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日常
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そして、帰りは駅まで珍しく文杜がおぶってくれた。
「このままでいいの?」とスバルくんが文杜に言う。文杜はスバルくんに、
「ありがとう。いいんです。俺にとって真樹は、あまちゃんは、汚したくない存在だから。
明日待ってますよ、…スバルさん」
それからスバルくんへ俺はバトンタッチ。電車に乗って二人で帰った。
電車でスバルくんに凭れているときに聞かれた。
「明日からどうしよっか」
「うん」
「まぁ、うん。
明日さ、太一…来れたら。あと、後輩と行こうと思うんだ。職場の子。サブカルクソ女子」
「あらぁ、隅に置けないね」
そっか、スバルくん。
「いや、そーゆんじゃない。まあいい友達。君みたいなもんだ」
「あそう。男女ってそんなもん?」
「俺もそう思う。けどどうやらそうらしい」
「君ってやっぱどっか童貞っぽいよね」
「ははっ、それねぇ、太一にも言われたよ。お前いつも鈍感だよねってさ。けど本当に違うんだよなぁ…なんか」
「あそう」
スバルくんならまぁでも、ありえる。色々な人が寄ってきそうだから。
「太一はどんな人なの?」
「ん?んー…。
コウイチの兄貴で、なんていうかしっかりしてる。頭は普通で、器用。今は花屋だってよ」
「へぇ、なんかすげぇ。
スバルくんってなんでバンドとか、好きなの?やっぱ従兄弟二人の影響?」
ふと、気になったから聞いてみた。
俺のように引きこもりというわけではないスバルくん。果たしてそんなやつと何故こうも、世代が少しズレたアーティストで話が通じるのか、価値観が通じるのか、単純なる疑問だった。
俺たち“でんにじ”のように、なにか、共鳴するようなものが、あったのだろうか。
「あぁ、うん。あいつらの父親がさぁ、スゲー好きだったの清志郎!」
なんて、嬉しそうに満面の笑みで言った。そこに哀愁なんてなかった。
「でもね、なんて言うかまぁ、“第一次バンドブーム”世代の人だからさ、うるせぇのよ。ロック語りだしたらキリがなくて。
ギターは絶対レスポールだろ!とかさぁ、永ちゃんのコードはもうなかなか、当時のカリスマだとか。セックス・ピストルズ聴かないでお前音楽の授業出るの?とか」
「え、なにそれ…」
まぁわかるけど、わかんねぇなそれ。
「そう!凄く偏屈だったんだよ。
でも俺たちもさぁ、まぁ家で音楽かかってるしそりゃぁ好きになるよね。でもそれで好きになれるくらい、影響力がある人だったの俺のなかであの人は」
なんかそれって。
「いい話系?」
「かも。そうかも。
さっきも太一と話したよ、敏郎が死んじまったって、俺あのとき思ったんだって…。
今更誰が母親とか父親とか兄弟とか俺どうでもいい。ばあちゃん死んでも、どうでもいい。太一やコウイチに言うのは辛いかもしれないけどね、俺、俺だからかもしれない。
俺夢子さんも太一もコウイチも、一緒に住めてよかった。だからばあちゃんが、それが凄く邪魔くさい」
「スバルくん…」
「でもあん時は今ほどこんなに、なんて言うか悩まなかったんだ。気付かなかったんだ。無知って幸せだけど知ったときが一番凶器になる。
そうじゃない?真樹」
「うん…そう…ねぇ」
「コウイチには会えなかった。俺には会いたいけど会えないってさ。今はまだ。ババアが死んだら会おうって太一に…言われて」
それってなんか。
凄く閉鎖的だなぁ。スバルくんって、だけど、どうしてこんなに距離を計れる、例えば俺との距離やきっとその女の子の後輩との距離だってうまく計ってくれるように感じるんだ、俺には。
それって俺にはなかなか出来ない。
「スバルくんって凄いね」
「え、何が?」
そんな話の途中で中野についた。
今日は疲れたなぁ。色々、たくさん。
先に降りて行くとスバルくんは無言でついてくる。そのまま改札まで出て答えを、なんとか捻り出そうと考えていた時だった。
電話が鳴った。ポケットから出してみれば“福寿園”。あぁ、そうだスバルくんのばあさんに、俺の番号教えたんだ。
「はい、もしも」
『古里昴か』
急に、聞き覚えのないドスの利いた巻き舌な男の声が鼓膜に滑る。思わず硬直してしまった。
「真樹?」
しかしスバルくんの心配そうな声で我に返る。冷や汗を背中にも感じる。
しかしダメ。
左手に拳を作って「あい、」と返す。少し声が震えてしまった。
『こちらが聞いていたお話たぁちぃとばかし違うようじゃありません?』
「なんのことぉ?」
『おやおやまた始まった。お宅も痴呆ですか?
このばあさんどうやらどっかにへそくり隠し持っとるようやけんど、ボケちまってわからんようになったようじゃありませんか。あんた、知らんかい?』
「なんの話だかさっぱりですなぁ?煎餅の缶の中にでもあるんじゃなぁい?」
『ははは、笑えませんなその冗談。
あんたが知らんならそうさなぁ…。倅んとこの奥さん。よう面倒見てくれたようでぇ?まぁ去年ガンで仏になって保険金半端なく入ったようだし、その倅、何でしたっけ』
「は?」
「ちょっと真樹、誰と話て」
察したらしいスバルくんも、ケータイ電話を手にしていた。
なるほど、スバルくんはそれを無視していたのか。
「貸して、」
「知人。黙ってて。
あんたさぁ、ちょっとばあさんに代われよ。俺が聞き出してやるよ。
まさか埋めてねぇよな?そのばあさん、生かしといた方がてめぇの身のためだぜ」
「どういうことだよ」そのヤジには返事はしなかった。無言で語ろう。しばらくすれば「昴…?」と、弱々しい声が聞こえた。
「このままでいいの?」とスバルくんが文杜に言う。文杜はスバルくんに、
「ありがとう。いいんです。俺にとって真樹は、あまちゃんは、汚したくない存在だから。
明日待ってますよ、…スバルさん」
それからスバルくんへ俺はバトンタッチ。電車に乗って二人で帰った。
電車でスバルくんに凭れているときに聞かれた。
「明日からどうしよっか」
「うん」
「まぁ、うん。
明日さ、太一…来れたら。あと、後輩と行こうと思うんだ。職場の子。サブカルクソ女子」
「あらぁ、隅に置けないね」
そっか、スバルくん。
「いや、そーゆんじゃない。まあいい友達。君みたいなもんだ」
「あそう。男女ってそんなもん?」
「俺もそう思う。けどどうやらそうらしい」
「君ってやっぱどっか童貞っぽいよね」
「ははっ、それねぇ、太一にも言われたよ。お前いつも鈍感だよねってさ。けど本当に違うんだよなぁ…なんか」
「あそう」
スバルくんならまぁでも、ありえる。色々な人が寄ってきそうだから。
「太一はどんな人なの?」
「ん?んー…。
コウイチの兄貴で、なんていうかしっかりしてる。頭は普通で、器用。今は花屋だってよ」
「へぇ、なんかすげぇ。
スバルくんってなんでバンドとか、好きなの?やっぱ従兄弟二人の影響?」
ふと、気になったから聞いてみた。
俺のように引きこもりというわけではないスバルくん。果たしてそんなやつと何故こうも、世代が少しズレたアーティストで話が通じるのか、価値観が通じるのか、単純なる疑問だった。
俺たち“でんにじ”のように、なにか、共鳴するようなものが、あったのだろうか。
「あぁ、うん。あいつらの父親がさぁ、スゲー好きだったの清志郎!」
なんて、嬉しそうに満面の笑みで言った。そこに哀愁なんてなかった。
「でもね、なんて言うかまぁ、“第一次バンドブーム”世代の人だからさ、うるせぇのよ。ロック語りだしたらキリがなくて。
ギターは絶対レスポールだろ!とかさぁ、永ちゃんのコードはもうなかなか、当時のカリスマだとか。セックス・ピストルズ聴かないでお前音楽の授業出るの?とか」
「え、なにそれ…」
まぁわかるけど、わかんねぇなそれ。
「そう!凄く偏屈だったんだよ。
でも俺たちもさぁ、まぁ家で音楽かかってるしそりゃぁ好きになるよね。でもそれで好きになれるくらい、影響力がある人だったの俺のなかであの人は」
なんかそれって。
「いい話系?」
「かも。そうかも。
さっきも太一と話したよ、敏郎が死んじまったって、俺あのとき思ったんだって…。
今更誰が母親とか父親とか兄弟とか俺どうでもいい。ばあちゃん死んでも、どうでもいい。太一やコウイチに言うのは辛いかもしれないけどね、俺、俺だからかもしれない。
俺夢子さんも太一もコウイチも、一緒に住めてよかった。だからばあちゃんが、それが凄く邪魔くさい」
「スバルくん…」
「でもあん時は今ほどこんなに、なんて言うか悩まなかったんだ。気付かなかったんだ。無知って幸せだけど知ったときが一番凶器になる。
そうじゃない?真樹」
「うん…そう…ねぇ」
「コウイチには会えなかった。俺には会いたいけど会えないってさ。今はまだ。ババアが死んだら会おうって太一に…言われて」
それってなんか。
凄く閉鎖的だなぁ。スバルくんって、だけど、どうしてこんなに距離を計れる、例えば俺との距離やきっとその女の子の後輩との距離だってうまく計ってくれるように感じるんだ、俺には。
それって俺にはなかなか出来ない。
「スバルくんって凄いね」
「え、何が?」
そんな話の途中で中野についた。
今日は疲れたなぁ。色々、たくさん。
先に降りて行くとスバルくんは無言でついてくる。そのまま改札まで出て答えを、なんとか捻り出そうと考えていた時だった。
電話が鳴った。ポケットから出してみれば“福寿園”。あぁ、そうだスバルくんのばあさんに、俺の番号教えたんだ。
「はい、もしも」
『古里昴か』
急に、聞き覚えのないドスの利いた巻き舌な男の声が鼓膜に滑る。思わず硬直してしまった。
「真樹?」
しかしスバルくんの心配そうな声で我に返る。冷や汗を背中にも感じる。
しかしダメ。
左手に拳を作って「あい、」と返す。少し声が震えてしまった。
『こちらが聞いていたお話たぁちぃとばかし違うようじゃありません?』
「なんのことぉ?」
『おやおやまた始まった。お宅も痴呆ですか?
このばあさんどうやらどっかにへそくり隠し持っとるようやけんど、ボケちまってわからんようになったようじゃありませんか。あんた、知らんかい?』
「なんの話だかさっぱりですなぁ?煎餅の缶の中にでもあるんじゃなぁい?」
『ははは、笑えませんなその冗談。
あんたが知らんならそうさなぁ…。倅んとこの奥さん。よう面倒見てくれたようでぇ?まぁ去年ガンで仏になって保険金半端なく入ったようだし、その倅、何でしたっけ』
「は?」
「ちょっと真樹、誰と話て」
察したらしいスバルくんも、ケータイ電話を手にしていた。
なるほど、スバルくんはそれを無視していたのか。
「貸して、」
「知人。黙ってて。
あんたさぁ、ちょっとばあさんに代われよ。俺が聞き出してやるよ。
まさか埋めてねぇよな?そのばあさん、生かしといた方がてめぇの身のためだぜ」
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