17 / 22
第1章
初仕事
しおりを挟む
だが馬車を覆う布が暴かれることはない。それどころか周りの喧騒はだんだんと小さくなっていくように感じる。頴達も不可思議そうな顔をしていて二人顔を見合わせる。剣を握る手を弱め、気配を探る。…もしかしたら殺さずに私を捕らえようとしているのか?そうなったら醒月の周りの者たちの命が危ない。
「くそっ」
「たっ…助け」
醒月の護衛のものと思わしき声が聞こえてきて、頴達の止める声に構わず馬車から転がり出る。やはり助けを求めていたのは醒月の護衛だったようで剣は持っておらず尻餅をついている。襲撃者の男は剣を振りかざそうとしていた。だが圧倒的に有利にみえる襲撃者は傷だらけで何かに怯えているようだった。醒月は間に合うかどうかといった距離で剣を強く握るがその必要はなかった。
ぶわっと何かが間に入り襲撃者の胴を斬りつける。手から離れた剣があわや護衛に刺さるかのようにゆっくり落ちていく…が男はその刀身を蹴って飛ばす。そのまま襲撃者を蹴りつけて飛ばすと、別の敵に向かって走る。敵は男を見ると怯えるような顔をしたが束になって向かう。それでも男は平然として力強い蹴りと今まで見たことのないような変わった形の武器を力任せに振るい、周りを圧倒していく。男の動きは大きくて大胆なのになぜかゆっくりとみえるような不思議なものだった。濃紺の衣が風で大きく広がってただでさえ大きな体をさらに大きくみせている。さらに言えば敵は襲撃者として訓練されているはずの者たちが赤子の手を捻るようにされている。気がつくと刃をかわすものは誰もいなくなって沈黙が訪れる。
「…すごい」
後ろから醒月を追ってきた頴達が立っていて、ぽろりと言葉を漏らす。背中がやけに大きくみえる男は、武器についた血をびっと払ってゆっくりとしまう。支給された玉飾りを揺らしながら、こちらを振り向く男の青い目と頰についた血の対照的な色合いがやけに目を離さなくさせる。じゃり、と足を勧めこちらにやってくる男の表情はそんな顔ができるのかと思うくらいにみたことのないもので少しぞっとする。
「ご無事ですか…殿下」
「…ああ、傷ひとつない、助かったぞ
…翔渓」
好青年然としてみえる翔渓は、やはりあの師が連れてきた男であった。
「くそっ」
「たっ…助け」
醒月の護衛のものと思わしき声が聞こえてきて、頴達の止める声に構わず馬車から転がり出る。やはり助けを求めていたのは醒月の護衛だったようで剣は持っておらず尻餅をついている。襲撃者の男は剣を振りかざそうとしていた。だが圧倒的に有利にみえる襲撃者は傷だらけで何かに怯えているようだった。醒月は間に合うかどうかといった距離で剣を強く握るがその必要はなかった。
ぶわっと何かが間に入り襲撃者の胴を斬りつける。手から離れた剣があわや護衛に刺さるかのようにゆっくり落ちていく…が男はその刀身を蹴って飛ばす。そのまま襲撃者を蹴りつけて飛ばすと、別の敵に向かって走る。敵は男を見ると怯えるような顔をしたが束になって向かう。それでも男は平然として力強い蹴りと今まで見たことのないような変わった形の武器を力任せに振るい、周りを圧倒していく。男の動きは大きくて大胆なのになぜかゆっくりとみえるような不思議なものだった。濃紺の衣が風で大きく広がってただでさえ大きな体をさらに大きくみせている。さらに言えば敵は襲撃者として訓練されているはずの者たちが赤子の手を捻るようにされている。気がつくと刃をかわすものは誰もいなくなって沈黙が訪れる。
「…すごい」
後ろから醒月を追ってきた頴達が立っていて、ぽろりと言葉を漏らす。背中がやけに大きくみえる男は、武器についた血をびっと払ってゆっくりとしまう。支給された玉飾りを揺らしながら、こちらを振り向く男の青い目と頰についた血の対照的な色合いがやけに目を離さなくさせる。じゃり、と足を勧めこちらにやってくる男の表情はそんな顔ができるのかと思うくらいにみたことのないもので少しぞっとする。
「ご無事ですか…殿下」
「…ああ、傷ひとつない、助かったぞ
…翔渓」
好青年然としてみえる翔渓は、やはりあの師が連れてきた男であった。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
氷の王と生贄姫
つきみ かのん
恋愛
敗戦寸前の祖国を守るため、北の大国へ嫁いだセフィラを待っていたのは「血も涙もない化け物」と恐れられる若き美貌の王、ディオラスだった。
※ストーリーの展開上、一部性的な描写を含む場面があります。
苦手な方はタイトルの「*」で判断して回避してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる