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15話 メイド生活1日目の朝です! ②

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「うまい!!」

アレクが朝ご飯を口にすると驚いたように私を見て一言感想を言った。
まさか本当に作れると思われてなかったのかもしれない。
ちなみに作ったものはスクランブルエッグにパンのトーストそれと野菜スープにサラダの盛り合わせだ。
一人暮らしをしていたと聞いていたが自炊もちゃんとしていたらしく大体の材料と調味料が揃っていて助かった。

「即席で作ったものだから、お口に合うか分からなかったのですけれど喜んでもらえて嬉しいです。」

「いや、これほど美味しい料理は中々ない。そこら辺の店にも負けてないぞ。」

「恥ずかしいのでそんなに褒めないでください。それより今日から始めるお仕事の内容をお決めいただきたいのですけど。」

「仕事……。」

「そうですわ! 雇われたからにはキッチリとお仕事させていただきますので! どんどんお申し付けください。」

仕事内容を把握していなければ効率よく働くことが出来ない。就職初日はまずそれらを確認する事が大事なことだ。

「……えーとな、そのことなのだが、やっぱり令嬢を働かすというのはマズイんじゃないかと思い始めているのだが、昨日はノリで言ってしまったがやはり君はここでは客人という扱いでいてもらうことにしたいのだが… あ、君付きの侍女はすぐに用意する!」

なんだか、歯切れが悪くポツポツと話すアレクに自分でも目が吊り上がっていくのがわかる。

「へえ~、アレク様は一度おっしゃったことを反故にする不誠実な方でしたのね。」

「いやっ、 そういう事ではなくてな、おま・・ヴィクトリア嬢を俺の屋敷で働かせていると宰相殿に知られたら俺の首と胴が離れてしまうかもしれないのだ!!」

そう言うアレク様の顔色が心なしか悪いのは気のせいだろうか。

「何も正直にお父様にご報告されなくてもよろしいのではありませんか。昨夜はアレク様、ご自身でお父様の事は話をつけるとおっしゃったので安心しておりましたが、雇用しないと言うのなら私は新しい雇用先を探しますわ。」

「いや、まてまて、どうしてそうなる。お前はこの屋敷に居てくれないと困る。どうしてそう働きたがるのだ。」

「私の以前住んでいた国の言葉に『働かざる者食うべからず』というのがございます。働いてこそ食べることができるし物を買うことが出来ます。」

「いやいや、君は公爵家の令嬢だ。働かなくてもいいのだよ。」

「アレク様、お忘れかもしれませんが私は昨日、学園を卒業しております。卒業後は成人扱いとなりますので自分の行いに責任を持たなければなりません。不測の事態だったとはいえ婚約者に手を出したのは事実ですからその責任を取らなければなりません。私は覚悟を持って平民になると家を出てまいりました。ですから今日から私の事は平民として扱ってください。」

「……………。」

アレク様は言葉も出ないようでじぃと見つめてきた。私もここで負けられないと睨むように見つめ返した。

やがて諦めたようにアレク様は大きくため息をついた。

「はぁ~…。まったく親子そろって頑固だな。わかった。ではメイドとして働いてくれ、よろしく頼む。」

「はいっ、精一杯務めさせていただきますわ!」

「とりあえず、屋敷内の掃除と管理をお願いする。君は好きなところを自分の部屋に当てなさい。」

「私、このお屋敷に住むのですか? てっきり通いかと思いました。」

「俺は、騎士団にも私室があってそこでだいたい寝泊まりをしている。めったにここへ来ることはないのだが、こちらもいろいろと事情があってね。まあ君が屋敷内にいてくれたら俺も助かるのだ。食材や仕事に使う備品は金を預けておくから好きなように使ってくれ。君の衣食住にかかわる金もそれから使ってくれ。あと、給与だがメイドの給与の相場がわからんからそれを調べてからでいいか?」

「もちろんいいですわ!衣食住の保証にお給料までもらえるなんて、なんて好条件のお仕事なのでしょう! ありがとうございます。私、がんばりますね!」

「あ、ああ…… ほどほどでいいぞ。」

アレク様のなんだか呆れたような声が聞こえたようだが気にしない。



さて、どこから手を付けようかヴィクトリアはウキウキしながら掃除する場所の計画を立て始めた。


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