫌な思いしただろ」
「……ギターも、そうだけど、学くんが…」
「お互い守ろうとしたんだ、また元気に会えるよ、こういう関係はな」
「………ぅん、あと、父さんの…」
「そうだな。
 お前らはもう練習でわかってると思うから、学校には練習用の…つっても、部はまだ出来てないんだよな」
「これでもうその話も」
「んー…まぁ、そうかも」
「ホント、何が気に入らなかったんだろう……」

 ほとんど関わりがないクラスメイトなのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...