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プロローグ
新しい皇帝
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首都 惶興
桃の花が風で舞い上がり、春の暖かな日射しが照らす懐かしい石畳を歩き、男は傘を上げて呟く。
「どうしたんだ今日の浮かれっぷりは…」
今日は荷車が5台は通れる、かつての繁栄の折に作られたという大通りが人でごった返して露店が所狭しと並んでいた。
「何か祭りでもあっただろうか…」
彼は2年ほど首都を離れ、国内を遊学していた身であったが旅銭が尽き、実家に帰ろうとしていたのであった。
「あんた知らないの?新しい皇帝陛下が即位なさるのよ!」見知らぬ若い女がそう声をかけた。
「新しい皇帝…」
「ほらあの隣国との戦いで活躍された方よ」
華凰国と国境を接する隣国とは長く断交しており、先の戦いでやっと同盟が締結したが、その最大の功労者と言われているのが当時の皇子であった。彼はその功績を元に皇后の息子でないながらも皇太子として認められたのだ。
「あの皇子が?まだ20歳かそこらだろうに」
女は自分のことを語るように誇らしげに言う。「そうよ!武勲にも優れていて、そして大層美しいらしいわ!」
そういう評判ほど当てにならないものはないだろうと彼は思った。
一際甲高い声が上がる。
「輿がきたわ!!!皇帝陛下よ!!」
ワァっという歓声とともに、音を立てて朱で彩られた豪華な輿が橋上を通る。その瞬間に風で目隠しである薄絹が翻り、皇帝の姿が露わになる。
男は一目見た瞬間息を呑んだ。
新しい皇帝は黄金で縁取られた冠と。恐ろしく精緻で細かい刺繍が入った玄の衣と黄色の裳を身に纏っていた。何故か首周りにも布がまかれていたが彼を驚かせたのはそこではない。
母親から受け継いだと言われる黒檀の艶やかな髪に雪のように真っ白な顔。つり上がった真っ黒な瞳とすっと通った鼻筋、形のよい唇が中性的な顔に収まっていた。
まさに評判通り大層美しい人であった。
…弱冠20歳。第7代皇帝 醒月帝の即位である。
桃の花が風で舞い上がり、春の暖かな日射しが照らす懐かしい石畳を歩き、男は傘を上げて呟く。
「どうしたんだ今日の浮かれっぷりは…」
今日は荷車が5台は通れる、かつての繁栄の折に作られたという大通りが人でごった返して露店が所狭しと並んでいた。
「何か祭りでもあっただろうか…」
彼は2年ほど首都を離れ、国内を遊学していた身であったが旅銭が尽き、実家に帰ろうとしていたのであった。
「あんた知らないの?新しい皇帝陛下が即位なさるのよ!」見知らぬ若い女がそう声をかけた。
「新しい皇帝…」
「ほらあの隣国との戦いで活躍された方よ」
華凰国と国境を接する隣国とは長く断交しており、先の戦いでやっと同盟が締結したが、その最大の功労者と言われているのが当時の皇子であった。彼はその功績を元に皇后の息子でないながらも皇太子として認められたのだ。
「あの皇子が?まだ20歳かそこらだろうに」
女は自分のことを語るように誇らしげに言う。「そうよ!武勲にも優れていて、そして大層美しいらしいわ!」
そういう評判ほど当てにならないものはないだろうと彼は思った。
一際甲高い声が上がる。
「輿がきたわ!!!皇帝陛下よ!!」
ワァっという歓声とともに、音を立てて朱で彩られた豪華な輿が橋上を通る。その瞬間に風で目隠しである薄絹が翻り、皇帝の姿が露わになる。
男は一目見た瞬間息を呑んだ。
新しい皇帝は黄金で縁取られた冠と。恐ろしく精緻で細かい刺繍が入った玄の衣と黄色の裳を身に纏っていた。何故か首周りにも布がまかれていたが彼を驚かせたのはそこではない。
母親から受け継いだと言われる黒檀の艶やかな髪に雪のように真っ白な顔。つり上がった真っ黒な瞳とすっと通った鼻筋、形のよい唇が中性的な顔に収まっていた。
まさに評判通り大層美しい人であった。
…弱冠20歳。第7代皇帝 醒月帝の即位である。
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