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魔王誕生編
18話 師匠から聞かされた信じられないような話
しおりを挟むアーノルドはずっと暗い闇の中を彷徨い歩いていた。
そうして気が付くといつの間にか目の前に扉がぽつんとあった。その周りは相変わらずの真っ暗な空間だけだ。思い切ってその扉を開くと扉の向こうには幼い頃の自分がいた。
『なんで駄目なんだよ!!僕はこの国の王子なんだろっ?王子は好きな物をたくさん食べられると聞いたぞ!!』
太っていた頃の俺が部屋の中でふんぞり返っている。
『しかし、アーノルド殿下。今、お菓子を食べますと、夕食が食べられなくなりますよ。』
侍女の一人が宥める様に言っている。
『うるさい、うるさい!!お前たちは僕の言うことを聞いていればいいんだ。僕の言うことを聞かなかったらクビにするぞ!!』
傲慢の以外の何者でもない頃の俺を見ていられなくて、扉を閉める。そうすると、また次の扉が現れた。その扉を開ける事に少し躊躇したが、意を決して開けてみた。
するとそこはまた真っ暗な空間になっていた。だが、その空間の中からいろんな人々の声が次々に聞こえてきた。
『は~あ、どうせなら第一王子殿下の方がよかったわ~、見目麗しいしお世話のしがいがあるもの。それに比べて第二王子殿下はぶくぶく太って醜い……。』
最初は侍女の声だった。
『第一王子殿下は優秀なのに、第二王子は……出来損ないだな。』
これは俺が昔、クビにした教師が影で言っていた。
『ダイエットだって。ハハッ、どうせ続かないに決まっている。付き合わされるこっちは、たまったもんじゃねえな。』
俺がダイエットを決心して料理長に頼みに行った後、部屋を出たと同時に聞こえてきた声。次々と聞こえてくる俺を非難する者や嘲笑う者達の声に慌てて扉を閉めた。そのまま両耳を手で押さえてその場で蹲る。
「もう、止めてくれっ!」
何かに真っ黒に塗りつぶされるようなそんな気持ちが湧いてきて。思わず叫んだ。
この果てしなく続く真っ暗な世界から早く出たくて、助けを求める。
誰か、誰か、助けて。
ここから出して。
『あら? あなたも迷子?』
その時、女の子の声が聞こえた気がした。
この声は――。
ノロノロと顔を上げると目の前にはあの日の少女と同じ金色の光があった。
そうだ、聞き間違えるはずがない。
あの日の俺を救ってくれた天使だ。
俺は立ち上がると真っ暗な空間に向かって、いつの間にか手にしていた剣で切り裂いた。
切り裂いた場所から光が溢れ出す。そしてその場からアーノルドの姿が消えた。
“チッ、もう少しだと思ったのに、邪魔が入ったか。まあいい。これからもチャンスはある”
闇の中から何者かの声が響いた。
目が覚めると俺はホテルのベッドで寝かされていた。側にはウィルが心配そうに俺を見ていた。
「アーノルド様!大丈夫ですか?ご気分はどうです!?どこか痛いところはありませんかっ?」
と矢継ぎ早に聞いてきた。
「大丈夫だが、喉が渇いた…。」
一体、どれくらい寝ていたのか。やけに喉が渇いている。
「すぐにお持ちいたします!それと何か食べられる物も用意させますね。アーノルド様は丸一日、寝てらしたのですよ。私はもう気が気じゃありませんでした!」
「それは、すまなかった。」
「おや?珍しいですね。アーノルド様が謝るなんて。」
「む。俺だって、悪いと思ったら謝るぞ。ほらさっさと飲み物取ってこい。」
軽口をたたく従者を追い出すと首にかけられているペンダントのロットを開いた。
そこには笑顔のレーナが俺を見ていた。
「なんだか、夢の中で君に助けられた気がするんだ。ありがとう。」
夢の内容は覚えていないが、あまり気持ちのいいものではなかった気がする。
それでも夢の終わりに彼女が助けてくれたことは何となく覚えている。
「おう、目が覚めたか。」
しばらくすると、師匠がエルヴィスと共に部屋に入って来た。
「ルド、体の方はどうですか?どこか痛い所とかありませんか?」
エルヴィスは心配そうに聞いてきた。
「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です。」
「そうですか、それはよかった。」
エルヴィスは安心したように微笑んだが、隣にいる師匠は難しい顔で俺を見つめていた。
俺はずっと気になっていることを二人に聞いてみる事にした。
「その、俺はあの時、何をしたのですか?記憶があまりなくて…。あの男たちに因縁をつけられて殴られそうになるまでは覚えているのですけど…。」
ウィルからの話によるとあの男たちはかなりの大怪我をしていて洩れなく病院に送りになったと聞いた。
俺の言葉を聞いて、師匠は椅子を俺の近くまで持ってきてドカッと座った。
「その事で、お前に大事な話がある。まあ、お前にとっては酷な話になるかもしれないが、聞くか?」
「聞きます。」
そこで聞かされたのは信じられないような話だった。
「つまり、俺がその『魔王』なる可能性があるということですか?」
「そうだ。」
「しかし、俺はその『魔王』とやらになるつもりは少しもありませんよ。」
「ですが、少し条件が揃いすぎているのです。魔王の手下に魔人という知性を持った魔物がいます。そいつらが何かしらの方法で魔王を誕生させることができるのではないかと、私達は考えているのです。そしてその方法はルドの意志とは関係なく魔王となり得るのではないかと。」
エルヴィスが補足するように話す。
「もし、俺が『魔王』になったら――。」
「その時は、俺がお前を倒さなきゃならねえ。」
「っつ!!」
近くで控えていたウィルが息を呑むのが聞こえた。
「それは嫌ですね。僕には目標があるので師匠に倒されるのは勘弁です。」
俺にはレーナをお嫁さんにするという最大の目標があるんだ。こんな事で躓いていられない。
「魔王にならないためにはどうすればいいのですか?」
「それがまだ調査中です。ただ、あまり負の感情を持たないようにしてください。負の感情は魔を引き寄せやすいので。」
エルヴィスの話に俺は頷く。
「あとは、何かあったら何でもいいので私達に話してください。魔人が何かをきっかけにしてルドに接触を図ってくるかもしれません。」
「わかった。気を付ける。」
「よし、じゃあ何かあったらすぐに言うんだぞ。…そして、これだけは絶対に忘れるな。俺達はいつでもお前の仲間だからな。」
「はい!」
俺が返事をすると、師匠は俺の頭をいつものようにガシガシと撫でた。
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