Eccentric Late Show

二色燕𠀋

文字の大きさ
52 / 107
日常

3

しおりを挟む
 もたもたしていたら次のバンドが来てしまい(通常運行)、「またお宅らかよ」と言ったそいつらはサキソホン。

「あ、たかちんじゃん!」

 ハゲが嬉しそうに言うまで正直わからなかった。
 だって前髪で顔見えないんだもん。
 「あ、どうもどうも」と片手を上げてハイタッチされそうになったけど困惑してしまった。ちなみにその他のメンバーの顔とか見る余裕なし。だって俺、対人無理だし。

「あー、ごめんね。うちのリーダー硬直系男子なん。それと前回ギターぶっ壊したらしいねすまんね」
「あ、いいんですよー。おかげでテレキャスですよー」

 すみません。
 しかし声が出ません。

「ごめんね、俺ら行くわ、また機会があったら。あ、山Dあれからだいじょーぶ?」

 山D!
 うわぁぁ最近の思い出したくないやつ。なんでその単語だしたのクソハゲ。

「あはい。天崎さんのメアド聞かれました」
「うぎゃぁぁぁ!」

 発狂して座り込む以外出来なかった。
 だって怖い。あいつヤバいよ。

「あごめんね、こいつ君が思ってる以上にキチガイなんだ。
 おら真樹、はい、帰るよ邪魔だよ」
「うぅぅ、あい、あいぃ…」

 下向いてたら身体が宙に浮いて暖かくなった。

 これはいつも通りおんぶされましたね。ギター誰が持ってくれたんだろ。

 遠くで「じゃ、」とか「すみません…」とか聞こえるけどもういいや。

 がさごそと、多分文杜が俺の身体をまさぐるように財布を探している。そうだ会計。スタジオ代。

「じゅぼん」
 
 それだけ言うと、一度頭を撫でられたから安心した。ズボンのポケットからスルッと、財布が抜かれたのがわかる。

 あぁぁぁ。俺ってなんてセンスがないの。

「文杜ー、頼んだ外出てる」
「わかったよー。真樹をよろしくー」

 エレベーターに乗る前、流石に一度振り向いて「文杜!」と呼んでみた。ハゲが「うわぁぁ、ビビるわバカ!」とか喚いたが。

「んー?」

 ただ、なにを言おうかちょっと考えてなくて。

 ふと、珍しく開いた(いやいつも開いてるんだけど)文杜の眼が、少しなんというか、俺を慈悲深げに見据えていて。たまにある文杜のこんな、哀愁みたいな優しい眼。これはなんとなく、心が殺されそうで、より言葉を失ってしまう。

「あっ、」
「真樹、だいじょーぶ」
「うっ、」

 エレベーターが来てしまう。そのまま乗ったけど見た彼は普通に会計していた。

「…お前ってわりと罪深いやつだよな」
「はへ?」
「うん、俺もそう思うよあまちゃん」
「なに?」

 わりとクズなのは知ってるけど今日はお金出したよ?

「俺悪いことしたね」
「いや悪くはないんだよね」
「そうそう。残酷なだけ」

 なにそれ。

「詩的やん」
「は?」
「黙れし」
「えなにそれ」
「てかもう大丈夫なら降りろよお前」

 ハゲのコートのフードみたいな変なピラピラに手を突っ込んで手を暖めていたら「やっ、ちょ、くすぐったいでしょバカちんが!」と強制的に降ろされた。酷い。
 げんちゃんそれ見てウケてるちょっと殴りたい。

「なんだよ!多分スバルくんなら許してくれるよ!」
「あの人はね。多分変な人じゃん」

 それは否めない。

「お前のせいで手が寒い」
「殺すぞ童顔」
「お前らのせいで明日俺ライブ行かない」
「それを聞いたからには俺がすばるくんから今日中に住所を聞いておかないといけないねあまちゃん」

 なんなのこの妙な繋がり。

「じゃ、家来る?いまから」

 外に出て、後ろから声が掛かって。
 ぱっと見たときに何かが投げられたので思わず反射神経でキャッチしてしまった。見たらジーマ。

 あぶねぇぇ!外したら死ぬわバカ野郎!誰だこんなキチガイ野郎と思えば。

「まだいたの太田おおたぁ」

 呆れたげんちゃんが言った。
 エッレの太田だった。

「知ってんだろ、俺わりとしつけーんだよ。お前口説いた時も結局家まで押し掛けただろ奥田おくだ
「はぁ、そうだっけか」

 キャッチしたことだし取り敢えず開けて飲んだ。ちゃんとジーマだ。

「げんちゃん」

 俺がげんちゃんの、硬いなんかフェルト凝縮させたみたいな生地の黒いコートを引っ張って見上げると、「んん?」とめんどくさそーに横目で睨むように見下げてきた。

 こうやって見るとお前ってなんかフランス顔だよね鼻高いしね。

「めんどくさいなぁ」
「同意。帰ろ」
「ん」

 ジーマを煽ってその場に置いて太田の方に蹴り返した。文杜もそろそろ来るだろう。

「じゃね!」

 片手を上げてファンサービスよろしくニコニコで言ってやれば、しかし相手もどうやらわりとイラっとしたらしい。

 転がった空き瓶をじろっと見てから鼻で笑い、歩み寄ってきたかと思えば。
 「あんたホントお利口じゃないけど可愛いねぇ」とか言われて。
 思わずこっちも、「あ?」と少し戦闘体制に入ってしまい。

「んなんだから緩いんじゃないの?引きこもりみたいな音楽しか出来ねぇんじゃない?」
「まぁ引きこもりですからねぇ、で?だからなんだよにニセモンのカナディアンいんぐりっしゅ?
 ごめんよ、俺は日本人の引きこもりなんでね。セックス・ピストルズは何言ってっかわかんねぇけど清志郎きよしろうは崇めるね!」

 そう俺が言えば、なんとなく場が静まった。明らかに太田があんぐりと口を開けて唖然としている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...