Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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日常

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前頭葉から声が聞こえて
あれからずっと忘れられずに
海馬の底に眠っていたのは
新しい夢 古い世界へ


*****

「寝ちゃったねぇ」
「先にお前が潰れると思ったけどな」

 遠くに聴こえる微睡みのような話し声。どうせなら俺がいないかもしれないこの世界、見ていたいと、意識をあと少し、持っている。

 膝は固いがスバルくんが少し前にくれたリスの、頭サイズの枕は丁度いい。ネコでもクマでもなかった。

 けれど髪を緩くかき混ぜるような、多分他の3人は知らない机の下の優しい事情はなぜだか悲しい。俺は、実は理由を知っているような気がする。

「疲れたんだねぇ、真樹」
「…あまちゃん、事件の前は文杜さんと一緒に住んでましたよね」
「そうだね」
「あ、そうなんだ…」
「あれから、事件があって、契約切れてドリファク契約して休業して復帰して…。
 そもそもあんたら、何が」
「なんにもないんだよ」

 そう。

「そうだな。なんにも…」
「ただまぁ、タイミングは悪かったよね。丁度俺と真樹が住まなくなった、それくらいなんだろ、ちょっと疲れちゃって。気付いたら今に至る」
「…だって、結局それは」
「まぁ、辛くなっちゃったんだよね。俺って真樹ほど純粋じゃなくて、真樹も息はしにくかった。
 凄く近くにいるんだ真樹が、あまちゃんが。それだけで凄くこう…幸せなことなのに辛くて。真樹は敏感な子だから、俺がそれにナーバスになっていくの、多分わかっちゃったんだよね」

 違う。
 けど、そう。

「え、ちょっと待って」
「ごめんなさい古里ふるさとさん。あんま突っ込まないで察して欲しい。俺生半可なひとでなしじゃないって」
「ひとでなしじゃねぇけど好きなんだよな」

 そのハゲの一言に一同静まり返った。
 あぁ爆弾だよそれ。

「…ぅん、ん?」
「まぁ、見てればね。俺たちも短い仲じゃないからね文杜さん」
「…うーん、いやぁ、うーん」

 なぜる手が止まった。

「いやごめん、正直、わかんないんだよ」
「…え?」
「いや好きだよ好きだけどわかんない。なんだろ。たまに凄くこう…猛烈に首締めたくなるときあるし、あの写真見せられたときとかね。まぁあれはあれでちょっとあれだったんで帰ったらあれなんですけど」
「おいバカ」
「それをloveと言わずしてなんと言う気になってんすかあんたは」
「いやわかんない。でもなんて言うかなんか違うんだよわかんないよねぇ」
「わからんな」
「ちょっとわかる」
「まぁ昴くんなら確かに」
「でもまぁ置いといて。
 真樹はでもそう、なんか一定で怖くなっちゃう領域があるわけよね。俺もその気持ちはわかってやれるけどわかってやれないわけ。だから互いにこう…息が詰まっちゃう。
 ねぇナトリだって言ったじゃん、俺ひとでなしじゃん?人の痛みわかんねぇの、殴ったら自分の拳が痛いからわかってやれるわけ。だから一緒になってよかったのもある。俺の痛みもわかった、真樹の痛みもわかった。ただそれは辛かった。それだけ」

 文杜のその手が暖かい。
 文杜、それって違うんじゃない?

『それ程君を痛め付けるのは君自身だから。俺はそいつを殺しに行けばいい。君を大切に思うというのは、無条件だ』

 それが辛くも。
 俺がいては君はどうなるだろうか、それが怖かったんだよ、文杜。あの時の蛇みたいな目が。

「でもそう、あとはどうだっていい。俺ホントあん時空から、真樹が降ってこなかったら今頃まともに人間やってない」
「文杜、あのさ」
「なに?」
「それでもお前まだまだ人間だな。捨てられないんでしょ?何だかんだで。家燃やそうがヤクザに追われようが。俺だって、そんなお前と真樹とやってこなかったら今頃こんな国、捨ててた」
「…ナトリ」
「いいよ、好きにしろよお前ら。たまには自分勝手に生きろよしゃべぇなぁ。仮にもレペゼン上がりだろうが。真樹は真樹で文杜は文杜だ。なんか一個くらい捨てろよ。
 げんちゃん見てみろ、捨てすぎて凶器じゃねぇか。キチガイ眼鏡を見てみろ、こんなに楽しい人生そうそうねぇじゃん。
 そんでも捨てたくねぇのが真樹だ。捨てたくねぇから落ちたんだよ。お前はどーすんの?」

 あぁぁぁもう。

「あぁぁぁ、最低だよクソハゲぇ…」

 あれ?

「えっ」

 げんちゃんの驚愕が聞こえた。
 確かに俺ですら多分一、二回しか見たことない。見たい写メりたい。だって今絶対文杜…。

「もう好きぃ…愛しい…ぃ、」

 離れてまた置かれた手が湿ってる。やっぱりそうだ。号泣してる。

「よく言った!一個捨てたな!」

 軽快に言うナトリの声。そしてなんとなく、近付いてきた文杜の顔。多分感極まってる。髪の毛の先に鼻先が当たって吐息が湿ってる。もう、仕方ないなぁ。

「文杜」

 小さなひそひそ声で言い目を開ければ、文杜は驚いた表情で。仕方なくそのまま頭を撫でてやった。

「大丈夫。凭れたい壁。
 息苦しくなんて、ないんだ」
「真樹ぃ…?」

 また目を閉じる。
 はい、俺は今寝ていますから。

「うぅ、うぅぅ…!」

 向かい側から聞きなれた嗚咽が聞こえる。
 うわぁ、眼鏡不細工めんどくさい。

「ちょ、昴くん…!」
「あんたが泣くとこなの!?」
「いやぁ、ちょっ、歳食うとぉ、感動系ぃ、ダメだよねぇ…!」
「うわぁウザキモい!けどあんたもなんかいいやつ感ハンパねぇな、動物系とか弱くない?」
「やべぇ…」
「だよね!俺もだよ!」
「マジかげんちゃんやっぱ良いヤツ~!」
「ありがとう。気持ち悪い」

 その場はそれで和んでしまった。
 やっぱり凄いやスバルくん。俺たちには出来ないなぁ、それ。君いなかったら今頃ここは葬式だったよ。

 あぁそう。
 やっぱり俺まだやめたくないよこれ。生きたくねえし働きたくねぇしどうでもいいけどこれだけは捨てたくないよ。好きだ。普通に。

 愛しい?そんなんじゃない。もう少し擦れてていいけど、ないと死んじゃう。これしかもうないの、俺ってセンスないから。

 最早俺にとってヘロインなの愛なの、ひとでなしレベルに。わからなくたっていい。俺だけの陶酔と泥濘でいいの。
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