Eccentric Late Show

二色燕𠀋

文字の大きさ
58 / 107
日常

9

しおりを挟む
 そして、帰りは駅まで珍しく文杜がおぶってくれた。
 「このままでいいの?」とスバルくんが文杜に言う。文杜はスバルくんに、

「ありがとう。いいんです。俺にとって真樹は、あまちゃんは、汚したくない存在だから。
 明日待ってますよ、…スバルさん」

 それからスバルくんへ俺はバトンタッチ。電車に乗って二人で帰った。
 電車でスバルくんに凭れているときに聞かれた。

「明日からどうしよっか」
「うん」
「まぁ、うん。
 明日さ、太一…来れたら。あと、後輩と行こうと思うんだ。職場の子。サブカルクソ女子」
「あらぁ、隅に置けないね」

 そっか、スバルくん。

「いや、そーゆんじゃない。まあいい友達。君みたいなもんだ」
「あそう。男女ってそんなもん?」
「俺もそう思う。けどどうやらそうらしい」
「君ってやっぱどっか童貞っぽいよね」
「ははっ、それねぇ、太一にも言われたよ。お前いつも鈍感だよねってさ。けど本当に違うんだよなぁ…なんか」
「あそう」

 スバルくんならまぁでも、ありえる。色々な人が寄ってきそうだから。

「太一はどんな人なの?」
「ん?んー…。
 コウイチの兄貴で、なんていうかしっかりしてる。頭は普通で、器用。今は花屋だってよ」
「へぇ、なんかすげぇ。
 スバルくんってなんでバンドとか、好きなの?やっぱ従兄弟二人の影響?」

 ふと、気になったから聞いてみた。
 俺のように引きこもりというわけではないスバルくん。果たしてそんなやつと何故こうも、世代が少しズレたアーティストで話が通じるのか、価値観が通じるのか、単純なる疑問だった。

 俺たち“でんにじ”のように、なにか、共鳴するようなものが、あったのだろうか。

「あぁ、うん。あいつらの父親がさぁ、スゲー好きだったの清志郎!」

 なんて、嬉しそうに満面の笑みで言った。そこに哀愁なんてなかった。

「でもね、なんて言うかまぁ、“第一次バンドブーム”世代の人だからさ、うるせぇのよ。ロック語りだしたらキリがなくて。
 ギターは絶対レスポールだろ!とかさぁ、永ちゃんのコードはもうなかなか、当時のカリスマだとか。セックス・ピストルズ聴かないでお前音楽の授業出るの?とか」
「え、なにそれ…」

 まぁわかるけど、わかんねぇなそれ。

「そう!凄く偏屈だったんだよ。
 でも俺たちもさぁ、まぁ家で音楽かかってるしそりゃぁ好きになるよね。でもそれで好きになれるくらい、影響力がある人だったの俺のなかであの人は」

 なんかそれって。

「いい話系?」
「かも。そうかも。
 さっきも太一と話したよ、敏郎としろうが死んじまったって、俺あのとき思ったんだって…。
 今更誰が母親とか父親とか兄弟とか俺どうでもいい。ばあちゃん死んでも、どうでもいい。太一やコウイチに言うのは辛いかもしれないけどね、俺、俺だからかもしれない。
 俺夢子ゆめこさんも太一もコウイチも、一緒に住めてよかった。だからばあちゃんが、それが凄く邪魔くさい」
「スバルくん…」
「でもあん時は今ほどこんなに、なんて言うか悩まなかったんだ。気付かなかったんだ。無知って幸せだけど知ったときが一番凶器になる。
 そうじゃない?真樹」
「うん…そう…ねぇ」
「コウイチには会えなかった。俺には会いたいけど会えないってさ。今はまだ。ババアが死んだら会おうって太一に…言われて」

 それってなんか。
 凄く閉鎖的だなぁ。スバルくんって、だけど、どうしてこんなに距離を計れる、例えば俺との距離やきっとその女の子の後輩との距離だってうまく計ってくれるように感じるんだ、俺には。

 それって俺にはなかなか出来ない。

「スバルくんって凄いね」
「え、何が?」

 そんな話の途中で中野なかのについた。
 今日は疲れたなぁ。色々、たくさん。

 先に降りて行くとスバルくんは無言でついてくる。そのまま改札まで出て答えを、なんとか捻り出そうと考えていた時だった。

 電話が鳴った。ポケットから出してみれば“福寿園ふくじゅえん”。あぁ、そうだスバルくんのばあさんに、俺の番号教えたんだ。

「はい、もしも」
『古里昴か』

 急に、聞き覚えのないドスの利いた巻き舌な男の声が鼓膜に滑る。思わず硬直してしまった。

「真樹?」

 しかしスバルくんの心配そうな声で我に返る。冷や汗を背中にも感じる。

 しかしダメ。
 左手に拳を作って「あい、」と返す。少し声が震えてしまった。

『こちらが聞いていたお話たぁちぃとばかし違うようじゃありません?』
「なんのことぉ?」
『おやおやまた始まった。お宅も痴呆ですか?
 このばあさんどうやらどっかにへそくり隠し持っとるようやけんど、ボケちまってわからんようになったようじゃありませんか。あんた、知らんかい?』
「なんの話だかさっぱりですなぁ?煎餅の缶の中にでもあるんじゃなぁい?」
『ははは、笑えませんなその冗談。
 あんたが知らんならそうさなぁ…。倅んとこの奥さん。よう面倒見てくれたようでぇ?まぁ去年ガンで仏になって保険金半端なく入ったようだし、その倅、何でしたっけ』
「は?」
「ちょっと真樹、誰と話て」

 察したらしいスバルくんも、ケータイ電話を手にしていた。
 なるほど、スバルくんはそれを無視していたのか。

「貸して、」
「知人。黙ってて。
 あんたさぁ、ちょっとばあさんに代われよ。俺が聞き出してやるよ。
 まさか埋めてねぇよな?そのばあさん、生かしといた方がてめぇの身のためだぜ」

 「どういうことだよ」そのヤジには返事はしなかった。無言で語ろう。しばらくすれば「昴…?」と、弱々しい声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...