刹那の皇帝

たろ

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第1章

大切

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とりあえずここに留まったままというのは危険だということから、自力で歩けない重傷の者と数人だけを置いて王宮への道を辿る。馬車内の中でまた頴達から一番尊きお方が外に出てどうするんですか、今回は良かったものの…とキツイ小言をもらったが頭に入ってこない。だが頴達自身も何か気が別の方向を向いているようだった。




「報告によりますと道の傍、一部陰になっているところから十数名に襲撃を受けた模様です。まさかあの人数が隠れられるとは思っておらず護衛の者たちは遅れをとったとのことです。」

王宮に戻り、衣を替えてとある程度時間が経つと報告が上がってくる。

「…不利を強いられましたが、今回は脚の腱を切られた者が一番の重傷で、死者はおりません。」

「…翔渓だな」

「はい、何人もが証言していますからあの変な髪色の男に助けられた、とね。」

翔渓は強かった。何にも物怖じせずに向かっていき、あの体のどこに秘めているのかわからないといった圧倒的な力から繰り出される蹴り。そして初めてみる変わった形の武器をいともたやすく扱う。翔渓はなぜ隠れていたのかといえるほどに一人で圧倒的な力を持っていた。

「…翔渓は裡鳶リエンの者でしょう」

「裡鳶…?」

「はい、この国が建つ前から存在していた民族で私たちとは異なる瞳や髪色をして、武芸に優れています。そのため一時は裡鳶の国が天下に立つと言われるほど勢力が広がったそうです。ですが建国後からなぜか冷遇されて、数は減り、隠れるように集団で生活しているらしいです。」

確かにその裡鳶というやつならば翔渓の強さにも納得がいく。

「…危険でしょう、あの男はよくわからない部族の出、しかもそれを隠していた。」

「知らなかっただけかもしれないだろう」

彼を採用できない尤もらしい理由が現れたが、醒月は認められなかった。

「それでも、ここで不穏な分子を入れるわけにはいかないんです。例え宗元殿の紹介でも!」

「…少し考えさせてくれ。」

「陛下!!!」

彼は強い。彼を付ければ沢山のものが傷つかないで済むかもしれない。自分のせいで傷つくものが減ること、それが醒月にとって一番大切なことだった。

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