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第五部
第七章・TOKYO(その5)
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その翌日は、潮音が暁子や優菜、真由美と一緒に東京ディズニーランドに行く日になっていた。ディズニーランドをはじめて訪れる暁子と優菜はもとより、真由美までもがディズニーランドに行くのは久しぶりということもあって、楽しみにしている様子が表情いっぱいにありありと浮んでいた。
「潮音ちゃんが小学校のときにも、夏休みに則子叔母さんや綾乃お姉ちゃんと一緒に家に来て、みんなでディズニーランドに行ったことがあったよね。潮音ちゃんと一緒にディズニーランドに行くのはそれ以来じゃない?」
そこで潮音が隆史の家を出る前、さっそく真由美のチェックが入った。
「せっかくディズニーランドに行くんだったら、潮音ちゃんももうちょっとおしゃれした方がいいんじゃない?」
潮音は真由美が自分を女の子として扱っていることに対してやれやれと思いながらも、それに従うことにした。暁子や優菜も、真由美のコーディネートでかわいく装った潮音のファッションをほめそやしていた。
隆史の家を後にしてから、ディズニーランドの最寄駅である舞浜駅まで行くのに電車や地下鉄を何本か乗り継がなければならず、しかも乗換駅といっても通路や階段をかなり歩かなければならない駅もあるのに潮音は戸惑った。それでもみんなが舞浜駅で電車を降りると、そこはすでにディズニーランドを訪れる客たちでごった返していた。舞浜駅を出ただけで潮音ばかりでなく暁子や優菜までもが、ディズニーランドの楽しげな雰囲気が辺り一面に漂っているのを感じて、自然と表情をウキウキさせていた。
潮音たちがゲートを通ってワールドバザールを抜けると、シンデレラ城の彼方に夏の空が広がり、そこには真っ白な入道雲がそびえ立っていた。その風景を見ただけで、潮音は胸の中のわくわくするような高揚感を抑えることができなくなっていた。さっそく潮音たちは、そのままシンデレラ城を背景にスマホで記念撮影をした。
それから潮音たちはガイドマップを片手にさまざまなアトラクションを回ったり、キャラクターたちの華やかなパレードに目を向けたりした。しかし潮音はアトラクションの座席につくときに、誰の隣に坐ることになるのか少し気をもんでいた。周囲を見渡すとやはり若い男女のカップルが楽しそうに並んで腰を下している場面も目についたが、そのような光景を見ただけで潮音は少しもやもやした気持ちにならずにはいられなかった。それでも潮音は、暁子のことだから自分と並んで坐ってスリルのあるシーンにさしかかったりしても、怖そうに自分を頼ったりなどしないだろうなとふと考えていた。
アトラクションを降りた後、真由美は自分が小さな頃に潮音と一緒にディズニーランドに行ったときには、自分よりも潮音の方が怖そうにしていたという話を暁子と優菜に話して聞かせた。暁子と優菜はその話を聞いてニヤニヤしていたが、潮音は余計なことを言うなと言わんばかりに顔を赤らめていた。
そうしているうちに時間はあっという間に過ぎて、いつしか夏の日も暮れようとしていた。潮音は帰りが遅くなるのではと心配したが、真由美がせっかくだからエレクトリカルパレードとシンデレラ城に上がる花火を見てから帰ろうと提案すると、暁子と優菜もそれに対して乗り気になっていた。
八月ということもあって、夏至の頃から比べて日が暮れるのは早まっていた。日が落ちて少し辺りが涼しくなってから夕闇を彩るエレクトリカルパレードが始まると、その光の鮮やかさや色彩の華やかさに潮音たちは皆目を奪われていた。それだけでなく、シンデレラ城の上に花火が上がり、光が夜空にきらめくと、観客たちは皆歓声をあげた。
しかし潮音が隣でパレードや花火を眺めている暁子や優菜の横顔をちらりと見ているうちに、潮音はもし自分が男の子のままだったら、今このようにして暁子や優菜と一緒に東京まで来て、その二人の隣で花火を眺めることなどなかったに違いないとふと考えていた。仮にもし自分が男として暁子や優菜と一緒にディズニーランドに行っていたら、それはやはり彼氏と彼女という関係になるのだろうか、その場合暁子や優菜は自分のことをどのように意識するだろうかと思うと、潮音は色とりどりの花火が夏の夜空に上がるのをじっと眺めながらも、心の中に波風が立つのを覚えずにはいられなかった。
やがて宵闇も深まってきたので、潮音たちは閉園時間を待たずにディズニーランドを後にすることにした。舞浜駅から電車に乗り込んでも、優菜はお土産の入った袋を手にしながら興奮気味に話していた。
「今日はめっちゃ楽しかったな。やっぱり東京に行けて良かったわ。この近くには月島のもんじゃストリートかてあるけど、今日はもう遅いから行けそうにないな」
しかし暁子は、潮音が車窓を流れていく闇に沈んだベイサイドの景色を眺めながら、どこか寂しそうな表情をしていることを見逃さなかった。
「どうしたの? 潮音。せっかくみんなでディズニーランドに行って楽しかったのに」
そこで潮音は、遠慮がちに口を開いた。
「いや…、もし自分が男のままだったら暁子や優菜、そして真由美と一緒にこうやってディズニーランドに行くことなんかあったかなって思ったから…」
そのように話す潮音の口調からは、戸惑いの色がありありと現れていた。しかし暁子は、潮音のそのような元気のなさそうな様子を吹き飛ばそうとするかのように、明るく声をかけた。
「あんたがいつまでもそんなことばかり気にしてウジウジしてたって、何にもならないよ。あたしとあんたや優菜は今こうして一緒にいて、一緒に楽しいことやれる。それだけで十分じゃん」
その暁子の言葉には、真由美も相槌を打った。
「その通りよ。あたしだって潮音ちゃんが女の子になっちゃったという話を聞いたときや、そして今の潮音ちゃんの姿を見たときにはちょっと驚いたけど、今日一緒にディズニーランドで遊んで、今でも潮音ちゃんはちっちゃな頃とやっぱり根っこのところは変ってないなって思ったんだ」
暁子と真由美に口々に言われて、潮音は照れくさそうな顔をしながらぼそりと口を開いた。
「暁子と真由美も、次にディズニーランドに行くときは彼氏と一緒に行ったらどうだよ」
その潮音の言葉を聞いて、暁子と真由美は二人そろって呆れた表情をした。
「潮音のバカ」
優菜はこの潮音と暁子のやりとりを見ながら、この二人は相変らずだなとため息をついていた。しかし優菜はその一方で、暁子は潮音が変っていく様子を見て戸惑っていたところをずっと見てきただけに、暁子も潮音のことを少し突き放して見ることができるようになった、そしてそのようになったということは暁子もやはり人間的に成長したのかなとふと考えていた。
そこで潮音は、暁子たちに話しかけた。
「明日はみんなで江の島や鎌倉に行くんだよね。江の島はいろんなドラマやアニメの舞台になっているから行ってみたいって優菜が言ってたけど…」
「うちのお母さんも驚いてたよ。『この暑いのに毎日どこかに出歩くなんて、若い子たちはほんとに元気ね』って」
真由美が潮音に答えて言うと、優菜も口をはさんだ。
「そりゃあたしたちかて、何日もずっと東京にいられるわけやないからな。行けるうちに行きたいところに行っとかなあかんし」
潮音は優菜の元気そうな様子は相変らずだと思いながらも、真由美に話しかけた。
「でも真由美が友達と一緒に行きたいって言ってたよね」
「うん。あたしとは中学のときからの知り合いなんだ。明日みんなに紹介してあげるよ」
潮音は真由美の話を聞きながら、その真由美の友達ってどんな子なのだろうといぶかしんでいた。
「潮音ちゃんが小学校のときにも、夏休みに則子叔母さんや綾乃お姉ちゃんと一緒に家に来て、みんなでディズニーランドに行ったことがあったよね。潮音ちゃんと一緒にディズニーランドに行くのはそれ以来じゃない?」
そこで潮音が隆史の家を出る前、さっそく真由美のチェックが入った。
「せっかくディズニーランドに行くんだったら、潮音ちゃんももうちょっとおしゃれした方がいいんじゃない?」
潮音は真由美が自分を女の子として扱っていることに対してやれやれと思いながらも、それに従うことにした。暁子や優菜も、真由美のコーディネートでかわいく装った潮音のファッションをほめそやしていた。
隆史の家を後にしてから、ディズニーランドの最寄駅である舞浜駅まで行くのに電車や地下鉄を何本か乗り継がなければならず、しかも乗換駅といっても通路や階段をかなり歩かなければならない駅もあるのに潮音は戸惑った。それでもみんなが舞浜駅で電車を降りると、そこはすでにディズニーランドを訪れる客たちでごった返していた。舞浜駅を出ただけで潮音ばかりでなく暁子や優菜までもが、ディズニーランドの楽しげな雰囲気が辺り一面に漂っているのを感じて、自然と表情をウキウキさせていた。
潮音たちがゲートを通ってワールドバザールを抜けると、シンデレラ城の彼方に夏の空が広がり、そこには真っ白な入道雲がそびえ立っていた。その風景を見ただけで、潮音は胸の中のわくわくするような高揚感を抑えることができなくなっていた。さっそく潮音たちは、そのままシンデレラ城を背景にスマホで記念撮影をした。
それから潮音たちはガイドマップを片手にさまざまなアトラクションを回ったり、キャラクターたちの華やかなパレードに目を向けたりした。しかし潮音はアトラクションの座席につくときに、誰の隣に坐ることになるのか少し気をもんでいた。周囲を見渡すとやはり若い男女のカップルが楽しそうに並んで腰を下している場面も目についたが、そのような光景を見ただけで潮音は少しもやもやした気持ちにならずにはいられなかった。それでも潮音は、暁子のことだから自分と並んで坐ってスリルのあるシーンにさしかかったりしても、怖そうに自分を頼ったりなどしないだろうなとふと考えていた。
アトラクションを降りた後、真由美は自分が小さな頃に潮音と一緒にディズニーランドに行ったときには、自分よりも潮音の方が怖そうにしていたという話を暁子と優菜に話して聞かせた。暁子と優菜はその話を聞いてニヤニヤしていたが、潮音は余計なことを言うなと言わんばかりに顔を赤らめていた。
そうしているうちに時間はあっという間に過ぎて、いつしか夏の日も暮れようとしていた。潮音は帰りが遅くなるのではと心配したが、真由美がせっかくだからエレクトリカルパレードとシンデレラ城に上がる花火を見てから帰ろうと提案すると、暁子と優菜もそれに対して乗り気になっていた。
八月ということもあって、夏至の頃から比べて日が暮れるのは早まっていた。日が落ちて少し辺りが涼しくなってから夕闇を彩るエレクトリカルパレードが始まると、その光の鮮やかさや色彩の華やかさに潮音たちは皆目を奪われていた。それだけでなく、シンデレラ城の上に花火が上がり、光が夜空にきらめくと、観客たちは皆歓声をあげた。
しかし潮音が隣でパレードや花火を眺めている暁子や優菜の横顔をちらりと見ているうちに、潮音はもし自分が男の子のままだったら、今このようにして暁子や優菜と一緒に東京まで来て、その二人の隣で花火を眺めることなどなかったに違いないとふと考えていた。仮にもし自分が男として暁子や優菜と一緒にディズニーランドに行っていたら、それはやはり彼氏と彼女という関係になるのだろうか、その場合暁子や優菜は自分のことをどのように意識するだろうかと思うと、潮音は色とりどりの花火が夏の夜空に上がるのをじっと眺めながらも、心の中に波風が立つのを覚えずにはいられなかった。
やがて宵闇も深まってきたので、潮音たちは閉園時間を待たずにディズニーランドを後にすることにした。舞浜駅から電車に乗り込んでも、優菜はお土産の入った袋を手にしながら興奮気味に話していた。
「今日はめっちゃ楽しかったな。やっぱり東京に行けて良かったわ。この近くには月島のもんじゃストリートかてあるけど、今日はもう遅いから行けそうにないな」
しかし暁子は、潮音が車窓を流れていく闇に沈んだベイサイドの景色を眺めながら、どこか寂しそうな表情をしていることを見逃さなかった。
「どうしたの? 潮音。せっかくみんなでディズニーランドに行って楽しかったのに」
そこで潮音は、遠慮がちに口を開いた。
「いや…、もし自分が男のままだったら暁子や優菜、そして真由美と一緒にこうやってディズニーランドに行くことなんかあったかなって思ったから…」
そのように話す潮音の口調からは、戸惑いの色がありありと現れていた。しかし暁子は、潮音のそのような元気のなさそうな様子を吹き飛ばそうとするかのように、明るく声をかけた。
「あんたがいつまでもそんなことばかり気にしてウジウジしてたって、何にもならないよ。あたしとあんたや優菜は今こうして一緒にいて、一緒に楽しいことやれる。それだけで十分じゃん」
その暁子の言葉には、真由美も相槌を打った。
「その通りよ。あたしだって潮音ちゃんが女の子になっちゃったという話を聞いたときや、そして今の潮音ちゃんの姿を見たときにはちょっと驚いたけど、今日一緒にディズニーランドで遊んで、今でも潮音ちゃんはちっちゃな頃とやっぱり根っこのところは変ってないなって思ったんだ」
暁子と真由美に口々に言われて、潮音は照れくさそうな顔をしながらぼそりと口を開いた。
「暁子と真由美も、次にディズニーランドに行くときは彼氏と一緒に行ったらどうだよ」
その潮音の言葉を聞いて、暁子と真由美は二人そろって呆れた表情をした。
「潮音のバカ」
優菜はこの潮音と暁子のやりとりを見ながら、この二人は相変らずだなとため息をついていた。しかし優菜はその一方で、暁子は潮音が変っていく様子を見て戸惑っていたところをずっと見てきただけに、暁子も潮音のことを少し突き放して見ることができるようになった、そしてそのようになったということは暁子もやはり人間的に成長したのかなとふと考えていた。
そこで潮音は、暁子たちに話しかけた。
「明日はみんなで江の島や鎌倉に行くんだよね。江の島はいろんなドラマやアニメの舞台になっているから行ってみたいって優菜が言ってたけど…」
「うちのお母さんも驚いてたよ。『この暑いのに毎日どこかに出歩くなんて、若い子たちはほんとに元気ね』って」
真由美が潮音に答えて言うと、優菜も口をはさんだ。
「そりゃあたしたちかて、何日もずっと東京にいられるわけやないからな。行けるうちに行きたいところに行っとかなあかんし」
潮音は優菜の元気そうな様子は相変らずだと思いながらも、真由美に話しかけた。
「でも真由美が友達と一緒に行きたいって言ってたよね」
「うん。あたしとは中学のときからの知り合いなんだ。明日みんなに紹介してあげるよ」
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