紫陽花

二色燕𠀋

文字の大きさ
26 / 90
For Someone

12

しおりを挟む
 話の内容はわりと衝撃的だった。

 そして私はなんとなくな食い違いを、わかっている気がした。それが浦賀先輩と一喜先輩の微妙な蟠りになっているのだとしたら。

 ただ、そこをもしもお互いがわかってしまったとしたらそれは多分、どちらにも結局はマイナスになってしまうことは明白だった。

 多分岸本先輩は全てを知っているんだ。全てを知っていて板挟みになった結果、『沈黙』を貫いたんだ。
 けどそれが最早、限界まで来ている。真実が見え隠れして浦賀先輩と一喜先輩が薄々それに気付き始めてしまったから。

 なんだかんだで放課後。私はそのままサボり続け、一喜先輩と一緒に帰ることにした。

「一喜先輩は、」
「ん?」
「浦賀先輩と、仲直りと言うか…仲良くなりたいんですか?」
「…戻れるなら戻りたいけど、どうかな。俺、多分、やめた方がいい気がするんだ」
「どうして?」
「俺だけじゃない人のために」

 この人ってなんか。

「一喜先輩は、なんか毎回そんなんですね、きっと。
 カツアゲの濡れ衣着せられたり、今回だって自分より岸本先輩と浦賀先輩を優先させたり」
「うん、言われてみればそうかも」
「面倒見が良いタイプのお兄ちゃんが浦賀先輩で、お人好しタイプが一喜先輩なのかな」

 私がそう言うと一喜先輩は楽しそうに笑った。

「それ、他のやつにも言われた」

 そうなんだ。

「そう言えば謹慎はいつまでなんですか?」
「わからん。鈴木くんの心の傷次第」
「つまり無期限?」
「そゆこと」
「…うわぁ」
「まぁ、なんとかなるっしょ…。図書室勉強の方が実は捗るし」
「それはなんとなくわかる気がするけど」
「でもね。
 黙ってやられてるわけにはいかないからまあ、テストで点を取るなりなんなりして、ちゃんと近々復帰してやるよ」
「頑張ってくださいね」
「小夜ちゃん、」

 ふと一喜先輩はそう呼んで、「あっ」と、俯いた。

「なんでしょう?」
「…歩と隆平を、よろしくね」
「まぁ、はい」

 そしてそれから恥ずかしくなったのか、強引に話は本の話になった。

 だけどそれはそれで楽しかった。

 お店の前で一喜先輩と別れた。背中が曲がり角を曲がるまで見送った。

 ちゃんと仲直りしてくれるといいな。

 浦賀先輩には岸本先輩がいる。一喜先輩は、いまのところ、二人のところに帰れないから。
 あの人はそれから、一人でずっとやって来たんだろうか。

 そう思ったら、悲しさや寂しさを通り越して、なんだかもう少し柔らかい、なんて言っていいかわからない感情が沸いてくるような気がした。

 頑張って、という言葉じゃ少し違う。そんな他人行儀な言葉じゃなく、なんだろう、わからない。

 こんな時、もっと本を読んでいたらなぁ、と思うのに。みっちゃんや浦賀先輩のように、言葉を返せるのに。

 背中を見送りながら、そんなことを考えた。一度振り返って一喜先輩は優しく微笑んで首を傾げたが、私は手を振って「また明日!」と叫んだ。

 お店に入ろうとしたとき、みっちゃんが扉を開けた。

「あ、やっぱり小夜か。声がしたからさ」
「うん」

 お店に入るとき、扉を持ってくれていたみっちゃんにお礼を言って、ついでにメモ帳を渡した。

「お、小夜ちゃん」
「おはようございまーす」
「少し遅かったな。光也さんさっきからそわそわしてたんだよ」
「あ、そうだったの?」
「『あれ?ちょっと遅くない?外見てこようかな…』とかずーっと言ってたよここ10分くらい」

 時計を見てみるとイン時間の5分前だった。

「あれ、嘘!?ヤバい!急ぎます!ごめんなさーい!」

 急いで着替えて打告した。ギリギリセーフだった。

「珍しいね、お友達と女子トーク?」
「まぁ、そんなとこです」
「いーなぁ、おっさんもやりたい」
「いいじゃん。柏原さんは俺と光也さんと男子トークしようよ」
「3割下ネタじゃねぇか。あとギャグ。俺もキラキラした話したいよ!時間を忘れるほどの!」
「じゃぁ俺の恋愛トーク聞く?」
「いやいやそれ光也だから!」
「じゃぁ俺の聞く?」
「お前の恋愛トークは今や過去だから。しかもろくでもないから。じゃぁ俺の聞く?」
「あんたの方がよっぽどろくでもないから」

 なんだかんだでいつでも女子トークみたいなことしてるような気がするんだけど。

「てか早く仕事しよーよ」
「冷めてんなー、わかりましたよ真里さん」

 マリちゃんの一言でみんな仕事を始める。普通こんなときはオーナーが引き締めるものだと思うのだがこれはこれでいいのだろう。
 ちょっと3人の恋愛、気になったけどな。残念。

 そして事件は開店と同時に起こった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...