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2.下半身事情は己のみならず
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リュイスが夜伽のことに気が重くなっている間、同じくレオンも深いため息を吐いていた。
「レオン陛下、手が止まっておられますが、何か気になることでも?」
「……相変わらず性格の悪い奴だな、お前は」
レオンは書類へサインをする手を動かしながら、視界の片隅に映るトラの獣人を非難する。トラの獣人――エルドレッド――は、タヴィランの宰相を務め、レオンとは幼馴染の関係性だ。
「夜伽の日というだけだろう? 何をそんなに思い悩む必要があるんだ」
宰相としてではなく、幼馴染として口調を崩したエルドレッドに、レオンは鼻に皺を寄せながら視線を窓の外、リュイスのいる方向へやった。
「相手が、人間の男でなければな。フン、アルドフの王も血を分けた弟を人質に差し出すとは、余程諸外国の顔色を伺っているのだな。滑稽なことだ」
「そういう解釈もできるが、こちらがアルドフ側に一本取られたのは事実だ。タヴィランは数名の技術者に対し、アルドフは第七王子とは言え、王族を差し出した。諸外国からの印象は、少なくともあちらの方が良いだろうな」
何度も同じような話をしている為、エルドレッドは半ば諦めた様子で言う。
「わかっている。第七王子の方も、特に目立った動きはないようだしな。それに傍に付けた従者から、タヴィランの言語の習得をしていると聞いている」
「へぇ? 引きこもりの第七王子と、アルドフの民たちから揶揄されていたが、案外無能の類ではないのかもな。得体がしれないのは変わらないが」
タヴィランに到着して直ぐにリュイスと顔を合わせた2人は、あからさまに興味のない反応をしてみせたリュイスが印象に強い。
「……一応、王子の噂の徴収は怠るな。こちらが不利になる材料が出てきたのなら、早々に議題にあげねばならん」
手元の束となった書類の辺をトントンと揃えながら、レオンは面倒くさそうに言い放った。
そんな王の様子に、エルドレッドは胡散臭い笑みを浮かべる。笑みを隠しもせず、茶化す声色で話題をわざとらしく変えた。
「ところで……人間の肌は滑らかで触り心地が良いらしいぞ?」
「あ?」
「いや、なに。陛下が憂鬱そうでございましたので」
畏まった口調で臣下の礼をすると、エルドレッドはレオンの揃えた書類を手に執務室から出ていった。その様子を目で追い、レオンはやり返しにエルドレッドの仕事を一つ増やす事に決めたのだった。
日が落ちて真っ赤な夕日が空を支配する頃、リュイスは風呂から上がり、体中を香油でマッサージされていた。
食事はすでに済ませ、美味しく食べてくださいと言わんばかりの仕込みをされている。まるで料理の下ごしらえの様だ、と苦笑いを浮かべる。それでも香油の香りは良く、甘やかだがくどくない香りがリュイスの部屋に充満していた。
リュイスは初めての経験に改めて緊張を認識する。
「(この身体を見て、陛下はどんな反応するんだろうな。ラビとキャスの驚いた顔は、中々に愉快だったな)」
うつ伏せになり、ふくらはぎをマッサージされながら、リュイスは風呂に入れられた時を思い出していた。
リュイスの身体は、普通とは違っている。身体は男のものでありながら、下半身――生殖器――は女のものなのだ。なぜかは分からない。ただ、生まれついた時からこの身体だっただけだ。
そして、男でありながらレオンへと嫁いで来た理由でもある。
しかし自分に興味がないリュイスにとって、この事実がどうでもよい事に変わりはない。
けれど、従者の反応を見る限り、獣人の間でもリュイスのような者は珍しいとされるようだ。例えレオンに気持ちが悪いと言われようとも、リュイスは笑ってその言葉に共感するだろう。
リュイス自身が、不気味だと思っているからだ。
リュイスは、夜伽やその行為についての知識は何方ともある。自身が抱かれる側なことに抵抗感がないのは、リュイスの身体が特殊だからだろう。そして、知識があるからだ。
「( 気持ち悪がられる、っていうか……引かれる気しかしない 。まぁ、一発くらい度肝をぬいてやるくらいじゃなきゃ、嫁いできた甲斐がねェしな)」
なるようになると、この期に及んで楽観視しているリュイスだ。
悪巧み、もとい考え事をしていたら準備が整ったようで、リュイスは簡単に着脱で出来る薄い服を着せられる。薄い服の生地が、リュイスの肌を柔らかく滲ませた。
夕日が支配していた空も真っ暗になり、今度は消えそうな欠けた月が空を占領している。
「リュイス様、陛下の元へ参りましょう」
「んー」
窓の外を見ていたリュイスへ、侍従のキャスが声を掛ける。そのままキャスの後ろを歩きながら、リュイスは長い廊下を優雅に歩いて、レオンの寝室へと向かった。
途中すれ違う獣人のメイドや召使に目配せしつつ、王族らしく堂々と歩を進めるリュイス。
少しして、レオンの寝室へ着いたリュイスは、キャスがノックした扉の前に立ち止まって入室の許可を待つ。
「入れ」
冷たく言い放たれた言葉に、キャスは頭を下げてリュイスの入室を促した。リュイスは重厚な扉を開け、レオンの寝室を守る騎士に軽く睨まれながら入室する。
室内は落ち着いた色合いの、上品な調度品が多い。王族らしく、リュイスの姿勢が自然に伸びる。
するとソファに座り本を読んでいたレオンが、リュイスの方を投げやりに見てきた。その惰性的な視線に、どこか居心地が悪く感じる。
レオンは短く息を吐き、リュイスから視線を外して本を閉じる。すると、気配を消したリュイスの腕を掴み、強引にベッドへ放り投げた。
「どぅわッ!! ぃ、てて……」
色気など感じさせない声で痛がるリュイスに、レオンが獅子の顔を近づけて唸る。
この理不尽な状況にリュイスも顔をレオンへ向けて、呑な色を灯した瞳を見つめ返す。目を離したら負ける、そんな事を考えながらリュイスは薄く笑った。
「何故笑う?」
「そちらこそ、なぜ唸るのですか?」
「……質問に質問で返すなと言われなかったか?」
「あなたこそ」
絶対に視線を外さぬとばかりに、レオンを見つめる。しかし、キリがないと判断したリュイスが、レオンの質問に答えることにした。
「生憎ですが、俺は祖国でも落ちこぼれの王子ですから。優秀な兄弟を持つと、自分の責任が次第に消えていくんですよ。俺の元にある責任なんてものは、俺以外でも務まるものです」
興味なさげなリュイスの言葉を鼻で笑い、レオンはリュイスの両腕を片手で拘束した。その流れるような行動に、リュイスは軽く身を強張らせる。
獣人の力の元に、人間など簡単に抑え込む事が出来るのだ。
リュイスの意外にも殊勝な反応に、レオンは喉を鳴らし気分が良くなる。
「俺は男を抱く趣味はない。今回は貴族のジジイどもを黙らせる為の、既成事実を作るだけだ。今後は無い、いいな?」
レオンはそう言うと、リュイスの服をもう一方の手で前を寛げた。その手は迷いも気遣いもなく、ただこの無意味な行為を早く終わらせる為に動いている。
レオンはリュイスの首元に顔を埋め、ザラっとした質感の舌を当てる。ネコ科の舌の質感を持ったレオンの愛撫に、リュイスの肌が泡立つ。生温い感触は、これから行われる行為に、改めて現実味を持たせた。
「ん……ふ、ぅ」
対して、リュイスはこの期に及んで、性行為をしないという考えが、未だに自分の中デ存在していた事に驚いていた。どこか他人事だったのだと、今更ながら気が付く。
レオンが寛げたリュイスの胸の突起を舐る。赤く色付いたそこを、快感だけ与えるように刺激した。暫くそこを刺激していたレオンの手が、リュイスの下半身へ伸ばされた。服越しに摩ると、レオンは鼻元に皺を寄せた。
あれだけ胸を刺激したのにも関わらず、男であれば必ず熱を持つであろう場所が何の反応もしていないのだ。
レオンは訝しみながら、リュイスの服の下に手を忍ばせる。そして動きを止める。意味が分からないとばかりに、顔を顰めてしまった。
その珍しい反応に、リュイスは口を緩め笑いを零す。
「ふ、はは」
「おい……これはどういう事だ?」
レオンの反応に、本格的にツボに入ってしまうリュイス。それを侮辱的に受け止めたレオンが牙をむく。
「貴様……っ! 騙していたのか!?」
「何をです? 本当は女なのに、男として振舞っていたのかって?」
「っ……!」
リュイスの言葉にレオンが詰まる。
レオンの恐ろしい表情に、リュイスの顔が僅かに歪んだ。美しい顔が歪むのは、捕食者にとって加虐心を煽られる行為と言うが、この場合は当てはまらないだろう。
「騙していませんよ。俺は生まれつき男で、生殖器だけは女性のもの。今見た通り、胸だってないでしょう? 身体付きだって男そのものです」
処理の追い付かないレオンへ、リュイスは質問を浴びせた。そのリュイスの態度の変わりように、レオンは内心で狼狽えた。柔和な雰囲気が突然にして鋭くなったからだ。
それでもレオンは、酷く冷静な目をリュイスへと向ける。
「……まぁいい。女だろうが男だろうが、結局やることは変わらん」
「ええ、そうです。それでは陛下、横になってください」
リュイスはレオンを押し倒し、その下半身へと手を伸ばした。まだ反応すらしていないレオン自身を取り出し、事を早急に終わらせるべく遠慮なく刺激する。
レオンはリュイスの好きなようにさせ、現実逃避をするように目を閉じた。
目を閉じ快感を追うレオンの顔を見ながら、リュイスは手を動かすことに集中する。先走りと潤滑油で滑りの良くなったソコを刺激していると、レオンの陰茎がザラリとリュイスの手のひらに引っかかった。
何事かとリュイスが陰茎を見れば、思わず手が止まる。
「……は、なにこの凶器……?」
手元を直視し、固まるリュイス。
リュイスが、失礼な言動を隠しもせずに驚くのも無理はない。
獣人であるレオンの生殖器の表面には、獅子と同じく陰茎棘という棘が無数にあった。
勃起時のレオンの陰茎は、人間のリュイスにとって凶器にしか見えない。
「獅子の生殖器を見るのは初めてか?」
ニヤリと馬鹿にしたように笑うレオンに、リュイスはわなわなと震える。今なら先程の、レオンの気持ちが分かる気がした。
「は……いや、え? は???」
元より敵国同士であり、獣人と人間が同じ褥を共にすることすら稀であるだろうと、言い訳と正論の狭間でリュイスは混乱する。
自分の身体についてレオンの反応を楽しむつもりが、逆にレオンの下半身事情で自分のペースを崩されるとは、夢にも思っていなかった。
「もう、しらねッ……!」
やけを起こしたリュイスは、勢いのままにレオンの陰茎を口に含んだ。
「っ……おい、……ッ」
リュイスは、チクチクとザラザラの中間という口の中の、未知の感覚に眉をしかめる。
しかし、丁寧に棘の一本一本全てを舐るように舌を動かし、固くなったソレを高めていく。始めは特に気にならなかった触感が、長く口淫をしていればヒリヒリと舌や上顎が痛んでくる。
リュイスはレオンの陰茎を頬に当て、頬と歯茎で刺激を与える方法へ変更した。
「……っ……」
初めこそ抵抗していたレオンだが、リュイスの奉仕に対して頭を押す手を添えるだけになっていた。獅子から漏れ出る吐息にリュイスは、自身の性器が濡れる感覚を感じとる。
「ん、ふ、は、ぅ……」
陰茎の先から流れてくる先走りを飲み干しながら、リュイスはレオンを高みへ追い詰めていく。
「ん、はなせ……ッ、」
添えていただけの手に力を入れ、リュイスの顔を引き剥がそうとする。
しかし、抗議の声を上げたリュイスが離れない。レオンは諦めて拙い奉仕の快感に身を任せ、一瞬身を震わせながらリュイスの口へ精を放った。
「ん、……うぇ、にがい」
「飲んだのか?」
「ええ、親交の証に飲んでみました?」
「ハァ……馬鹿なのか?」
心底呆れたという表情を浮かべたレオンが、ベッド傍にある机へ体を向けた。机の上の水差しからコップへ水を注ぎ、リュイスへ差し出す。リュイスは水を受けとり、大人しく飲み干した。
水を飲んで一息ついたリュイスを、今度はレオンが押し倒してくる。
「は……?」
「なんだ?」
「いえ。イくとこイったし、出すもの出したので、今日はもう良いと思いまして……」
馬鹿正直に答えたリュイスに、レオンは頭を抱えた。そんなレオンを気にも留めず、ベッドで横になるリュイス。
「貴様、まさか本当に寝る気か?」
「寝ますよ、そりゃ。というか、陛下は普段からあまり睡眠をとられていないのでは?」
リュイスの言葉の意図を受け取り損ねて、レオンは黙り込む。リュイスは、横になったままレオンに言葉をつづける。
「俺の相手をするよりも、この時間を睡眠にあてた方が合理的だと思いますよ。それにスッキリ出して、とっとと寝た方が、寝つきが良いでしょう? ……知りませんけど」
薄手の布団を肩に掛けながら、レオンの顔色を伺う。レオンは深くため息をつき、諦めてベッドに横たわった。
リュイスの言う通りにするのは癪だが、相手にその気がないのに襲うわけにもいかない。
釈然としないまま、レオンはリュイスに背を向けて、目を閉じ眠りについた。
「レオン陛下、手が止まっておられますが、何か気になることでも?」
「……相変わらず性格の悪い奴だな、お前は」
レオンは書類へサインをする手を動かしながら、視界の片隅に映るトラの獣人を非難する。トラの獣人――エルドレッド――は、タヴィランの宰相を務め、レオンとは幼馴染の関係性だ。
「夜伽の日というだけだろう? 何をそんなに思い悩む必要があるんだ」
宰相としてではなく、幼馴染として口調を崩したエルドレッドに、レオンは鼻に皺を寄せながら視線を窓の外、リュイスのいる方向へやった。
「相手が、人間の男でなければな。フン、アルドフの王も血を分けた弟を人質に差し出すとは、余程諸外国の顔色を伺っているのだな。滑稽なことだ」
「そういう解釈もできるが、こちらがアルドフ側に一本取られたのは事実だ。タヴィランは数名の技術者に対し、アルドフは第七王子とは言え、王族を差し出した。諸外国からの印象は、少なくともあちらの方が良いだろうな」
何度も同じような話をしている為、エルドレッドは半ば諦めた様子で言う。
「わかっている。第七王子の方も、特に目立った動きはないようだしな。それに傍に付けた従者から、タヴィランの言語の習得をしていると聞いている」
「へぇ? 引きこもりの第七王子と、アルドフの民たちから揶揄されていたが、案外無能の類ではないのかもな。得体がしれないのは変わらないが」
タヴィランに到着して直ぐにリュイスと顔を合わせた2人は、あからさまに興味のない反応をしてみせたリュイスが印象に強い。
「……一応、王子の噂の徴収は怠るな。こちらが不利になる材料が出てきたのなら、早々に議題にあげねばならん」
手元の束となった書類の辺をトントンと揃えながら、レオンは面倒くさそうに言い放った。
そんな王の様子に、エルドレッドは胡散臭い笑みを浮かべる。笑みを隠しもせず、茶化す声色で話題をわざとらしく変えた。
「ところで……人間の肌は滑らかで触り心地が良いらしいぞ?」
「あ?」
「いや、なに。陛下が憂鬱そうでございましたので」
畏まった口調で臣下の礼をすると、エルドレッドはレオンの揃えた書類を手に執務室から出ていった。その様子を目で追い、レオンはやり返しにエルドレッドの仕事を一つ増やす事に決めたのだった。
日が落ちて真っ赤な夕日が空を支配する頃、リュイスは風呂から上がり、体中を香油でマッサージされていた。
食事はすでに済ませ、美味しく食べてくださいと言わんばかりの仕込みをされている。まるで料理の下ごしらえの様だ、と苦笑いを浮かべる。それでも香油の香りは良く、甘やかだがくどくない香りがリュイスの部屋に充満していた。
リュイスは初めての経験に改めて緊張を認識する。
「(この身体を見て、陛下はどんな反応するんだろうな。ラビとキャスの驚いた顔は、中々に愉快だったな)」
うつ伏せになり、ふくらはぎをマッサージされながら、リュイスは風呂に入れられた時を思い出していた。
リュイスの身体は、普通とは違っている。身体は男のものでありながら、下半身――生殖器――は女のものなのだ。なぜかは分からない。ただ、生まれついた時からこの身体だっただけだ。
そして、男でありながらレオンへと嫁いで来た理由でもある。
しかし自分に興味がないリュイスにとって、この事実がどうでもよい事に変わりはない。
けれど、従者の反応を見る限り、獣人の間でもリュイスのような者は珍しいとされるようだ。例えレオンに気持ちが悪いと言われようとも、リュイスは笑ってその言葉に共感するだろう。
リュイス自身が、不気味だと思っているからだ。
リュイスは、夜伽やその行為についての知識は何方ともある。自身が抱かれる側なことに抵抗感がないのは、リュイスの身体が特殊だからだろう。そして、知識があるからだ。
「( 気持ち悪がられる、っていうか……引かれる気しかしない 。まぁ、一発くらい度肝をぬいてやるくらいじゃなきゃ、嫁いできた甲斐がねェしな)」
なるようになると、この期に及んで楽観視しているリュイスだ。
悪巧み、もとい考え事をしていたら準備が整ったようで、リュイスは簡単に着脱で出来る薄い服を着せられる。薄い服の生地が、リュイスの肌を柔らかく滲ませた。
夕日が支配していた空も真っ暗になり、今度は消えそうな欠けた月が空を占領している。
「リュイス様、陛下の元へ参りましょう」
「んー」
窓の外を見ていたリュイスへ、侍従のキャスが声を掛ける。そのままキャスの後ろを歩きながら、リュイスは長い廊下を優雅に歩いて、レオンの寝室へと向かった。
途中すれ違う獣人のメイドや召使に目配せしつつ、王族らしく堂々と歩を進めるリュイス。
少しして、レオンの寝室へ着いたリュイスは、キャスがノックした扉の前に立ち止まって入室の許可を待つ。
「入れ」
冷たく言い放たれた言葉に、キャスは頭を下げてリュイスの入室を促した。リュイスは重厚な扉を開け、レオンの寝室を守る騎士に軽く睨まれながら入室する。
室内は落ち着いた色合いの、上品な調度品が多い。王族らしく、リュイスの姿勢が自然に伸びる。
するとソファに座り本を読んでいたレオンが、リュイスの方を投げやりに見てきた。その惰性的な視線に、どこか居心地が悪く感じる。
レオンは短く息を吐き、リュイスから視線を外して本を閉じる。すると、気配を消したリュイスの腕を掴み、強引にベッドへ放り投げた。
「どぅわッ!! ぃ、てて……」
色気など感じさせない声で痛がるリュイスに、レオンが獅子の顔を近づけて唸る。
この理不尽な状況にリュイスも顔をレオンへ向けて、呑な色を灯した瞳を見つめ返す。目を離したら負ける、そんな事を考えながらリュイスは薄く笑った。
「何故笑う?」
「そちらこそ、なぜ唸るのですか?」
「……質問に質問で返すなと言われなかったか?」
「あなたこそ」
絶対に視線を外さぬとばかりに、レオンを見つめる。しかし、キリがないと判断したリュイスが、レオンの質問に答えることにした。
「生憎ですが、俺は祖国でも落ちこぼれの王子ですから。優秀な兄弟を持つと、自分の責任が次第に消えていくんですよ。俺の元にある責任なんてものは、俺以外でも務まるものです」
興味なさげなリュイスの言葉を鼻で笑い、レオンはリュイスの両腕を片手で拘束した。その流れるような行動に、リュイスは軽く身を強張らせる。
獣人の力の元に、人間など簡単に抑え込む事が出来るのだ。
リュイスの意外にも殊勝な反応に、レオンは喉を鳴らし気分が良くなる。
「俺は男を抱く趣味はない。今回は貴族のジジイどもを黙らせる為の、既成事実を作るだけだ。今後は無い、いいな?」
レオンはそう言うと、リュイスの服をもう一方の手で前を寛げた。その手は迷いも気遣いもなく、ただこの無意味な行為を早く終わらせる為に動いている。
レオンはリュイスの首元に顔を埋め、ザラっとした質感の舌を当てる。ネコ科の舌の質感を持ったレオンの愛撫に、リュイスの肌が泡立つ。生温い感触は、これから行われる行為に、改めて現実味を持たせた。
「ん……ふ、ぅ」
対して、リュイスはこの期に及んで、性行為をしないという考えが、未だに自分の中デ存在していた事に驚いていた。どこか他人事だったのだと、今更ながら気が付く。
レオンが寛げたリュイスの胸の突起を舐る。赤く色付いたそこを、快感だけ与えるように刺激した。暫くそこを刺激していたレオンの手が、リュイスの下半身へ伸ばされた。服越しに摩ると、レオンは鼻元に皺を寄せた。
あれだけ胸を刺激したのにも関わらず、男であれば必ず熱を持つであろう場所が何の反応もしていないのだ。
レオンは訝しみながら、リュイスの服の下に手を忍ばせる。そして動きを止める。意味が分からないとばかりに、顔を顰めてしまった。
その珍しい反応に、リュイスは口を緩め笑いを零す。
「ふ、はは」
「おい……これはどういう事だ?」
レオンの反応に、本格的にツボに入ってしまうリュイス。それを侮辱的に受け止めたレオンが牙をむく。
「貴様……っ! 騙していたのか!?」
「何をです? 本当は女なのに、男として振舞っていたのかって?」
「っ……!」
リュイスの言葉にレオンが詰まる。
レオンの恐ろしい表情に、リュイスの顔が僅かに歪んだ。美しい顔が歪むのは、捕食者にとって加虐心を煽られる行為と言うが、この場合は当てはまらないだろう。
「騙していませんよ。俺は生まれつき男で、生殖器だけは女性のもの。今見た通り、胸だってないでしょう? 身体付きだって男そのものです」
処理の追い付かないレオンへ、リュイスは質問を浴びせた。そのリュイスの態度の変わりように、レオンは内心で狼狽えた。柔和な雰囲気が突然にして鋭くなったからだ。
それでもレオンは、酷く冷静な目をリュイスへと向ける。
「……まぁいい。女だろうが男だろうが、結局やることは変わらん」
「ええ、そうです。それでは陛下、横になってください」
リュイスはレオンを押し倒し、その下半身へと手を伸ばした。まだ反応すらしていないレオン自身を取り出し、事を早急に終わらせるべく遠慮なく刺激する。
レオンはリュイスの好きなようにさせ、現実逃避をするように目を閉じた。
目を閉じ快感を追うレオンの顔を見ながら、リュイスは手を動かすことに集中する。先走りと潤滑油で滑りの良くなったソコを刺激していると、レオンの陰茎がザラリとリュイスの手のひらに引っかかった。
何事かとリュイスが陰茎を見れば、思わず手が止まる。
「……は、なにこの凶器……?」
手元を直視し、固まるリュイス。
リュイスが、失礼な言動を隠しもせずに驚くのも無理はない。
獣人であるレオンの生殖器の表面には、獅子と同じく陰茎棘という棘が無数にあった。
勃起時のレオンの陰茎は、人間のリュイスにとって凶器にしか見えない。
「獅子の生殖器を見るのは初めてか?」
ニヤリと馬鹿にしたように笑うレオンに、リュイスはわなわなと震える。今なら先程の、レオンの気持ちが分かる気がした。
「は……いや、え? は???」
元より敵国同士であり、獣人と人間が同じ褥を共にすることすら稀であるだろうと、言い訳と正論の狭間でリュイスは混乱する。
自分の身体についてレオンの反応を楽しむつもりが、逆にレオンの下半身事情で自分のペースを崩されるとは、夢にも思っていなかった。
「もう、しらねッ……!」
やけを起こしたリュイスは、勢いのままにレオンの陰茎を口に含んだ。
「っ……おい、……ッ」
リュイスは、チクチクとザラザラの中間という口の中の、未知の感覚に眉をしかめる。
しかし、丁寧に棘の一本一本全てを舐るように舌を動かし、固くなったソレを高めていく。始めは特に気にならなかった触感が、長く口淫をしていればヒリヒリと舌や上顎が痛んでくる。
リュイスはレオンの陰茎を頬に当て、頬と歯茎で刺激を与える方法へ変更した。
「……っ……」
初めこそ抵抗していたレオンだが、リュイスの奉仕に対して頭を押す手を添えるだけになっていた。獅子から漏れ出る吐息にリュイスは、自身の性器が濡れる感覚を感じとる。
「ん、ふ、は、ぅ……」
陰茎の先から流れてくる先走りを飲み干しながら、リュイスはレオンを高みへ追い詰めていく。
「ん、はなせ……ッ、」
添えていただけの手に力を入れ、リュイスの顔を引き剥がそうとする。
しかし、抗議の声を上げたリュイスが離れない。レオンは諦めて拙い奉仕の快感に身を任せ、一瞬身を震わせながらリュイスの口へ精を放った。
「ん、……うぇ、にがい」
「飲んだのか?」
「ええ、親交の証に飲んでみました?」
「ハァ……馬鹿なのか?」
心底呆れたという表情を浮かべたレオンが、ベッド傍にある机へ体を向けた。机の上の水差しからコップへ水を注ぎ、リュイスへ差し出す。リュイスは水を受けとり、大人しく飲み干した。
水を飲んで一息ついたリュイスを、今度はレオンが押し倒してくる。
「は……?」
「なんだ?」
「いえ。イくとこイったし、出すもの出したので、今日はもう良いと思いまして……」
馬鹿正直に答えたリュイスに、レオンは頭を抱えた。そんなレオンを気にも留めず、ベッドで横になるリュイス。
「貴様、まさか本当に寝る気か?」
「寝ますよ、そりゃ。というか、陛下は普段からあまり睡眠をとられていないのでは?」
リュイスの言葉の意図を受け取り損ねて、レオンは黙り込む。リュイスは、横になったままレオンに言葉をつづける。
「俺の相手をするよりも、この時間を睡眠にあてた方が合理的だと思いますよ。それにスッキリ出して、とっとと寝た方が、寝つきが良いでしょう? ……知りませんけど」
薄手の布団を肩に掛けながら、レオンの顔色を伺う。レオンは深くため息をつき、諦めてベッドに横たわった。
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