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4.自己紹介と新たな価値観
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仕事を終え、共に夕食をとるレオンとリュイス。朝食を共に摂ることはあっても、その他の食事を共に摂ることは無かった。これはちょっとした変化と、前向きに捉えるべきか否か。
相変わらず無言で食事をするレオンに、リュイスはチラリとその顔を伺う。
雄々しい獅子の顔に、体躯の良い身体。金色の毛皮が蝋燭の光を浴びて美しく輝いている。
そんな獣人の王に相応しい相貌のレオンから、リュイスはナイフとフォークを持つ自分の腕へと視線を落とした。
武術の稽古を最後にしたのはいつだったか、男にしては白く細い腕に自嘲する。
いっその事、女のような容姿だったらよかったのだろうか。それならば、祖国の道具としてある程度は利用価値もあったはずだ。
リュイスの体躯は細いと言え、骨格は腐っても男である。
腕も女というには筋が通っており、脂肪が少ない故にうっすらと筋肉が浮いていた。
昨夜、レオンに押し倒された際に、よく腕が折れなかったものだ。
リュイスは目の前の、レオンの逞しい腕を羨むように思った。
食事の後。
入浴を済ませたレオンは、自寝室のソファに腰かけた。湯上りでほんのりと湿った鬣のせいで、普段より身体が小さく見える。
昼間のうちにキリの良い所まで進めていた書類を流し見ながら、時よりその書類へ文字を書き込んでいた。
暫くの間、無心に仕事をしていたレオンだったが、寝室の扉を叩く音にハッと顔を上げた。
「なんだ」
「陛下、リュイス様がお見えです」
リュイスの従者に付けたキャスが、レオンの問いかけへ扉越しに答えた。レオンは訝しむが、断る理由が浮かばずリュイスの入室を許可する。
「何の用だ」
「お仕事ですか?」
「ハァ……そうだが?」
鬱陶しいという顔を隠しもせず、レオンがリュイスを睨みつけた。
「そうですか。ならばとっとと終わらせましょう! こちらの分は俺がやりますので、陛下はそちらをおねがいします」
しかし、いくら睨み付けようが、レオンに大して興味がないリュイスには効果がなかった。
扉付近からレオンの元へ一気に距離を詰めると、束になっていた書類を攫い取った。
その動きは、レオンが見てきた中で一番素早い動きだった。
昼間の様に書類の束を手早く仕分けると、レオンとは向かい側のソファへ腰かけた。
王妃の立場でも対処可能な書面のみを抜き取ったリュイスは、素早く確認して終わらせていく。
「なぜここに来た」
「追加で夜に仕事をするであろう陛下を、こうして手伝いに来たんですよ」
リュイスはレオンの仕事を半ば奪うようにして、手にした書類をヒラヒラとさせた。涼しい顔をした彼の瞳はレオンを捉えることなく、手元の質の良い紙に向けられていた。
それから一時間ほど経過したところで、二人は仕事を終えた。レオンは疑わしいという視線を隠しもせず、警戒していた。
剣呑さは僅かに薄れたが、代わりに猜疑心染まったに視線を受け、リュイスが苦笑いを浮かべる。
「どうせなら、自己紹介でもしましょうか?」
お互いを知る事から始めませんか、と茶化した声色で言うリュイス。そんな彼を、レオンは鼻で笑い飛ばした。
そして興味がないと言いたげに、確認の終わった書類を再びパラパラと眺め始める。
レオンを目で追いつつ、否定も賛成もされなかったリュイスは自己紹介を始めた。
「俺はアルドフ国の第七王子、リュイス=フォン=アルドフ。最近はタヴィランへ妃として努めているので、リュイス=フォン=タヴィランですけどね。好きな食べ物は……んー、リンゴかな? 苦手なものは、自己分析と自他境界の線引きですね」
リュイスは『ほかに何が知りたいですか?』と、聞いているのか聞いていないのかハッキリしないレオンに問いかける。
問われたなら無視する訳にもいかず、レオンは書類を机へ置きリュイスに視線を向けた。
「あ、俺が獣人をどう思っているかとか、そういうの気になりますか?」
薄い笑みを浮かべたリュイスに、レオンは詰め寄るように言った。
「軽蔑しているのだろう。人間は獣人を見るなり、卑しいと、穢らわしいと、侮蔑の言葉を投げかけてくる」
レオンの鋭い視線と言葉に、リュイスは楽観的にその言葉に至った理由を察する。
「他の人間のことは興味がないので知りませんが、俺は獣人とか人間とか、正直どうでもいいです。だって関係ないですから」
「関係ないだと? 貴様は今までの戦争で、どれ程の血が流れたと思っているのだ?!」
レオンはリュイスへと牙をむいた。
人間にはない鋭い爪を隠すように握り締め、鋭利な牙は今にもリュイスを噛み砕きそうな程、大きく開かれている。
レオンの怒りの表情に、しかしリュイスは冷めた目でレオンを見ていた。
「人間と獣人どちらが優れているかを決める。それが戦争の大義名分でしたか……人間も獣人も他の上位種族から見れば、大してどちらも優れていない。その証拠が、この長きに続いた戦争だと思うのですが。俺は……間接的には関係があるかもしれません。だけど、直接的に関係がないなら割り切るしかない。先祖が侵した過ちを、全て背負うことなど出来ないので。先祖の功績も過ちも、先祖のものです。俺や陛下のものではありません」
自分至上主義であり、だがその自分にすら興味の薄いリュイスの考え。その歪んでいて、どこまでも傲慢なる考えに、レオンは一気にリュイスへ興味が移った。
「(歪だな。以前、兄弟が優秀だと持つべき責任が減ると言っていたが、それがこの男が根本に抱えている意識なのか?)」
兄弟のいないレオンは、リュイスの本質を考え込む。
「ま、獣人と人間に関してはそんな感じです。別に、獣人だから下に見る。そんな野蛮なことは致しません」
声色を明るくし、リュイスはニコリと笑ってみせた。その表情を見ながら、レオンは気になる事を尋ねることにした。
「お前の……」
「……?」
「お前の身体はなぜ……」
「ああ」
レオンの言いたい事を察し、リュイスはその答えを教えようとして思いつく。
「答えてもいいのですが……代わりにいま俺が陛下にお教えした数の分、陛下の事を教えてください」
自分に興味を示したレオンが珍しく、リュイスは調子に乗って聞いてみた。リュイスの言葉を受け、少し考えたレオンはぽつぽつと自己紹介を始めた。
「名はレオン=ライドル=タヴィラン。タヴィラン国の現国王だ。好きなものは……」
「?」
言葉を詰まらせたレオンに、リュイスは首をかしげる。その仕草に一つ咳ばらいをし、レオンはおずおずと言葉を続けた。
「好きなものは……か、可愛らしいものが、好きだ……」
「へ?」
素っ頓狂な顔をしぽかんとするリュイスを、レオンが居心地が悪そうに睨む。その恐ろしげな外見に反し、可愛いものが好きという新事実に、リュイスの頭の処理が追い付かない。
そして真面目に自己紹介を始めた目の前の王に、思わず笑ってしまう。
「な、なんだ?」
「いや、そう、ですか。いいですね、可愛いもの……俺も好きですよ!」
ハムスターとか可愛いですよね、と呑気に返すリュイスにレオンがもう一度咳ばらいをした。
そして僅かに厳しい顔をし、空気を換える。
「私が人間をどう思っているか、だったか」
リュイスの答えた『獣人をどう思っているか』の反対を、レオンは答え始めた。リュイスは抜けていた気を引きしめ、話を聞く体制に入る。
「人間は嫌いだ。我ら獣人を人間のなりそこないと揶揄する。しかし、我ら獣人に比べ、人間は身体能力も本能からくる直感力も獣人に勝ることはない。それでも人間は我らを不完全なものと言う」
苦し気な表情にリュイスは、何も言えない。
「だが、お前の考えを聞いて、今の考えが形を変えた。自分は自分であり、他人は他人だとな」
リュイスの瞳を見据える琥珀色の瞳に、リュイスは見惚れる。ずっと鋭かったレオンの視線が、初めて柔らかくなった。その変化に気が付き、レオンが遠回しに傍にいても良いと認めてくれたのだと感じた。
「今度はお前の番だ」
お前の言った条件は満たした、そうレオンが言う。リュイスは軽く頷くと、口を開いた。
「俺の身体は生まれつきで、昔から腫れもの扱いされてました。当時の王、父は俺が生まれた際に、王女が生まれたと思ったそうですよ。でも、成長していく俺は男だった」
自重の笑みを浮かべ、リュイスは言葉を続ける。
「人と違うせいで、使用人たちは俺に中々近寄らないですし、兄弟たちも無能の王子もどきって馬鹿にしてましたね~ けど、この国の使用人との距離感は心地が良い。必要以上に気遣いをしない、距離をとらない。適切な対応が、ありがたく感じますよ」
どこか他人事のように話すリュイスに、レオンは僅かに顔を顰める。自分の事を話す時、いつも他人事のように話すリュイスにレオンは気が付いていた。
数回程度、言葉を交わしただけでリュイスの本質を知ろうとしなかったこの数日。それが物凄く惜しく感じるくらいに、レオンはリュイスという複雑な存在を紐解きたいと思った。
それは単なる好奇心から来るものなのか、それともリュイスと人間に惹かれているからなのか、レオンには判断しかねる。
「そうか、ならばお前の傍付きのキャスとラビへ褒美を用意させよう。お前を良く思っていない者もいるだろうからな。この機会にそいつらに、好印象を与えておくといい」
「いいんですか?」
「ああ」
自分の為に動いてくれるというレオンに、リュイスは感動する。全く心を開かない印象しかない分、リュイスへ歩み寄るレオンが可愛く思えてくる。
「ありがとうございます」
リュイスのお礼に、フンと照れ隠しをしたレオン。リュイスは肩を竦めて、苦笑いを浮かべた。
「おっと、もう遅い時間ですね。俺は自室へ戻ります」
「ああ、おやすみ」
まさかレオンから挨拶をしてくれるとは思っていなかったリュイスは、一瞬だけ動きを止めて直ぐに笑顔をうかべた。
「はい、おやすみなさい。また明日」
リュイスがレオンの寝室を後にし、控えめな扉の閉まる音が寝室に響く。
リュイスの座っていたソファに視線を止め、レオンは肺にたまっていた息を吐き出した。まだ気配が近くにあるように感じ、その感覚に目を閉じる。
レオンは長い時間、こうしてプライベートで誰かと仕事以外の話をすることが少なかった。
話し疲れたが、それでも心地よい感覚だ。
「……おやすみ、か」
ぽつりと呟き、緩慢に立ち上がったレオンはベッドに横たわる。昨夜は隣に自分と比べ、随分と小柄なリュイスが隣にいた。
何故だか一人でベッドにいることに違和感があり、その毒され具合にレオンは口元に笑みを湛えたのだった。
相変わらず無言で食事をするレオンに、リュイスはチラリとその顔を伺う。
雄々しい獅子の顔に、体躯の良い身体。金色の毛皮が蝋燭の光を浴びて美しく輝いている。
そんな獣人の王に相応しい相貌のレオンから、リュイスはナイフとフォークを持つ自分の腕へと視線を落とした。
武術の稽古を最後にしたのはいつだったか、男にしては白く細い腕に自嘲する。
いっその事、女のような容姿だったらよかったのだろうか。それならば、祖国の道具としてある程度は利用価値もあったはずだ。
リュイスの体躯は細いと言え、骨格は腐っても男である。
腕も女というには筋が通っており、脂肪が少ない故にうっすらと筋肉が浮いていた。
昨夜、レオンに押し倒された際に、よく腕が折れなかったものだ。
リュイスは目の前の、レオンの逞しい腕を羨むように思った。
食事の後。
入浴を済ませたレオンは、自寝室のソファに腰かけた。湯上りでほんのりと湿った鬣のせいで、普段より身体が小さく見える。
昼間のうちにキリの良い所まで進めていた書類を流し見ながら、時よりその書類へ文字を書き込んでいた。
暫くの間、無心に仕事をしていたレオンだったが、寝室の扉を叩く音にハッと顔を上げた。
「なんだ」
「陛下、リュイス様がお見えです」
リュイスの従者に付けたキャスが、レオンの問いかけへ扉越しに答えた。レオンは訝しむが、断る理由が浮かばずリュイスの入室を許可する。
「何の用だ」
「お仕事ですか?」
「ハァ……そうだが?」
鬱陶しいという顔を隠しもせず、レオンがリュイスを睨みつけた。
「そうですか。ならばとっとと終わらせましょう! こちらの分は俺がやりますので、陛下はそちらをおねがいします」
しかし、いくら睨み付けようが、レオンに大して興味がないリュイスには効果がなかった。
扉付近からレオンの元へ一気に距離を詰めると、束になっていた書類を攫い取った。
その動きは、レオンが見てきた中で一番素早い動きだった。
昼間の様に書類の束を手早く仕分けると、レオンとは向かい側のソファへ腰かけた。
王妃の立場でも対処可能な書面のみを抜き取ったリュイスは、素早く確認して終わらせていく。
「なぜここに来た」
「追加で夜に仕事をするであろう陛下を、こうして手伝いに来たんですよ」
リュイスはレオンの仕事を半ば奪うようにして、手にした書類をヒラヒラとさせた。涼しい顔をした彼の瞳はレオンを捉えることなく、手元の質の良い紙に向けられていた。
それから一時間ほど経過したところで、二人は仕事を終えた。レオンは疑わしいという視線を隠しもせず、警戒していた。
剣呑さは僅かに薄れたが、代わりに猜疑心染まったに視線を受け、リュイスが苦笑いを浮かべる。
「どうせなら、自己紹介でもしましょうか?」
お互いを知る事から始めませんか、と茶化した声色で言うリュイス。そんな彼を、レオンは鼻で笑い飛ばした。
そして興味がないと言いたげに、確認の終わった書類を再びパラパラと眺め始める。
レオンを目で追いつつ、否定も賛成もされなかったリュイスは自己紹介を始めた。
「俺はアルドフ国の第七王子、リュイス=フォン=アルドフ。最近はタヴィランへ妃として努めているので、リュイス=フォン=タヴィランですけどね。好きな食べ物は……んー、リンゴかな? 苦手なものは、自己分析と自他境界の線引きですね」
リュイスは『ほかに何が知りたいですか?』と、聞いているのか聞いていないのかハッキリしないレオンに問いかける。
問われたなら無視する訳にもいかず、レオンは書類を机へ置きリュイスに視線を向けた。
「あ、俺が獣人をどう思っているかとか、そういうの気になりますか?」
薄い笑みを浮かべたリュイスに、レオンは詰め寄るように言った。
「軽蔑しているのだろう。人間は獣人を見るなり、卑しいと、穢らわしいと、侮蔑の言葉を投げかけてくる」
レオンの鋭い視線と言葉に、リュイスは楽観的にその言葉に至った理由を察する。
「他の人間のことは興味がないので知りませんが、俺は獣人とか人間とか、正直どうでもいいです。だって関係ないですから」
「関係ないだと? 貴様は今までの戦争で、どれ程の血が流れたと思っているのだ?!」
レオンはリュイスへと牙をむいた。
人間にはない鋭い爪を隠すように握り締め、鋭利な牙は今にもリュイスを噛み砕きそうな程、大きく開かれている。
レオンの怒りの表情に、しかしリュイスは冷めた目でレオンを見ていた。
「人間と獣人どちらが優れているかを決める。それが戦争の大義名分でしたか……人間も獣人も他の上位種族から見れば、大してどちらも優れていない。その証拠が、この長きに続いた戦争だと思うのですが。俺は……間接的には関係があるかもしれません。だけど、直接的に関係がないなら割り切るしかない。先祖が侵した過ちを、全て背負うことなど出来ないので。先祖の功績も過ちも、先祖のものです。俺や陛下のものではありません」
自分至上主義であり、だがその自分にすら興味の薄いリュイスの考え。その歪んでいて、どこまでも傲慢なる考えに、レオンは一気にリュイスへ興味が移った。
「(歪だな。以前、兄弟が優秀だと持つべき責任が減ると言っていたが、それがこの男が根本に抱えている意識なのか?)」
兄弟のいないレオンは、リュイスの本質を考え込む。
「ま、獣人と人間に関してはそんな感じです。別に、獣人だから下に見る。そんな野蛮なことは致しません」
声色を明るくし、リュイスはニコリと笑ってみせた。その表情を見ながら、レオンは気になる事を尋ねることにした。
「お前の……」
「……?」
「お前の身体はなぜ……」
「ああ」
レオンの言いたい事を察し、リュイスはその答えを教えようとして思いつく。
「答えてもいいのですが……代わりにいま俺が陛下にお教えした数の分、陛下の事を教えてください」
自分に興味を示したレオンが珍しく、リュイスは調子に乗って聞いてみた。リュイスの言葉を受け、少し考えたレオンはぽつぽつと自己紹介を始めた。
「名はレオン=ライドル=タヴィラン。タヴィラン国の現国王だ。好きなものは……」
「?」
言葉を詰まらせたレオンに、リュイスは首をかしげる。その仕草に一つ咳ばらいをし、レオンはおずおずと言葉を続けた。
「好きなものは……か、可愛らしいものが、好きだ……」
「へ?」
素っ頓狂な顔をしぽかんとするリュイスを、レオンが居心地が悪そうに睨む。その恐ろしげな外見に反し、可愛いものが好きという新事実に、リュイスの頭の処理が追い付かない。
そして真面目に自己紹介を始めた目の前の王に、思わず笑ってしまう。
「な、なんだ?」
「いや、そう、ですか。いいですね、可愛いもの……俺も好きですよ!」
ハムスターとか可愛いですよね、と呑気に返すリュイスにレオンがもう一度咳ばらいをした。
そして僅かに厳しい顔をし、空気を換える。
「私が人間をどう思っているか、だったか」
リュイスの答えた『獣人をどう思っているか』の反対を、レオンは答え始めた。リュイスは抜けていた気を引きしめ、話を聞く体制に入る。
「人間は嫌いだ。我ら獣人を人間のなりそこないと揶揄する。しかし、我ら獣人に比べ、人間は身体能力も本能からくる直感力も獣人に勝ることはない。それでも人間は我らを不完全なものと言う」
苦し気な表情にリュイスは、何も言えない。
「だが、お前の考えを聞いて、今の考えが形を変えた。自分は自分であり、他人は他人だとな」
リュイスの瞳を見据える琥珀色の瞳に、リュイスは見惚れる。ずっと鋭かったレオンの視線が、初めて柔らかくなった。その変化に気が付き、レオンが遠回しに傍にいても良いと認めてくれたのだと感じた。
「今度はお前の番だ」
お前の言った条件は満たした、そうレオンが言う。リュイスは軽く頷くと、口を開いた。
「俺の身体は生まれつきで、昔から腫れもの扱いされてました。当時の王、父は俺が生まれた際に、王女が生まれたと思ったそうですよ。でも、成長していく俺は男だった」
自重の笑みを浮かべ、リュイスは言葉を続ける。
「人と違うせいで、使用人たちは俺に中々近寄らないですし、兄弟たちも無能の王子もどきって馬鹿にしてましたね~ けど、この国の使用人との距離感は心地が良い。必要以上に気遣いをしない、距離をとらない。適切な対応が、ありがたく感じますよ」
どこか他人事のように話すリュイスに、レオンは僅かに顔を顰める。自分の事を話す時、いつも他人事のように話すリュイスにレオンは気が付いていた。
数回程度、言葉を交わしただけでリュイスの本質を知ろうとしなかったこの数日。それが物凄く惜しく感じるくらいに、レオンはリュイスという複雑な存在を紐解きたいと思った。
それは単なる好奇心から来るものなのか、それともリュイスと人間に惹かれているからなのか、レオンには判断しかねる。
「そうか、ならばお前の傍付きのキャスとラビへ褒美を用意させよう。お前を良く思っていない者もいるだろうからな。この機会にそいつらに、好印象を与えておくといい」
「いいんですか?」
「ああ」
自分の為に動いてくれるというレオンに、リュイスは感動する。全く心を開かない印象しかない分、リュイスへ歩み寄るレオンが可愛く思えてくる。
「ありがとうございます」
リュイスのお礼に、フンと照れ隠しをしたレオン。リュイスは肩を竦めて、苦笑いを浮かべた。
「おっと、もう遅い時間ですね。俺は自室へ戻ります」
「ああ、おやすみ」
まさかレオンから挨拶をしてくれるとは思っていなかったリュイスは、一瞬だけ動きを止めて直ぐに笑顔をうかべた。
「はい、おやすみなさい。また明日」
リュイスがレオンの寝室を後にし、控えめな扉の閉まる音が寝室に響く。
リュイスの座っていたソファに視線を止め、レオンは肺にたまっていた息を吐き出した。まだ気配が近くにあるように感じ、その感覚に目を閉じる。
レオンは長い時間、こうしてプライベートで誰かと仕事以外の話をすることが少なかった。
話し疲れたが、それでも心地よい感覚だ。
「……おやすみ、か」
ぽつりと呟き、緩慢に立ち上がったレオンはベッドに横たわる。昨夜は隣に自分と比べ、随分と小柄なリュイスが隣にいた。
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