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2話 『三十六計逃げるに如かず』なのです!
しおりを挟むはっと気づいた時には後の祭りだった。
「ぐはぁっ!!!!」
スローモーションのようにジェフリーの体が少し浮いてそのまま床に崩れ落ちていく。
「きゃあーーー!!」
一瞬の静寂の後、クララの悲鳴で会場にどよめきが広がる。
マズイ。
ひじょーに不味いですよ、ヴィクトリア!
な、なにか言わなければ………。
「ふ… ふふふ、私の子猫のようなパンチで倒れる軟弱者など、こ、ここっちから願い下げですわ! オーホホホホ!!」
腰に手を当てて悪役令嬢っぽく高笑いをする。
いや! そうじゃないでしょー!! と自分にツッコミを入れたいところだが前世の記憶も蘇ったことにより私はかなり混乱していた。
ちょっと茶目っ気を出して周囲を和ませようとしただけなのに!
そしてそんなシーンと静まり返る中でヴィクトリアに果敢にも話しかける者がいた。
「そ、そのメイスフィールド嬢?」
呼びかけたのはこの国の第二王子、アルフレッド様だった。
そのことにヴィクトリアはますます狼狽した。
王族の前で暴力沙汰を起こすなどあってはならないことだ。
『ヴィクトリア殿! 殿中でござるっ、殿中にございまするぞ!!』
ヴィクトリアの頭の中では前世の父が好きだった時代劇のワンシーンがこだまする。
終わった………。
警備をしている騎士が少しずつにじり寄ってくる。
アルフレッド王子の命令によってはすぐに捕らえられるだろう。
もう、こうなったら――
この場から逃げるしかない。
「アルフレッド殿下! 私、あまりの出来事に心身共に疲労困憊なんですの! 今も立っているのがやっとで……。」
とワザと体をふらつかせた。
「そ、そうか。それは大事だな。」
王子様も大分混乱しているらしい。
「舞踏会の途中ではございますがこの場を辞する事をお許しください。」
「あ、ああ……。身を大切にしてゆっくりと休めるといい。」
「アルフレッド殿下のお心遣い痛み入ります、では御前失礼致します。」
な、なんとかこの場を抜け出せそうだ。
内心、安堵しつつ会場を後にしようとした。
「アルフレッド様、私はヴィクトリア様に付き添って家までお送りいたしますわ。よろしいでしょうか?」
それまで黙っていたマーガレット様が私の側に寄ると私の体を支えるようにしてアルフレッド王子に言った。
「ま、待て、君とは話したいことが……。」
「今、お話をしてもお互いに冷静に話し合うことはできないでしょう。日を改めましょう。その時は、私の父もご一緒させていただきますわ。」
さっきまで不安そうに揺れていた瞳は、今は強い眼差しでアルフレッド王子を見つめていた。
「……わかった。では、メイスフィールド嬢の事をよろしく頼む。」
アルフレッド王子は何かを言いかけたがそれをやめて、目を伏せてマーガレット様の申し出を許可した。
こうして悪夢のような断罪劇から抜け出すことができた。
いろいろとやらかした感は否めないがまあ、何とかなるよね!
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