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12話 アレクに全部話しました。

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「な、何者って、私はヴィクトリア・メイスフィールドよ。」

急に殺気を向けられて気が動転したが、質問されたことを馬鹿正直に答えた。

「ふ~ん、まだ白を切る気か。周りから聞いていたヴィクトリア嬢の言動と今のお前では全く別人のようだ。口調もおおよそ令嬢らしくない。しかし、たまたま今日、ヴィクトリア嬢の姿絵を見る機会があってね。その絵はお前そっくりだった。」

剣はそのままいつでも切れるぞとばかりに動かさず、アレクが疑問を口にする。

たしかに、いままでのヴィクトリアわ た しなら今日の振る舞いは気がふれたレベルに思われるだろう。
さて、困った。このピンチをどう切り抜けよう。
逃げることはできない、逃げた時点でやられるだろう。

「私は、ヴィクトリア・メイスフィールド。それ以外の何者でもないですわ。ただ、少し今までと状況が変わりましたの。」

「状況が変わった?」

私は、すべてを話すことにした。
誤魔化すことはできるかもしれない。でも、それをしても無意味だと殺気を当てられたとき気づいた。

それは前世で培った、経験と勘だ。
前世で柔道、剣道、空手などそれなりにやっていたから対戦する相手の発する覇気を読むことができる。

アレクのそれ・ ・は、真っ直ぐで己の信念を貫くという意思の強さが垣間見られた。
だから、下手な嘘はつきたくない。
例え、アレクにとって突拍子のない話であっても気がふれたと思われてもすべて話すことにした。

「全て嘘偽りなくお話しします。ただ、アレク様にとっては多分、とても信じられないようなことだとは思いますがどうぞ最後まで聞いて判断してもらえないでしょうか?」

「……わかった。聞こう。」

そう言って剣を鞘に納めてまた私の向かい側のソファへと座った。

「アレク様は、『前世』というのをご存じですか?」

「前世ぇ??」

「そうです『前世』、ヴィクトリアとして生まれる前の記憶が私にはあるのです。」

「生まれる前の記憶…… どういうことだ?」

「私がヴィクトリアとして生まれる前、私は『日本』という国に住んでいました。そこはここより発展していて便利なものがたくさんあり、魔法は全然使えませんでしたが技術の進歩が著しく、人々を乗せて空を飛ぶ乗り物などもありました。信じてもらえるかわかりませんけど…。」

「―― いや、なんというか、予想の斜め上の話で少々混乱している。まあいい、続けてもらえないか。」

「そこには沢山のゲーム ――― 娯楽がありまして、私がやっていた乙女ゲームというのがあったのです。」

ここら辺言うのなんか恥ずかしいのだけど、もうここまで来たら最後まで突っ走るしかない!

「乙女げえむ?なんだそれは。」

「そうですね… 有体に言えば殿方との恋愛を楽しむものです。」

「恋愛…… その国とは恋愛もできぬほど厳しかったのか?」

「いえ、自由恋愛できますよ! ただ、いろいろなシチュエーションで恋愛を楽しむというのが醍醐味というか…。コホン、ま、まあ! そういうものがあるとだけ認識していただければ結構です。」

「う、うむ、わかった。そういうものがあるのだな。」

「で、その中でいろいろな恋愛シチュエーションがあるのですが、そのひとつにこういうお話がありました。」

私はナレーション口調で話し始めた。




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ある日、平民として生まれた少女が希少な光の魔法が使えるという事がわかった。
その力を見込まれ、男爵の養女となった彼女はその国の王立学園へ通うことになった。
最初は平民と蔑まれていた彼女だったが、持ち前の明るさと勤勉さに次第に周りの目も変わっていった。
そんな彼女に第二王子は次第に惹かれていく。
(あ、ここは別の殿方とかもありますよ)

そんな中で、王子や貴族の令息達には必ずライバルになる婚約者がいてその婚約者 ―― 悪役令嬢と呼ばれていたのですがその悪役令嬢の嫌がらせに耐えたり、襲い来る危険を避けたりしてますます二人の絆が深まっていきます。

そうして迎えた学園の卒業式後の舞踏会で、今までの罪が暴かれた悪役令嬢はそのまま断罪されます。

そうして、苦難を乗り越えた二人はめでたく結ばれました。
ちゃんちゃん♪

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「なんだか、突っ込みたいことが山ほどあるのだが、その話の内容と今回の件が似ているという事か?」

話の途中から頭を抱えていたアレクは疲れたように顔を上げた。

「そうですね、わたしも今日断罪されている途中で、この場面見たことがあるなあと思い始めたのをきっかけに前世の記憶が蘇ったのです。とても信じられないと思いますけど。しかも今回は逆ハールートですね。」

「ぎゃくはー?」

「逆ハーレムの事です。攻略対象 ―― つまり、第二王子や私の婚約者だったジェフリー、他3名の貴族の令息達を見事に落としていましたから、彼女。」

「頭が痛くなってきた。」

「でも、それが変なんですよ。私とジェフリーは昔から犬猿の仲だったからいいとして、第二王子とマーガレット様はクララが転校してくるまではそれは仲が良くって、真面目なアルフレッド様がまさかと思いましたわ。」

「そうだな。何度かお二人が王宮の庭で楽しそうに話されているのをお見かけしたことがある。」

「もう一つ、あのゲームの中のマーガレット様はまさに悪役令嬢らしく高慢ちきで我儘し放題の人だったのです。でも、現実のマーガレット様は慈悲深くて誰にでも分け隔てなくお話される方です。イジメの首謀者になるなんて考えられませんわ。」

そう、これがかなり気になっている点だ。ここはあのゲームとあくまで似ている世界であって、まったく同じではないように思える。
それを誰かの手によって、またはゲームの強制力なのかあのエンディングを迎えることになった。

「私の話は以上ですわ。」

「ふむ、奇想天外な話だったが、今回の件はお前が話したげえむの内容に酷似しているが全く同じではないという事だな?」

「はい、もしかしたら私のように前世のそのゲームを知っている人がゲームと同じようになるようにしたのかもしれません。」

「ふむ、わかった。まだ、完全にはお前の事を信じるとは言えないがとりあえず保留でいいか?」

「ご自由に。それで私の話を聞いても私を雇いますの?」

私はすべてありのまま話したし、信じるか信じないかはアレク次第だもの。ただ、雇うのか雇わないかは私の今後の生活にかかってくる。

「いや、ますますここにいてもらった方がいい。聞きたいことが山ほど増えた。だが、今夜は俺も疲れたから、明日にまた聞くことにする。君も空いている部屋に案内するから今日は休みなさい。」

ぐったりした感じで言ってきた。
まあ、この時間から宿を探すのも面倒だし一晩だけならいいかなと思いアレクの屋敷に泊まらせていただくことにした。


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