刹那の皇帝

たろ

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第1章

初仕事

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だが馬車を覆う布が暴かれることはない。それどころか周りの喧騒はだんだんと小さくなっていくように感じる。頴達も不可思議そうな顔をしていて二人顔を見合わせる。剣を握る手を弱め、気配を探る。…もしかしたら殺さずに私を捕らえようとしているのか?そうなったら醒月の周りの者たちの命が危ない。

「くそっ」

「たっ…助け」

醒月の護衛のものと思わしき声が聞こえてきて、頴達の止める声に構わず馬車から転がり出る。やはり助けを求めていたのは醒月の護衛だったようで剣は持っておらず尻餅をついている。襲撃者の男は剣を振りかざそうとしていた。だが圧倒的に有利にみえる襲撃者は傷だらけで何かに怯えているようだった。醒月は間に合うかどうかといった距離で剣を強く握るがその必要はなかった。

ぶわっと何かが間に入り襲撃者の胴を斬りつける。手から離れた剣があわや護衛に刺さるかのようにゆっくり落ちていく…が男はその刀身を蹴って飛ばす。そのまま襲撃者を蹴りつけて飛ばすと、別の敵に向かって走る。敵は男を見ると怯えるような顔をしたが束になって向かう。それでも男は平然として力強い蹴りと今まで見たことのないような変わった形の武器を力任せに振るい、周りを圧倒していく。男の動きは大きくて大胆なのになぜかゆっくりとみえるような不思議なものだった。濃紺の衣が風で大きく広がってただでさえ大きな体をさらに大きくみせている。さらに言えば敵は襲撃者として訓練されているはずの者たちが赤子の手を捻るようにされている。気がつくと刃をかわすものは誰もいなくなって沈黙が訪れる。

「…すごい」

後ろから醒月を追ってきた頴達が立っていて、ぽろりと言葉を漏らす。背中がやけに大きくみえる男は、武器についた血をびっと払ってゆっくりとしまう。支給された玉飾りを揺らしながら、こちらを振り向く男の青い目と頰についた血の対照的な色合いがやけに目を離さなくさせる。じゃり、と足を勧めこちらにやってくる男の表情はそんな顔ができるのかと思うくらいにみたことのないもので少しぞっとする。

「ご無事ですか…殿下」

「…ああ、傷ひとつない、助かったぞ





…翔渓」

好青年然としてみえる翔渓は、やはりあの師が連れてきた男であった。
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