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エレクトリック・レインボー
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ドラムはまたタバコに火をつけ、しゃがんで俺に、「悪いね」と言ってくる。
「こいつ動揺すると硬直しちゃうんですよ。
さぁて。そのゴタゴタは去った。帰れる?入り口まで送りますよ」
「いや、まだ」
本当は、俺の足の痺れは解れてきている。しかし何故か。この、動揺して硬直してしまった小さな背中を少し、見ていたくなってしまった。まだ抜けきれていない気がするアルコールのせいだろうか。
取り敢えず彼の、掛けてくれたらしいジャケットを背中に掛けてやり、ついでに背中をぶっ叩く。彼は、驚いた表情で振り返った。
「ありがとうこざいました。風邪引きますよ」
「あぁ、はぁ…」
「…へぇ…」
興味深そうに金髪は俺とあまちゃんを交互に見て、笑った。
「あんた、面白いね」
そうだろうか。しかしまぁ。
「貴方たちほどエキセントリックでもないですね」
「あぁ、そうね。マキ、」
ドラムは、そう、切羽詰まるような、しかしいつも通りなような、なんとも言えない親しみを込めて彼を呼んだ。あまちゃんはそれに軽く顔を上げたが、それだけだった。
それに慣れているのかドラムはあまちゃんの両肩を抱き締めるように掴み、「いいかい、」と耳元で囁くように言う。
「山Dが嫌ならそれでいいよ。そう、げんちゃんに言ったりな。げんちゃんは山Dがしつこいから、じゃぁ俺が行こうか?なぁんてナンセンスなことを言いに行ってんだよ」
「…ホントに?」
「さぁ?自分で見ろよ対人恐怖症。あの人なかなか、お前が嫌いなタイプだよ」
「…わかった」
なんかすげぇ。
この二人確かに。てかこいつら確かに、中学からずっとやって来た、これは本当かもしれないな。
間もなくして扉が開いた。スタッフ、ベースとサポートギター、そしてグリーンハイツのボーカル、山田世界が登場した。この見映えで最早バンド完成だ。
「はい…、連れてきたよ」
と、ベースは然り気無く山田とあまちゃんの間に入れるような位置に立って言う。それを見たスタッフは連中から一歩下がり、「もー思う存分話し合ってください」と呆れたように言った。
「どうも」
しかし状況がわかっているのかいないのか、山田はスマイルで挨拶。それに対しあまちゃんは、「どぉも」と舌っ足らずににかにかと、見上げるように返した。
「“エレキレイン”のあまちゃんでーす。おみしぃおきを?」
「ちょっとー、天崎さん大丈夫だった?ここのスタッフうるせぇから大変だったみたいね。俺見てたよステージ。
あの人大丈夫?
いやぁでも流石だねぇ。あれは“あまちゃん”にしか出来ないよ。なんで殴っちゃったの、一見普通そうじゃない、あの人。スーツだから?
てかさぁ、どーして?どーして高峰くんのギターぶっ壊したの?彼ビビってたよ」
うわぁ。
なんだこいつ凄まじい世界観。頭の中とこいつの歌詞が一致しねぇ。一言、嫌なヤツ。自己主張しかしてねぇ。
「うひゃひゃひゃひゃぁ!」
だがあまちゃんはストレンジだったようだ。急にラリったように腹抱えて笑いだす。
「あーおもろいおもろーい!ねぇねぇげんちゃんジーマちょーだい?もっぽんあったっしょ?」
「え、ダメ」
「はぇ?なんで」
「あまちゃん、飲み過ぎ」
「うーん…。
んだよクソッタレがぁあ!」
クレイジーなあまちゃん、急遽ブチキレて拳繰り出そうにも、横で肩を抱えてたドラムに拳を取られる。肩に掛かってたジャケットは、はさっと乾いた音で床に落ちた。
ギター、ベース、唖然としている。しかし山田、依然としてあまちゃんを腕組して見つめていた。
「あのギターはねぇ、彼が、彼が、ぶっ壊してって言ったん。こんなんじゃ、俺の求める音がない、って。
そりゃそーだよ彼の歌にYAMAHAって!練習の時から使ってる、金がねぇから買えねぇやめたい、けど思い入れがあるとか言ってっからぶち壊したったわ。
だからやったんだよ俺のフェンダー、昔使ってたやつ!言ったったわ、「プロ目指したのになんで安もん買ったんだよ」って。したらあいつなんつったと思う?「大学サークルで」って!ぶっ殺したろーかと思ったわ!
けどその瞬間あいつ大号泣しやがってぇ、「あんたに早く会いたかった」とよ。こんな野郎に会いたかったんだとよ。
「誰もんなこと言ってくれなかった」ってさぁ、お前!」
ついには山田に指差して叫ぶ。見上げてるけどね。良いのかそれ。
「ギターぶっ壊したとかしゃべぇこと言って先輩ぶってんじゃねぇよ!」
今にも殴りそうな勢い。しかしドラムは最早彼から手を離していた。
「ほらね、だから言ったでしょ山田さん」
そして呆れたようにサポートギターが言った。
「俺なら別に良いけど、彼は、でんにじにいなきゃダメだよって」
「げんちゃん!」
「だから俺がやるって。この人そんなに安売りしてないんですよ“エレクトリック・レインボー”は」
「何言ってん、げん…」
「うんざりするって言ってるんですよ天崎さん。俺あんたの我が儘について…」
ギターがふと、どうやらあまちゃんを見ちゃったらしい。言葉を失ってしまったようだ。
「あっ…」と、動揺してドラムやベースを見ているもドラムは首を振り、ベースは優しく微笑むだけだ。
当のあまちゃんはこちらからは背中しか見えないが、俯いたのだけは見えた。
「こいつ動揺すると硬直しちゃうんですよ。
さぁて。そのゴタゴタは去った。帰れる?入り口まで送りますよ」
「いや、まだ」
本当は、俺の足の痺れは解れてきている。しかし何故か。この、動揺して硬直してしまった小さな背中を少し、見ていたくなってしまった。まだ抜けきれていない気がするアルコールのせいだろうか。
取り敢えず彼の、掛けてくれたらしいジャケットを背中に掛けてやり、ついでに背中をぶっ叩く。彼は、驚いた表情で振り返った。
「ありがとうこざいました。風邪引きますよ」
「あぁ、はぁ…」
「…へぇ…」
興味深そうに金髪は俺とあまちゃんを交互に見て、笑った。
「あんた、面白いね」
そうだろうか。しかしまぁ。
「貴方たちほどエキセントリックでもないですね」
「あぁ、そうね。マキ、」
ドラムは、そう、切羽詰まるような、しかしいつも通りなような、なんとも言えない親しみを込めて彼を呼んだ。あまちゃんはそれに軽く顔を上げたが、それだけだった。
それに慣れているのかドラムはあまちゃんの両肩を抱き締めるように掴み、「いいかい、」と耳元で囁くように言う。
「山Dが嫌ならそれでいいよ。そう、げんちゃんに言ったりな。げんちゃんは山Dがしつこいから、じゃぁ俺が行こうか?なぁんてナンセンスなことを言いに行ってんだよ」
「…ホントに?」
「さぁ?自分で見ろよ対人恐怖症。あの人なかなか、お前が嫌いなタイプだよ」
「…わかった」
なんかすげぇ。
この二人確かに。てかこいつら確かに、中学からずっとやって来た、これは本当かもしれないな。
間もなくして扉が開いた。スタッフ、ベースとサポートギター、そしてグリーンハイツのボーカル、山田世界が登場した。この見映えで最早バンド完成だ。
「はい…、連れてきたよ」
と、ベースは然り気無く山田とあまちゃんの間に入れるような位置に立って言う。それを見たスタッフは連中から一歩下がり、「もー思う存分話し合ってください」と呆れたように言った。
「どうも」
しかし状況がわかっているのかいないのか、山田はスマイルで挨拶。それに対しあまちゃんは、「どぉも」と舌っ足らずににかにかと、見上げるように返した。
「“エレキレイン”のあまちゃんでーす。おみしぃおきを?」
「ちょっとー、天崎さん大丈夫だった?ここのスタッフうるせぇから大変だったみたいね。俺見てたよステージ。
あの人大丈夫?
いやぁでも流石だねぇ。あれは“あまちゃん”にしか出来ないよ。なんで殴っちゃったの、一見普通そうじゃない、あの人。スーツだから?
てかさぁ、どーして?どーして高峰くんのギターぶっ壊したの?彼ビビってたよ」
うわぁ。
なんだこいつ凄まじい世界観。頭の中とこいつの歌詞が一致しねぇ。一言、嫌なヤツ。自己主張しかしてねぇ。
「うひゃひゃひゃひゃぁ!」
だがあまちゃんはストレンジだったようだ。急にラリったように腹抱えて笑いだす。
「あーおもろいおもろーい!ねぇねぇげんちゃんジーマちょーだい?もっぽんあったっしょ?」
「え、ダメ」
「はぇ?なんで」
「あまちゃん、飲み過ぎ」
「うーん…。
んだよクソッタレがぁあ!」
クレイジーなあまちゃん、急遽ブチキレて拳繰り出そうにも、横で肩を抱えてたドラムに拳を取られる。肩に掛かってたジャケットは、はさっと乾いた音で床に落ちた。
ギター、ベース、唖然としている。しかし山田、依然としてあまちゃんを腕組して見つめていた。
「あのギターはねぇ、彼が、彼が、ぶっ壊してって言ったん。こんなんじゃ、俺の求める音がない、って。
そりゃそーだよ彼の歌にYAMAHAって!練習の時から使ってる、金がねぇから買えねぇやめたい、けど思い入れがあるとか言ってっからぶち壊したったわ。
だからやったんだよ俺のフェンダー、昔使ってたやつ!言ったったわ、「プロ目指したのになんで安もん買ったんだよ」って。したらあいつなんつったと思う?「大学サークルで」って!ぶっ殺したろーかと思ったわ!
けどその瞬間あいつ大号泣しやがってぇ、「あんたに早く会いたかった」とよ。こんな野郎に会いたかったんだとよ。
「誰もんなこと言ってくれなかった」ってさぁ、お前!」
ついには山田に指差して叫ぶ。見上げてるけどね。良いのかそれ。
「ギターぶっ壊したとかしゃべぇこと言って先輩ぶってんじゃねぇよ!」
今にも殴りそうな勢い。しかしドラムは最早彼から手を離していた。
「ほらね、だから言ったでしょ山田さん」
そして呆れたようにサポートギターが言った。
「俺なら別に良いけど、彼は、でんにじにいなきゃダメだよって」
「げんちゃん!」
「だから俺がやるって。この人そんなに安売りしてないんですよ“エレクトリック・レインボー”は」
「何言ってん、げん…」
「うんざりするって言ってるんですよ天崎さん。俺あんたの我が儘について…」
ギターがふと、どうやらあまちゃんを見ちゃったらしい。言葉を失ってしまったようだ。
「あっ…」と、動揺してドラムやベースを見ているもドラムは首を振り、ベースは優しく微笑むだけだ。
当のあまちゃんはこちらからは背中しか見えないが、俯いたのだけは見えた。
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