イーゼル・シーロスタット

二色燕𠀋

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D/1993 F2

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 童貞加藤は始終俯いて気まずそうだった。
 ただ、エレベーターの狭い箱に二人きりになったときに「ハルちゃんて…」と言われた。

「その…田辺がいたからだった?昨日」
「なにがぁ?」
「いや、意外と積極的だなと」
「そうなの?」
「え、うん。まぁ、兄弟?双子ってやっぱ少しは似るんだよねきっと…昨日あまりにその…大人しそうだったから…」
「兄はどんな感じでした?」
「いや、えー…」
「この際共犯として言わないでおきます」
「いやぁ…どうかなぁ」

 意気地無し。甲斐性なし。どうせ「なかなか気性が荒いよね」だとか「女タラシすぎるよね」とかだろ?多分。

「まぁ、いいんですけどね」
「…俺も一回しか会ったこと、多分なくて」
「多分性格破綻で女タラシなのは私もわかりますよ?」
「え、そこ?てか、言っちゃうの?」
「長い…ですからね」

 なにより自分で付き合っていてそれくらいはわかる。自覚というのは意外に簡単なものだ。自分に気付かないやつが多いだけで。

「ハルちゃん?」

 顔を上げれば「ついたよ受付」と言われる。

 加藤がエレベーターから先手を切って受付に向かうはいい。
 が、「えっと…何時間?」だの「機種?」だのやってるのに静観を決め込んでやりたかった。
 「プラン?」あたりで気性のイライラが限界だった。

「ジョイでフリーでノンアル飲み放題で」

 とついつい口出ししてしまった。

 「お部屋端の方の408で」は烏龍茶を汲みながら聞いた。
 おどおどしている加藤は伝票を持つことになり俺はそんな根性なしを置いて先に奥へ歩いて行き、もう大分うんざりしていたので先に座って機械を弄り始めていた。

 漸く部屋に入って来て加藤はわりとびびった表情だった。まごついているので「閉めて欲しいな」と言えば「ごめん」と言うのに両手塞がった状態に加藤はまごついていてイライラした。
 結局俺が閉めてやるのだが「ひぃ、」と、壁ドン状態で縮こまってしまった不能をほっといてまた機械弄りに戻る。

「は、るちゃんてさ、」
「んー、なに」
「ガチなカラオケ?」
「何が?」
「いや、別になんでもないんですけど…」

 向かいに座った加藤は頬杖をついてどうやらケータイを弄り始めたようだ。お互いに無言だがふと「俺さぁ、」と言った。

「カラオケ、凄い苦手なんだよね」

 手が止まってしまった。
 加藤を見れば「あ、いや全然気にしないでよ」と笑う。

「ずっとカラオケコンパとか然り気無く俺の番が来ないように回してたタチ、俺」

 何?
 だが加藤は凄く優しいような、微妙な笑顔で笑った。

「から、なんだかハルちゃん楽しそうだなって」

 …こいつここに来てそんなに下げてくるか?
 一体なんで来たの、こいつ。

「…あ、ごめん。微妙になっちゃった?いや、まぁ、歌って歌って」

 萎えるー。微妙に萎えるー。
 何か新提案を打ち出そうか。

 あれ、というか俺も何故カラオケに来たんだっけ。まさか今朝の音楽が忘れられないとふと思ったわけではないだろうよと考えていたら、ふと申し訳なさそうに加藤が、「そっち行っても良いかな」と言い許可なく隣に来た。
 ので、なんだか仕方なく、椅子の端から退いてやるしかないんだけど、今度は側で頬杖ついて眺められ、より萎えてしまい機械のペンを置いて加藤を見る。

 すげぇ嬉しそうと言うかなんだその微妙な「太陽に当たる俺、めっちゃかっこいい」みたいな優しめキメ顔。それマジで女にやるやつだろって俺いまそうだ、ハルか。
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