Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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D.N.A(die noise amazing)

1

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すばる、みかんだよ』
『ありがとぅ、ばあちゃん』

 小さい自分、シワシワの手。いつでもそこにあったけど。

『あの女には、このみかんはあげないのよ』
『どうして?ゆめさん、いい人だよ』
『どこがだよ、あんな、あんな女ギツネめ』

 みかんをくれたその手は優しかったのに。
どうして。

『仕方ないのよ昴くん』
『夢さん、』
『サチ子さんの、たった一人の子供だったのよ、俊郎としろうさんは』
『俊郎おじちゃん?じゃぁ、僕のママは?』
『仕方ないのよ、昴くん。
 昴くんは、私と一緒ね』

 暗闇が現れて。
 あの、儚げな長いひとつ縛り髪、白いエプロンが呑まれていく。「待って!」と手を伸ばしても届かない。やっと掴んだエプロンの、振り返った彼女の顔はモザイク。

誰?貴女は一体、誰だ。

『待って、』
「あっ…!」

 目を開けたら暗闇だった。

 外からは車が走る音や外気の、忙しない生活感が漏れている。1LDK。ここは中野なかの。つまりは自宅だ。カーテン越しのホリゾントライトも日常だ、気持ち悪い。

「…スバルくん、大丈夫?」

 真隣の間近な体温と掠れ声。一瞬考えた。眼鏡もないし視界もうっすらとしてるし。

どうしたのこれ。軽くパニック?

 顔だけ横を見ればやはりあまちゃんさん。うつ伏せで布団も被らず薄暗いなか何かをノートに書いてる。

 目を合わせて「おはよう」と言うと、あまちゃんさんは容赦なく電気スタンドの電気をつけた。痛い。酷すぎる。

「おはよう…。何してるの」
「寒いね、ヒーターつけていい?」

普通の会話が成立しない。

「いいけど」

そりゃぁね、男のセミダブルですからね。貴方に布団はありませんよ、勝手にいるんだから。

 あまちゃんさんはぴょんっとベットから降りて側の、リビングと部屋を横断するように置いていたヒーターのスイッチを入れ、ついでにソファで丸まっていた毛布も手に戻ってきた。

「ねぇ真樹まきちゃん」
「あい」
「なんで君ここにいるの」
「だって寝心地悪い」
「だから言ったじゃん、こっち使えばって」
「違うそうじゃない」

なんだぁ?

 あまちゃんはまた気にした様子もなく毛布にくるまり、隣にうつ伏せで寝転んでペンを持ち、「スバルくん」と聞いてきた。

「何?」
「どんな夢を観たのですか」
「え?」
「なんだか叫んで起きたけど」
「あぁ…うん…」

胸くそ悪い昔の夢だった。
俺が育った場所の夢。

「真樹ちゃん、なんでここにいるの?」
「寝心地悪いから。でもソファーは気持ちいよ。
 ただなんかあれだよ。俺昔からなんかないと寝れないんだよ、なんとなく」
「なんかって?」
「うーん、妥協して毛布」
「あるじゃん」
「今の時期抱いたら寒いじゃん。だから隣にきたの」
「枕は?」
「あっ」
「まぁいいや。寒いからはい」

 取り敢えず布団に入れてやった。「あったけぇ…!」と感嘆を漏らしていた。

「そうそうこれこれ」
「あぁそう。あんた同い年だろ」
「そうだよ」
「まぁいいけどさ。なんか食う?」
「任せる。で、夢は?」
「ん?」

やけに拘るなぁ。
 ふと手元を覗くと、にやっと笑い、「夢日記だよ」と言う。

「夢に出てきたものを書いて、眠くなったら寝る」
「なにそれ」
「ワードでもいい。たまにこれ役に立つよ」
「へぇ。じゃぁ、『みかん』と『しゅうとめ』と『叔父おじ』」
「よくわかんねぇ」
「ワードでもいいんだろ?あまちゃんは?」
「俺の夢はねぇ、今日はあんまり見てない。起きちゃって」

まぁそうか。
あんなに眠ってたんじゃなぁ。

「でも昔の夢」
「おそろじゃん」
「へぇ。スバルくんもなんだ」

さて。
朝飯でも作ってやるか。何にしようかな。早く起きたしちゃんと作ろうかな。

 俺が半身を起こすと、あまちゃんは俺の袖を掴んだ。

なんだろう。

 そう思ってあまちゃんを見ると、その手を離し、何か言いたそうに見上げている。しかし、また何事もなかったかのように夢日記に顔を向けた。

どうしたんだろう。

「…そぼろときんぴらと味噌汁にします」
「なにそれ!」
「今日は早いからちゃんと作ろうかなって」
「凄いねスバルくん、おかんじゃん」

ははは、やはりな。

「そぼろって朝出るのかー、すげー…」

簡単だよ案外。どちらかと言えばきんぴらを褒めて欲しいけどね。

 まぁいい、彼のボルテージは上がったらしい。なんとなく嬉しそうにノートに夢日記を書いていた。

 彼はそう、気付いたが。
 基本的には実は静かな生き物だ。やはりどうも、ステージの時とのギャップがある。まぁうるさい訳じゃないし今となってはあれは躁病だとわかるのだが。

「スバルくん」
「ん?」
「あのさぁ、」

少し熱っぽい声。けど掠れてる。

「いや、やっぱりいいや」

どうしたんだろう、一体。

 しかし言及するのもまた微妙だ。きっと、「なんでもない」で終わってしまう、そんな気がする。

 てか俺は何でこんなにこいつについて考えてるんだろう。やっぱり、昨日のがわりとショックだったのだろうか。

 でもわりと俺的には、受け入れたしなんなら親戚ポジション獲得かも、と、よく知りもしないバンドなクセに調子に乗っている節がある。やはり人は第一印象大切よ。

YouTubeに感謝、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。

また動画でも見ようかな。今日は水曜日だし憂鬱じゃん?絶対電車止まってるデーじゃん?非常ボタンの日、命名俺。

「みかんみかーんみかんみかーん」

 小さな声で電車音。最早憂鬱とか言ってたら荷物挟まっちゃうからなんか楽しいこと考えないとな。みかんみかーんみかんみかーん。これいいな、いいセンス。俺凄い。

 ちゃちゃっとごぼうも晒して味噌汁つくって一段落。あとは卵と鳥挽き肉だけ。そうなってご飯が炊けた頃、あまちゃんを起こそうと部屋を覗いたら寝ていた。

 あらあら、起こしにくいわね。どうしましょう。困ったもんで立ち往生してしまった。
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