角が折れたページ

まー猫

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角が折れたページ

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私は、自分の身体がどうしても好きになれない。

中学の「こころとからだ」の授業では、女子だけ集められ、丁寧な声のナレーション付きのビデオを見せられた。
月経が来た子もいれば、まだな子もいる。私は後者。性的な話題を面白がるこころばかり背伸びしている同級生を見て、戸惑いと距離感を感じていた。



一年前の秋のあの夜のことは忘れられない。

何を思ったか、私は布団を自分の足で挟みこんで、腰を動かすということを覚えていた。
ほんの数十秒もの間そうしているだけで下腹の奥がくすぐったくなり、何かがじわっと溢れる。

それは自分が人から本当に愛されたい気持ちの表れだったのかもしれない。

団地で母と二人暮らしをしている私は、襖をへだてて母が寝静まるのを待ってから、こっそりと「それ」を行っていた。

しかし見つかるのも早かった。ある夜急にふすまの戸が開き、暗闇の中で私を見つめる母の顔があった。

「・・・なにやってんの」

それは普段クールな母からはあまり聞いたことがない、低く乾いた声だった。
怒りというよりも、どこか怯えたような響きがあった気がする。

母は何も言わず、一歩も近づくことなく、そのままバタンと戸を閉めた。

傷ついた。心の奥を土足で踏みにじられたような感じ。
自分の中で芽生え始めていた"女の秘密"を、泥だらけの靴で。



その夜以来、家では“それ”をしなくなった。
けれど私の衝動は消えず、駅やショッピングモールの個室トイレで、人知れず繰り返すようになっていた。

-私は、最低だ-

心の中では、あれほど同級生たちを見下していたのに。

私は自分で自分をコントロールできなくなっている。そのことに苛立ちと自責の念を抱き、一人で悩みこむようになった。



ある日、母が買い物に出ている間、リビングに残された週刊誌をふと手に取った。
ページを開くと『カラダが喜ぶ、夜のスイッチ』と書かれた特集記事がある。
私は思わず笑いかけた後、すぐに息をのんだ。ページの角が、折れている。
折ったのは間違いなく、母だ。

そこで紹介されているスティック状のようなものの数々・・・。私は胸がドキドキするのを抑えながら、そのまま母の部屋へ向かい引き出しを開ける。あった。
衝撃的な"それら"が、確かにそこにはあった。

私は母のことを“とっくに女を捨てた人”だと思っていた。恋人がいる気配もなく、休日はスーパー銭湯に行くのが唯一の楽しみ。
それなのに、あの折れた角と引き出しの中身。母もまたひそかに、私と同じ孤独を抱えているんだ。

その日の夜。カモミールティーを挟んで母と向き合う。

「私、好きな人ができたかもしれない」

少し驚いて、母はゆっくりと笑った。

「そう。いっぱい恋して、いっぱい青春したらいいのよ」

私は何も答えず、紅茶に口づけた。

二人の間にいつしか出来上がっていたわだかまりは、ほんの少しだけ角がとれた気がした。

私たちは親子というよりは、人間同士で女同士だ。
少しだけ母のことが好きになれた気がした。
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