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第1章
思考
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裡鳶。この華鳳国の建国前から存在していた部族で驚異の身体能力と奇異な技を使い、周りを圧倒していたという。余りにも強すぎたために野蛮だなんだという悪評の方が強く伝わっている。そして華々しい武勇伝が伝わってはいるものの華鳳国が発展するにつれてなぜかその名は聞かれなくなり、生き残りは暗殺者となり姿を隠したという噂がまことしやかに流れている。見た目の特徴としては皆総じて華鳳の民よりも薄い色素の髪と蒼を中心とした瞳をもつ。華鳳国の象徴、鳳凰がその蒼を嫌って一族に罰を施したために勢力が衰えているなんて本当とも思えない話が平民の間で囁かれる…
書庫に所蔵されていた文献からわかる裡鳶についての話はこのくらいであった。どの書にも武芸を得意とする、目を惹く外見と概ね同じことがかいてあってそこまで代わり映えはしなかった。昔に少し師から聞いたような気もするが記憶の彼方に飛んでいたようだ。…何時間もこうして書物に向き合うと目頭がつんと痛くなる。指で眉間を揉んで席を立ち、部屋を出る。頴達の話のあとから気になって書庫に篭っているとすっかり日は落ちていて月が顔を出していた。
…結局、翔渓はかすり傷一つ負うこともなく医務室より帰ってきた。あいつは強い。交代制の護衛だって毎日毎晩鍛錬を積んできた凄腕の猛者ばかりなのにだ。どの者よりも飛び抜けていて、しかも其の技は力強いのに美しい。剣を少しでも齧ったことのある者ならわかる、決して死に怯えない者だけがもつ特有の雰囲気。目を閉じれば今だって鮮明に描ける。
皇帝としてはやっぱり、欲しい。
あの強さはとんでもなく魅力的だ。問題は山ほどあり、そして自分自身の心は追いついていないがどうしても頴達を説得するべきだろう。さあてあの頑固頭をどうやって攻略するか…だが今日は疲れた。そろそろ後宮を訪れてもいい時間のはずだ。
普通は御付きをぞろぞろ連れて皇帝陛下の訪れを盛大に知らせる者だが、寵姫が一人しかおらず、質素倹約ともいえる醒月は本当に静かに後宮へと向かう。こつんこつんとゆっくり道を歩いていると何かが自然に入り込む。其の影は角を曲がったようだ。…この道はほぼ後宮へと向かう者しか使わないため、あの濃紺の衣を纏う者は用がない筈…しかしすぐに警戒を緩める。
なぜならば新しく仮採用した者はとんでもなく方向音痴だったことを醒月は思い出した。先程の思考の主役だった翔渓がふらふらと道に迷っているようだった。
書庫に所蔵されていた文献からわかる裡鳶についての話はこのくらいであった。どの書にも武芸を得意とする、目を惹く外見と概ね同じことがかいてあってそこまで代わり映えはしなかった。昔に少し師から聞いたような気もするが記憶の彼方に飛んでいたようだ。…何時間もこうして書物に向き合うと目頭がつんと痛くなる。指で眉間を揉んで席を立ち、部屋を出る。頴達の話のあとから気になって書庫に篭っているとすっかり日は落ちていて月が顔を出していた。
…結局、翔渓はかすり傷一つ負うこともなく医務室より帰ってきた。あいつは強い。交代制の護衛だって毎日毎晩鍛錬を積んできた凄腕の猛者ばかりなのにだ。どの者よりも飛び抜けていて、しかも其の技は力強いのに美しい。剣を少しでも齧ったことのある者ならわかる、決して死に怯えない者だけがもつ特有の雰囲気。目を閉じれば今だって鮮明に描ける。
皇帝としてはやっぱり、欲しい。
あの強さはとんでもなく魅力的だ。問題は山ほどあり、そして自分自身の心は追いついていないがどうしても頴達を説得するべきだろう。さあてあの頑固頭をどうやって攻略するか…だが今日は疲れた。そろそろ後宮を訪れてもいい時間のはずだ。
普通は御付きをぞろぞろ連れて皇帝陛下の訪れを盛大に知らせる者だが、寵姫が一人しかおらず、質素倹約ともいえる醒月は本当に静かに後宮へと向かう。こつんこつんとゆっくり道を歩いていると何かが自然に入り込む。其の影は角を曲がったようだ。…この道はほぼ後宮へと向かう者しか使わないため、あの濃紺の衣を纏う者は用がない筈…しかしすぐに警戒を緩める。
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