獅子王様は人間嫌い

佐々木 おかもと

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5.求めるは……

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 それからの二人は、毎日のように共に仕事へ取り組むようになった。それだけでなく、朝食以外の食事の時間も合わせるようになっていた。
 食事中も会話を積極的に交わし、二人は確実にお互いを認め許し合う関係となっていた。

 そんな日々が当たり前となったある日、リュイスが倒れたとレオンの元へ報告がきた。
 慌てたレオンは、急いでリュイスの部屋へと急ぐ。

 部屋へ向かえば、ベッドには顔色の悪いリュイスが横たわっていた。
 ラビとキャスが、医者から聞いたリュイスの容態を説明する。

「リュイス様は、サモナ熱に罹っているそうです」
「サモナ熱だと?」

 サモナ熱とは、三日から五日の期間で高熱が続く風邪の一種であり、獣人であれば重症化するリスクのない病だ。

 しかし人間が罹ると、二十四時間以内に薬を服用しなければ高熱により死に至る。しかし薬を投与したとしても人間の致死率は高く、薬を投与したにも関わらず亡くなってしまう者もいる。種族そのものが違う為、薬の投与も難しい。薬の副作用で更に弱って死に至るケースも過去にあった。

「既に薬は投与済です。今は一時的に熱が下がっているようですが、医師によると十時間ほどで再び上がるとのこと」
「そうか……副作用のリスクは?」

 レオンは寝苦しそうなリュイスの顔にかかった髪を払う。触れた額が熱い。

「リュイス様の血液で調べましたが、今のところ問題はありません」

 医師の冷静な言葉に、レオンは逸る鼓動を落ち着ける。今は熱も下がっているというが、レオンはそれでも心配になる。
 はふはふと苦し気な息が可哀想で、レオンはリュイスの傍に寄った。毛皮すらない人間の手は心配になるほどに細く、その手を握ろうとしたレオンは少し戸惑う。

「……ラビ、仕事はここでやる。エルドレッドに伝えておいてくれ」
「ここで、でございますか……?」

 困惑したラビにレオンは『ああ』と答えると、リュイスがいつも読書をするときに座るソファに腰かけた。

「畏まりました。エルドレッド閣下へお伝えして参ります」

 伝言を預かったラビは部屋を後にした。

 寝苦しそうなリュイスの容態を気にしつつ、レオンは仕事を進めていく。食事もリュイスの傍でとり、就寝時間となった今もリュイスの隣で読書をしている。

「……ん」
「リュイス?」

 ページを捲る音だけの中、リュイスが静かに目を覚ました。
 リュイスはぼーっと、視線を彷徨わせレオンへと焦点をあわせる。その緩慢な微かな動きだけで、相当にキツいのだろうと察したレオン。

「へ、いか?」
「ああ、気分は?」
「頭が痛くて、ぼーっとする……します」

 言葉を崩したことが気になったのか、言いなおすリュイスにレオンが優しげな笑みを浮かべた。

「そうか、少し水を飲め。起き上がれるか?」
「はい」

 上体を起こそうとするリュイスの背中を支え、レオンは水の入ったコップを手渡す。
 リュイスは手に力が入らないのか、弱々しくコップを握るだけで中々飲もうとしない。
 見かねたレオンがリュイスの手ごと、コップを口元まで持っていってやる。されるがままのリュイスは、こくこくと水を飲み干した。

 リュイスは思っていたよりも、自分が喉が渇いていたことに驚いたが、余計な反応をすることすら億劫だった。それでも、背を支えてくれるレオンへお礼を伝える。

「気にするな、何か食べられるか?」
「……むり、です」
「しかし、今朝から何も食べていないだろう」
「んー、リンゴなら」

 とん、とレオンの胸へ寄りかかってくるリュイスに、レオンはキョトンとしてしまう。しかしハッとして、傍に控えていたキャスへ指示を飛ばした。中腰の体制だったレオンは、リュイスの横たわるベッドへ腰かけて、その背中をとんとんと優しく叩いてやる。

 暫くぐったりしたリュイスを宥めていると、キャスがカートを押しながら戻って来た。

「こちらを」

 皮をむいたリンゴにハチミツをかけたものを、レオンが用意させた。栄養補給にと用意したハチミツは栄養価が高く、弱ったリュイスには丁度良いだろう。

「一口だけでも構わない。少しだけでも食べてくれ」
「……はい、いただきます」

 レオンは雛鳥へ給餌をするように、リンゴを刺したフォークを口元へ近づけた。シャクリと小さな音を鳴らし、リュイスはゆっくりと咀嚼する。

 少し食べた所で、リュイスがゆっくりと首を左右に振った。

「もう、むり……」
「そうか、ならば解熱剤を飲むとよい」

 ひとかけらのリンゴを食べたリュイスは、レオンに言われるがままに薬を服用する。薬を飲んだリュイスをベッドに横たえると、レオンは再びソファに座った。
 直ぐに寝息を立て始めたリュイスに、レオンはホッとする。

 夜が深くなり、ベッドで丸るまっているリュイスを一目見て、レオンは自分の寝室へ戻ろうとした時。レオンの気配が遠くなることに気が付いたのか、リュイスが小さくレオンの名を呼ぶ。

「レオン、陛下……いっしょに居てくれませんか……」

 熱のせいか目に涙をためたリュイスが、とびきり甘えた声で懇願してくる。その弱気な様子に、レオンの加虐心が煽られた。
 胸の中から湧き出してくる感情をグッとこらえ、その必死な願いを聞いてやることにする。今、自分が出来る事はそれだけだからだ。

「リュイス、もっと端につめろ」
「陛下……?」
「一緒に居たいのだろう?」

 レオンが問いかけると、リュイスは熱でぼんやりとした顔から嬉しいという感情が混ざった顔へ早変わりした。
 熱で辛いはずにも関わらず、さっと横にずれると『これでいいですか』と上目遣いに効いてくる。その返事のかわりにレオンがベッドに入れば、リュイスは遠慮がちにレオンの鬣へと顔を寄せてきた。

「(……愛らしい)」

 レオンはリュイスの背中を、子供を寝かしつけるようにとんとん、とリズムよく叩き睡眠へ誘っていく。

 今更ながら、レオンはリュイスが妃である事を実感する。今回レオンは初めて、リュイスの事を甘やかしたのではないだろうか。

 リュイスは妃だが、実際の関係は曖昧なものが多い。レオンは鬣へ顔を埋めるリュイスの頭を抱え込み、守るようにして寝かしつけた。
 寝息を立て、レオンに縋るようにして眠るリュイスに、レオンは改めて本能でリュイスを守るべき者と認識する。その感情の変化に反応するように、リュイスがレオンの腕の中で身を捩った。

「守るべき者、妃……」

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