あじさい 短編集(外伝)

二色燕𠀋

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雨音

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 帰ってからその話を静にすると、楽しそうに聞いてくれた。

「仕事の話をするなんて、珍しいね」

 言われてみればそうかもしれない。なんとなくプライベートと仕事は、はっきりと分けていたし、なんとなく異質で違うものだと思っていた。二人とメアドとか交換しちゃったし。

「ほら」
「よほど気に入ったんだね」
 そうなのかな。めちゃくちゃ面倒臭ぇやつらだなと思ってるんだけどな。

「メアドって今はさ、なんかケータイ向かい合わせるだけで交換出来んのな」
「え、そうなの?」
「うん。俺使い方教わったわ。なんかね…」

 とか言ってさっそく静にやり方を教える。どうせやる機会なんてないけど、自慢したくて仕方がない。

「すごくね?」
「うん…」
「やっぱ若者のインスピレーション必要だね」
「インスピレーションとは少し違う気がするけど」

 ちゃぶ台で紅茶を飲みながら振り返って微笑む静をベットの上から眺めてふと、

「静、引っ越そうか」

と、気が付いたら言っていた。

「え?」
「だってここワンルームだし。狭いだろ?」

 とか言って俺はこの女とあと何年一緒にいるつもりなんだろう。
 まぁ少なくても引っ越したら家賃更新までは一緒にいるのかな。その間に別れたなら、多分もう一度ワンルームに戻るんだろうし。

「でも…私…」
「別に今でも養えてるじゃん」

 なんだろ、こんな逆ヒモみたいな引きこもり、これからずっと養う気なのかな。

「そういえば、前の職場ってなんで辞めたの?」
「え?」
「いや、なんで今あんま外出ないのかなって思って。もしさ、遠慮してんなら、じゃぁ無理がない程度にやったらよくない?ただ…俺はお前がどこが無理なのか分かんないから」

 よくよく考えたら5年くらいこの生活をしてきて、今更ながらこいつの素性をよく知らない。

「…今でいうパワハラみたいなもの?セクハラっていうのかな。18歳で会社に入って2年間。でも、私は仕事も出来なかったし、仕方なかったの」
「例えばどんな?」
「どんなことされたか?」
「そう」
「あまり話したくないのだけど…まぁ写真撮られたり犯されたり」
「それもはやセクハラ超えてるから」
「そうかもね。社長愛人だったかも」
「あぁ、聞かなきゃよかった腹立ってきた」
「ごめんなさい」
「いや…うん、お前は悪くないんだよ」

 その社長を見つけ出して東京湾に沈めてやりたいレベルだ。

「あー、その社長捻り潰したいよー!」

 イライラしていくらか乱暴に静を抱き締めた。

「怖い怖い」
「だってさ、その写真いまでも持っててさ、ズリネタにしてたらマジ腹立つんだけど、刺身にしてやるね」

 とか言ってたら頭をぽんぽんされて。

「なんか嫉妬されるのって怖いけどちょっと気分がいいね」
「お前わかってないな!」

 ガバッと離すと、少し微笑んでいた。なんかその顔がちょっと可愛いくて。

「大丈夫。辞めるときケータイへし折ったから」
「そーゆー問題?てかお前も大概だよそれ」
「だって気持ち悪かったんだもん」

 でもその社長とやらは静のこんな表情は知らないんだな。きっとそんな時、静は死んだ魚の目をしているだろうから。

 感情高ぶって噛み付くようにキスをした。ああ、多分今日は優しくできないな。
 そのまま床に押し倒したら流石に、「床は痛いよ」と言われたので、仕方なくベットにひょいっと抱き上げて連れていき激しいまでに交わった。

 いちいち何かをする度に「きもちい?」と聞いてくるぐらい静は優しい。俺もたまにはそうしてやろうかなと思って静の表情を見て焦らしてみたり、聞いてみたり。
久しぶりに本腰入れて、楽しかった。

 静の身体はとても綺麗だなと、こんなときに思うのだ。だからこそ穢してみたいのかもしれない。

 薬を飲んでぐっすり隣で寝ている静に触れても少し反応したりして。それが堪らなくて。

 だけど、静が寝ていると堪らなく恐怖に襲われる。虚無感が迫る。そして俺は、なんでこんなに嫉妬したり嬉しかったり悲しかったりしてるんだろうかと一人で考えるのだ。この時間が堪らなく嫌で嫌で。起こしてもいいやと思ってまた触って、静が虚ろなまま起きてそれをめちゃくちゃにして。

 多分最低だ。だけど怒らないんだ。俺はこんなにも欲にまみれてるのに、なんでお前は全てを受け入れるのか。
 たまには拒否すればいい。そうすれば俺だってお前なんて棄てるのに。なんで?
 わからない。けどわかりたくない。お前と俺は、一体何なの?

「要さん?」

 ふと頬に伸ばされた手。目に入る手首。その手を取って傷口を舐めると痛そうに顔を歪めながらも気持ち良さそうに喘ぐんだよお前は。そんなお前なんて、

「好きだよ、静」

 大嫌いなはずなんだよ。
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