Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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エレクトリック・レインボー

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 怒り顔のスタッフはあまちゃんと俺の前まで来ると、腕組をして見下ろし、「ふー、」と息を吐いた。多分漫画だったら鼻からも息がめっさ出てるやつ。

 あまちゃんは特に気にした風でもなく、ジーマの瓶を傾けながらぼんやりとスタッフを怠く眺めていた。

「あ、起きました?大丈夫っすかあんた」

 スタッフに不躾な態度で言われ、「あぁ、はぁ…」と返す。

 なんやこれは。

「すみません…ご迷惑をお掛けしたみたいで」
「で、天崎さん、話はついたんですかこっちは」
「いや、だからさ」

 スタッフとあまちゃんの間に金髪が割って入る。どうやら険悪な様子。
 あまちゃんは俺の上で、ジーマが空いてしまったらしくふーふーと息を吹き掛けて退屈そうに凌いでいた。

「この人が客席でぶっ倒れちゃったのを、うちの天崎が…まぁステージ降りちゃったけど、今こうしてね」
「どうなんですかその辺」

 スタッフに睨まれ、訪ねられる。
 あまちゃんはちらっと俺を見た。

「へ?」
「だから、あんた、ぶん殴られたんじゃないのかって。
 だってこっちは禁断の救急車召喚っつってんのにおかしいっしょ」
「え?なにが?」

 俺そんなことになってんの。

「あーへ?」
高峰たかみねさんのギターぶっ壊すし、なんなんあんたは。山田さんも心配してましたけど。
 なんか不思議と高峰さんは怒ってないけど山田さんがすげぇこっちに言ってくるわけっすよ。あんた後輩ならわかるでしょ、あの人面倒なの」
「あっそうっすか」

 まだスタッフは何か言いたそうだが俺は取り敢えず、「あのう」と割って入る。

「なんかホント、スゴく迷惑かけちゃったみたいですみません…。まさかこの歳になってアル中でぶっ倒れてこんなことになるなんてホントすみません…!」

 渾身の謝りで頭を下げて上げると、あまちゃん、金髪、ベースとスタッフの驚愕顔。無理もない。

 しかしあまちゃんだけが「ぷはっ、」と爆笑し始め、なんだか身を乗り出すというか俺のこと押し倒すというか、とにかく俺の肩を軽く掴んで顔を覗き込んできた。

 可愛い。

 けど地味にその体重の掛け方ヘソ辺り痛い。思わず「痛い痛い痛い!」とか主張してしまった。足もいい加減痺れてる。

「あ、元気そーだね」
「痛い。足、足ぃ、」
「え、あんたじゃぁ本気でなに、アル中だったの?」
「まぁジントニックとスクリュードライバーとテキーラコークですけど」
「コアだねぇ…」
「あっ、あったよほら」

 ふと金髪、アイホンを操作しながらベースとスタッフに画面を見せている。それを見てベース、口に含んだような笑顔で「お見事だねぇ」と感嘆。スタッフも、「うわぁ、すげぇな」と絶句。

「え、なーに」
「はいこれ。お兄さん、あんた一種の才能だと思う」

 と言われ俺とあまちゃんもアイホンを向けられる。

 某大型掲示板に俺の失神シーンがバッチリ動画投稿されていた。位置的にどこから撮影されたか最早わからないけど。近いことは確かだ。

「うわぁ…」

 最悪だ。
 てかマジかよ。これ職場の誰にも見つかりたくない動画。人権侵害甚だしいよマジ。

「うわぁ、すげぇ、きれーに逝ったね。あ、倒れかけてて俺が押し倒しちゃったのか。あちゃー、やっちゃったねぇ。
 てかこの動画凄いね狙ってねぇと撮れねぇよなぁ…こいつのセンスすげぇわ」
「コメントもなんか『あまちゃん参戦。笑』みたいな書いてあるしな」
「最近のファン層大学生みたいなゴミばっかだかんなこーゆー」
「こらこら。まあ皮肉にも今回これがマキの無罪証明だよ」
「ふん、」

 あまちゃんは途端に不機嫌になりアイホンをドラムに押し返し、そっぽ向いた。そして一言、「げんちゃんは?」と、掠れた低い声で言う。

「だから、山D説得してんだよ」
「つか連れてこいよやまっさん。誰だよあいつ呼んだの。話してやっからよ。なんだっつってんのあのメンヘラメルヘンは」

 メンヘラメルヘン。
 うわぁわかる。すげぇセンスある痛烈悪口だなぁ、ちょっと心のブックマークだわ。

 とか俺一人勝手に思ってると急にあまちゃんが立ち上がり、俺の下半身は漸く解放され血液がどっと巡る。
 まだしばらく動けない。足の指先超痛い。スタッフが申し訳程度に「大丈夫ですか」と聞いてくるが「はい、」と取り敢えずは返しておく。

「まぁ呼んだのは我々ですけど」

 スタッフが不貞腐れたように言う。それを聞いて顔に手を当てあちゃーポーズのドラム、ニヒル笑顔のベース、「はぁ?」なあまちゃん。

「えだって山田さんが仲良いしやりたいって言うから飛び入りで。あんたらだって「あぁ、いいんじゃん?」みたいな感じだったじゃないっすか!」
「まぁね!」

 えぇぇ。

「別に仲良くねぇし知らねぇしあれ。てかわかる?あいつら俺らの名前間違えてたれしょ?」
「まぁはい」
「もー二度とやんなきゃいーだけじゃんげんちゃんそれファンサちゃうわい!」
「いやファンサしねぇお前が言うかね」
「確かにね!俺対人恐怖症だかんね!」
「威張んなよ…」

 こう、存在を忘れられて見て楽しんでみてわかったことがひとつある。

 あまちゃん、どうやら人格破綻だ。

 なんとなく曲を聞いてみてこいつはヤバイんじゃないかと思っていたが本当にヤバかった。人間として。しかしどーにもこうにもなんか。

「わかりました呼んできます」
「いや、それはだから、」

 なんだかベースとスタッフが気まずそう。それを見てあまちゃん、「あんすか、」と、やはり食って掛かる。

「いや、あまちゃん、あのね」
「なによふみと」
「だから、うーん…」
「げんちゃんがいま山Dのとこに行こうかって、サポート」
「はぁ?」
「そーゆー話してんだよ、バカ!
 お前じゃ務まらんからあそこは」
「え、ちょっと待って…」
「いーよふみと、連れてきて。ダメだこのバカ」

 ベースはやれやれと言わんばかりに優しく微笑み「ナトリ、」と制し、それからスタッフと目を合わせて共に去って行く。

 あまちゃんは何も言えずに伸ばしかけた手を弱々しく下げ、俯いてしまった。
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