刹那の皇帝

たろ

文字の大きさ
8 / 22
第1章

月見

しおりを挟む
なぜこんなことに…
手を掴まれたままに私は走廊に男と並んで座り、空を見上げていた。今夜の月は本当に美しく、夜であっても人の顔がわかるほど光が強かった。やはり見なければ勿体無いくらいではあり、わざわざ外に出て見ることはおかしくはない…が月見に初めて出会った人を誘うだろうか。それに男の正体は全くもってわからない。汀家の者だとしたら今夜は近づいてこないだろうし、無関係の者だとしたら警備の目を盗んでここまで入り込むほどの手練れということだ。暗殺者だとしたら私を殺しているだろうけれども、こんな格好をしているから気づいてないかもしれない。いや探っているのか?だったらなぜ話しかけてこないんだ?………読めない!!!顔をなるべく隠しつつ薄絹のすきまから男をちらりと見る。

男は下を向いている。いや月見ろよ。いやなんで誘ってきたんだ。すっごい衣を握りしめているし。…もしや体調が悪いのか?それは盲点だった。

「…あの」

びくーんと面白いくらいに男は反応する。

「体調が優れ…「美しいです!!!」

ばっと男は面をあげる。びっくりした。急に動かないでほしい。顔は真っ赤に染まっていて本当熱でもあるのかと思ったが食い気味に発言しているので大丈夫そうだ。美しい?…はい?ああ月か。君見てないじゃないか。

「そう…ですね」

はっとして肩を落として下を向く。…なんなんだ急に元気になったりしょんぼりしたり…よくわからない態度である。でもこんな大きな声を出したり、全く殺気を感じられないのだから暗殺者とは思えない。だめだ、しゃらくさい!

「…あなたはどこの誰ですか。」

「そうでした!!!」

男は急に立ち上がると石に足を取られて…豪快に転んだ。

「ぷ」

思わず笑みが漏れてしまう。彼は呆然としていたが私の声に正気を戻ったようで慌てて立ち上がった。どうにしても恥ずかしいようで真っ赤な顔をして衣に付いた土を払っていた。申し訳ないと思っても笑いが止まらない。

ようやく笑い止んだ頃、涙を拭っていると彼は立ち尽くし、青い瞳が私を縫いつける。本当に見たことないくらいの美しく、逃れ難い光だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

氷の王と生贄姫

つきみ かのん
恋愛
敗戦寸前の祖国を守るため、北の大国へ嫁いだセフィラを待っていたのは「血も涙もない化け物」と恐れられる若き美貌の王、ディオラスだった。 ※ストーリーの展開上、一部性的な描写を含む場面があります。 苦手な方はタイトルの「*」で判断して回避してください。

処理中です...