24 / 90
For Someone
10
しおりを挟む
今日のバイトは至って暇だった。早めにお店を閉めることになり、残り時間はゆっくりと過ごした。
ふと思い出して、私はみっちゃんにメモ帳を渡すことにした。
「はい、これ」
「ん?」
「交換日記だって」
そう言って渡すと、昨日書いたであろうメモ書きを見てみっちゃんはマリちゃんを睨むように見た。
「これ、俺が書いた?」
「書いてたよ。号泣しながら書いてたよ」
「うっわー…」
「光也、お前…」
柏原さんとマリちゃんもメモ帳を覗き込んでいた。両サイドから覗き込む二人を左右それぞれ睨み付けて赤面してから、
「観ちまったじゃねぇかよセルマ…!」
と、みっちゃんは柏原さんを叩いて言った。
「これはキテるなお前。俺だって読んじまったじゃねぇかよエリス…俺はハンスまで読んだよ…」
と、互いにげっそりしながら言っていたのだ。
再びセルマ病が再発。マリちゃんも暗い顔で、「セルマはヤバい…」と言っていた。
「ズルい。そんなに言うなら私も観たい!」
と言うと、
「あぁ…観たら?死にたくなるよ」
「うん」
「いや、俺はセルマを愛すから」
と言う返事。
なんだ気になる。なんなんだろう。しかしそう言われると怖い。
「あー、死にたいよ…てか俺何してんだよ止めろよ真里!」
「いや無理。あんたどんだけ自分がヤバかったかわかんないでしょ?まわりから見たら異常だよ」
「んなのこれ見りゃわかるよ!
え、てか待って、小夜、これ交換日記って…」
「そのメモ帳先生に渡したんだけどさ」
「…これは俺の死体と共に燃やしてください。本当に今羞恥心と自殺願望と絶望で、とにかく希望がありません。殺してください」
「怖ぇよ流石に!面白いから殺さねぇよ!」
「うるさい黙って。取り憑くよ?」
「わ、やめて。お前はガチでやりそう」
「光也さん、俺ならいつでもウェルカムだぜ」
「それすら嫌だ。消えたい」
「待って、みっちゃん消える前に待って!そのあとのページとか開いて見て!」
みっちゃんは少し泣きそうになりながらお酒を煽るように飲んだ。飲んで記憶を消してしまいたいらしい。嫌々ページをめくると、先程までとはうって変わって「おぉっ」と、興味深そうに眺めていた。
「え、これなに?」
「それね、みっちゃんの本のラインナップを見た先輩が、「面白いね」って言って書き残したらしいんだけど、私は見てないんだ。
先生がそれを見て、交換日記みたいねって」
何ページかめくって見ていた。
「もしかして先輩って、あの子?」
と柏原さんがふと聞いてきた。
「はい。あともう一人いるんですけど、その人が凄く海外書物好きらしいです」
「まさしくハンスじゃん」
「いや…あれ?ん?…うん、違う方」
「光也のメモ書きを見て、これを書いたの?」
「はい、そうです。なんて書いてあるか、私も見ていい?」
みっちゃんがメモ帳を見せてきた。見てみると、
ゲーテ ファウスト
ヘルマン・ヘッセ 車輪の下
ヘミングウェイ 老人と海
イプセン・ヘンリック 人形の家
泉鏡花 十六夜
司馬遼太郎 燃えよ剣
が書かれていた。
そして次のページには。
“鳥は卵からむりやり出ようとする。卵は世界である。生まれ出ようとする者は一つの世界を破壊しなければならない。”
と、書かれていた。
「あぁ…なるほど」
なんとなく、すとんと、胸にひとつ落ちた気がした。
「あのね、みっちゃん」
「ん?」
私はなんとなく。
なんとなく、先輩について。
この前の事件についても、みっちゃんに話そうと思った。正直に、素直に。
「この人、変な人なんだ」
自然と話していて。
何故か柏原さんもマリちゃんも、あの事件の時、みっちゃんに話したらヤバそうだね、なんて言っていたのに。全然止めずに聞いてくれて。
話終わったら少し寂しくなった。
「小夜、」
「みっちゃん、怒った?」
みっちゃんはだけど予想に反して優しい眼だったから。
「いや、別に。でもそうだなぁ…」
そう言うとみっちゃんは何かを考え、閃いたのかボールペンを胸ポケットから出して何かをすらすらと書いた。
「はい、これ。交換日記」
「うん…」
そこに書かれた英文の意味を、私には理解することが出来なかった。真里ちゃんや柏原さんも、
「え?どーゆー意味?」
とか、
「筆記体綺麗だね」
とか言っていた。
「こいつに届けばそれでいいや」
なんだろう。
「気になる」
「小夜も読んだら?『老人と海』」
「…来たら読む…」
また、読書の幅が広がってしまった。
ふと思い出して、私はみっちゃんにメモ帳を渡すことにした。
「はい、これ」
「ん?」
「交換日記だって」
そう言って渡すと、昨日書いたであろうメモ書きを見てみっちゃんはマリちゃんを睨むように見た。
「これ、俺が書いた?」
「書いてたよ。号泣しながら書いてたよ」
「うっわー…」
「光也、お前…」
柏原さんとマリちゃんもメモ帳を覗き込んでいた。両サイドから覗き込む二人を左右それぞれ睨み付けて赤面してから、
「観ちまったじゃねぇかよセルマ…!」
と、みっちゃんは柏原さんを叩いて言った。
「これはキテるなお前。俺だって読んじまったじゃねぇかよエリス…俺はハンスまで読んだよ…」
と、互いにげっそりしながら言っていたのだ。
再びセルマ病が再発。マリちゃんも暗い顔で、「セルマはヤバい…」と言っていた。
「ズルい。そんなに言うなら私も観たい!」
と言うと、
「あぁ…観たら?死にたくなるよ」
「うん」
「いや、俺はセルマを愛すから」
と言う返事。
なんだ気になる。なんなんだろう。しかしそう言われると怖い。
「あー、死にたいよ…てか俺何してんだよ止めろよ真里!」
「いや無理。あんたどんだけ自分がヤバかったかわかんないでしょ?まわりから見たら異常だよ」
「んなのこれ見りゃわかるよ!
え、てか待って、小夜、これ交換日記って…」
「そのメモ帳先生に渡したんだけどさ」
「…これは俺の死体と共に燃やしてください。本当に今羞恥心と自殺願望と絶望で、とにかく希望がありません。殺してください」
「怖ぇよ流石に!面白いから殺さねぇよ!」
「うるさい黙って。取り憑くよ?」
「わ、やめて。お前はガチでやりそう」
「光也さん、俺ならいつでもウェルカムだぜ」
「それすら嫌だ。消えたい」
「待って、みっちゃん消える前に待って!そのあとのページとか開いて見て!」
みっちゃんは少し泣きそうになりながらお酒を煽るように飲んだ。飲んで記憶を消してしまいたいらしい。嫌々ページをめくると、先程までとはうって変わって「おぉっ」と、興味深そうに眺めていた。
「え、これなに?」
「それね、みっちゃんの本のラインナップを見た先輩が、「面白いね」って言って書き残したらしいんだけど、私は見てないんだ。
先生がそれを見て、交換日記みたいねって」
何ページかめくって見ていた。
「もしかして先輩って、あの子?」
と柏原さんがふと聞いてきた。
「はい。あともう一人いるんですけど、その人が凄く海外書物好きらしいです」
「まさしくハンスじゃん」
「いや…あれ?ん?…うん、違う方」
「光也のメモ書きを見て、これを書いたの?」
「はい、そうです。なんて書いてあるか、私も見ていい?」
みっちゃんがメモ帳を見せてきた。見てみると、
ゲーテ ファウスト
ヘルマン・ヘッセ 車輪の下
ヘミングウェイ 老人と海
イプセン・ヘンリック 人形の家
泉鏡花 十六夜
司馬遼太郎 燃えよ剣
が書かれていた。
そして次のページには。
“鳥は卵からむりやり出ようとする。卵は世界である。生まれ出ようとする者は一つの世界を破壊しなければならない。”
と、書かれていた。
「あぁ…なるほど」
なんとなく、すとんと、胸にひとつ落ちた気がした。
「あのね、みっちゃん」
「ん?」
私はなんとなく。
なんとなく、先輩について。
この前の事件についても、みっちゃんに話そうと思った。正直に、素直に。
「この人、変な人なんだ」
自然と話していて。
何故か柏原さんもマリちゃんも、あの事件の時、みっちゃんに話したらヤバそうだね、なんて言っていたのに。全然止めずに聞いてくれて。
話終わったら少し寂しくなった。
「小夜、」
「みっちゃん、怒った?」
みっちゃんはだけど予想に反して優しい眼だったから。
「いや、別に。でもそうだなぁ…」
そう言うとみっちゃんは何かを考え、閃いたのかボールペンを胸ポケットから出して何かをすらすらと書いた。
「はい、これ。交換日記」
「うん…」
そこに書かれた英文の意味を、私には理解することが出来なかった。真里ちゃんや柏原さんも、
「え?どーゆー意味?」
とか、
「筆記体綺麗だね」
とか言っていた。
「こいつに届けばそれでいいや」
なんだろう。
「気になる」
「小夜も読んだら?『老人と海』」
「…来たら読む…」
また、読書の幅が広がってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる