金魚すくい

二色燕𠀋

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「家が…、燃やされちゃうよ」

突然大ままがそういった。

私の「なんで、」や「どうして?」や「どうしたの」はなんとなく、空気に消えてしまった気がして。ままは静かに

「さえちゃん、ビデオを見ようか。何がいい?」

と言ってビデオの機械をいじり始めて。

「ほたるのはか」
「やだよー。まま今見たくないな。ととろにしよ?」
「いいよー」

ままはビデオをつけて、「で?」と大ままに向き直った。

結局ほたるのはかが流れているけど「まま、」と振り向いたら、大ままもままも真剣そうに話していて。

まぁ、いいかと膝を抱えて私は観ることにするが。
大ままは少し、声が大きいのが特徴だった。

「…孝、またやってるんだよ」
「…うん」
「時計も全部質屋に入れちゃった。あそこはもう潰すしかない。借金もできた。
やってないって孝は言うけど、風呂に何時間も入ってぼーっとしてるし、ライターを、空中にやって、「虫がいる」って」
「…だから逃げてきたの?」
「だって、殺されちまうよ」

どうやら孝は、大ままを困らせているらしい。あったことはないけれど、殺されてしまうらしい。

それは確かに家にいた方が大ままは助かるんだ。

けどさっき、マドンナは大ままの家にいた。
マドンナはここで飼えるのだろうか、とか、金魚を食べちゃったりしないかな、とか、そんなことを私は聞きながら考えた。

3人で住んだら、とても楽しい。嬉しい。
おじちゃんだって、家にくればいいし、みんなで集まれるだろうけど。

なんとなく。

こうさくくんは来ちゃいけないのかも知れないな、と考えた。

こうさくくん、水槽持ってきてくれるって、言ってたんだけど。

「家に帰れないのね」
「そうだよ」
「仕事はどうやっていくの」
「自転車で」
「…車は?」
「孝が」

ままは困ったように大ままを見るが、大ままは構わずに話続ける。

「多分、ヤクザに金借りたんだ、あいつ。パチンコも負けてて、もう家に金がないから通帳と…レストランからすぐにきた」
「…さっき行ったんだけど、ラーメンだけあった」
「あぁ、来たの?孝は」
「居なかったって」
「またどっかに行きやがったのか…」

悪口を言ってるときの大ままはいつもなんだか違う。ままは、諦めたように「まぁ、わかったわ」と言った。 

「落ち着くまで。けどダメなら警察とか、家を探すとか」
「金はないんだよ」
「…まぁ、ご飯は?食べた?
私お風呂に入ってくる」

ままは、そう言ってから「さえちゃん」と。

「お風呂入らない?」

聞いてきた。

「まだ」

だってまだ。
おばさん家だもん、ほたるのはか。

「あとで、大ままと入ろうか」

大ままがそう言って。
そうか、一緒に今日はいるのかな。
こうさくくんは来るのかな?と考えた。

ままは結局ご飯も食べずにお風呂場に向かってしまった。

大ままとふたりになって「ねぇ大まま」と、
色々話したいことがあって。

大ままはさっきまでの怖い顔を捨て、「どうしたのさえちゃん」と聞いてきた。

なんとなく、さっきは側にいちゃいけないような気がしたけど、私は大ままの膝に乗って、「ラーメン食べたよ、ごちそうさま」と言う。

「え、食べちゃった?」
「うん。食べたよ」
「ありゃ…。
あれ、マドンナの餌だったんだよ」
「えっ!?」
「なんか…孝があげてたよ」
「うそっ!」
「まぁ…」

そんな。
そんな犬だったのあの子、凄い。人間と同じもの、食べちゃうの?

「最近ドックフード飽きちゃったみたい」
「えぇぇ!?食べた感じなかったよ。新しかったよ!」
「うーん…まぁ、ほら。
犬って玉ねぎ食べられないから」
「そうなの?」

納得を忘れてそれに興味が沸いた。

「さえちゃんは食べても…多分大丈夫だからマドンナが食べたことは忘れよう」
「えっ、」
「犬は、玉ねぎを食べると死んじゃうんだよ」
「マドンナ生きてたよ!」
「じゃぁ、食べてない…かも?」
「そうなんだ…」

私はその話で、ふと、
あの死んでいた猫を思い出した。

「ねぇ、あのね大まま。
大ままの家の前で、猫が、死んじゃってた。
ままはね、見ちゃいけないよって。優しい人にはお化けになってついてっちゃうよって」
「あぁ、そうだね。可哀想って思っちゃいけないんだ。
猫なんて大まま嫌い。その辺でよく死んでるよ」
「えっ」

なんか。

「可哀想って、思っちゃったけど、さえちゃん大丈夫かな」
「取り憑かれるよ。とくに猫は。
あいつらはなんでも人のものを盗んでいくんだ。猫ババだよ」

なんか。
嫌だなぁ。
 私は、怖かったし、可哀想だと、思ったのに。ただ、それを話したかったんだけど。話してはいけないのかも、というか、こう思っちゃいけないのかもしれない。

 たくさん考えてしまった。
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