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1話 断罪の途中ですが、私思い出しました。

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ヴィクトリアは目の前の光景に無性に腹が立っていた。
一人の女の子 ―― クララを庇うように男性陣が立ち並び、私の隣に立っている友人のマーガレット様に卒業後の舞踏会というめでたい席で断罪劇が行われているのである。
その中に私の婚約者がいることにも苛立ちが募った。私の婚約者 ―― ジェフリーが朗々といじめの内容を読み上げている。

「―― 以上、マッキンレイ嬢はアルフレッド殿下がクララ嬢と親しくしているのを妬み、嫌がらせを行った! そういうことで間違いないでしょう!」

とドヤ顔で断定するジェフリーにプッツンと何かが切れた。


その時だった。

あれ?この場面、このやり取りどっかで見たことある ――。
どこだっけ?
クララの方をみた。
そうそう、私はあの位置から王子様達に守られながら悪役令嬢を見ていて……。

悪役令嬢?

「あ」

その瞬間、パズルのピースのように隙間が埋まっていく感覚に陥った。


この世界は私がやっていた乙女ゲームだ!
男勝りだとか言われていた私が普通の恋愛にあこがれてハマったゲーム『マジカル・ドリーム ラバーズ』略してマジラバの世界だ!!
そしてその攻略対象の中に私の婚約者、ジェフリーもいた。

そんなことを思い出している間に断罪は進んでいた。


「確かに貴族の令嬢としてのマナーを何度かご注意致しましたが、先ほどおっしゃっていた物を隠したり、ワザと転ばすようなことをしたり致しておりません! ましてや階段から突き落とすなどと恐ろしいこと… 私は絶対にしていませんわ!」

最後は声を震わせながらマーガレット様が否定を口にする。
肩を震わせ気丈に泣くのを堪えているようだ、そのお姿に胸が締め付けられるように痛んだ。
前世の記憶と今世との記憶が混濁しているが、マーガレットはあのゲームのように高慢ちきで意地悪な性格ではなかった。アルフレッド殿下を支えるためと王妃教育を熱心に勉強され人望もあった。とてもあんな幼稚な嫌がらせをするようには思えない。

「ちょっと一言いいかしら、マーガレット様がしたという証拠はあるのかしら?」

私は思わずマーガレット様を庇うように前に一歩立った。

「なんだ、ヴィクトリア。 ―― ああ、そうだ。お前もマッキンレイ嬢と一緒になってクララをいじめていたんだってな。そんな卑劣な事をする女は俺の妻に相応しくない。お前との婚約も破棄する!!」

「は? 馬鹿なの?」

思わず令嬢の仮面が剥がれた。
ジェフリーとの婚約は両家で決めた事、契約みたいなものだ。
それをこんな場で簡単に口にするなど、馬鹿とか言いようがない。

「ば、馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは。だいたい、なんだかんだと女のくせに口出ししてくるし煩わしかったんだよ、お前みたいな男みたいな女と一緒に歩くのも嫌だったし!」

確かに私は身長が高い方だ、ヒールを履くとジェフリーの身長を越してしまう。なので毎回低めのヒールを履いていた。


『やーい!おとこおんな~。お前、性別間違えて生まれたんだろ~。』

『わ~、おとこおんなが追っかけてくるぞ~、逃げろ~。』

前世の嫌~な記憶が蘇った。



私は無言ですっとジェフリーの前に立って肩幅まで両足を広げて腰を落とし構える。

「な、なんだ!?」

ジェフリーの困惑した声が聞こえたが無視して私は手に気合を入れる。



「すぅ~~~~~~、はっ!!!」



私が正気に戻ったのはジェフリーの腹に一撃を食らわした後だった。


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